理事長コーナー
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サービスモデルプロジェクトって何?

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :5月号

 PMAJの発行しているP2M標準ガイドブックの中に、3Sモデルというフレームワークがあります。プログラムは、スキームモデル・プロジェクト(構想・企画)、システムモデル・プロジェクト(実行)、サービスモデル・プロジェクト(利用・運用)で構成されているというフレームワークです。
 構想・企画プロジェクトで決定した要件を、実行プロジェクトで実現するという仕組みは理解しやすいですが、利用・運用プロジェクトというのはちょっと分かりにくいかもしれません。今回は、サービスモデルプロジェクトって何か考えてみたいと思います。

 私がシステム運用部門を担当していたころ、新しいシステムを導入し、運用を始めてみると、運用部門の負荷が高くなりすぎて運用できなくなることがありました。
 私は、当時流行り始めたITIL (Information Technology Infrastructure Library:システム運用のベストプラクティス集のこと。当時はバージョン2でした。)に規定されていたサービスデスクを設置し、利用者から上がってくる利用上の問題点の解決を最優先にして、そこを起点にしてシステム化計画を企画するようなサイクルに変えていきました。
 その延長線上で、「運用が最上流だ」という方針を設定し、運用部隊と開発部隊の連携を強化し、最終的には運用部隊と開発部隊を統合する組織に変更して行きました。要は、利用者の体験価値からフィードバックを受けて、体験価値の改修を迅速に稼働させる仕組みへと移行していったという事です。
 この、ユーザー体験価値(UX)とか、顧客体験価値(CX)を迅速に改善するという話、どこかで聞いたことありませんか。そうです。最近話題になる、DX(デジタルトランスフォーメーション)の議論の中で、「UXを改善することこそがDXなのだ」をいう文脈で語られることを良く見かけます。「日本の企業はDXが遅れている」と言われていますが、企業の運用部門ではUXの継続的改善は、昔からずっと行われてきています。では、DXとの違いは何かというと、サービスの適用範囲が大きく変わってきていることだと思っています。
 国勢調査から日本の産業別就業者の割合の推移を調べてみますと、1950年(昭和25年)に第1次産業は48.5%、第2次産業が21.8%、第3次産業が29.7%であったのに対し、2015年では、第1次産業は4%、第2次産業が25%、第3次産業が71%と、劇的に変化しています。今や日本の産業構造はサービス業中心になっています。
 ところが、サービスには、次のような特性があることは、あまり知られていません。
  • 無形性 : サービスは形をとることができない。したがって初めて利用しようとする顧客の不安をいかに払しょくするかが重要となる。
  • 生産と消費の同時性 : サービスは生産される場所で同時に消費される。
  • 顧客との共同作業 : お客がサービス活動に参加する。
  • 結果と過程の重要性 : サービスでは顧客は結果と過程の両方を経験し、その両方が顧客にとって重要となる。ある種のサービスでは結果よりも過程が重要となる。
 この特性を見ると、サービス産業が7割を占める現代社会においては、顧客との共同作業が業務の大半を占め、顧客の体験価値に対する要求を、いかに迅速に実現して行くかが、企業の競争力に大きく影響することが分かります。
 そうなってくると、このサービス提供の部分を、顧客からのフィードバックに応じていかに迅速に改善して行くかが大きな課題になってきます。この辺が、サービスモデルプロジェクトの重要性だと考えられます。
 3Sモデルとして並べてみると、
  • スキームモデル : 構想・企画プロジェクトでユーザー要求を確定する。
  • システムモデル : 実行プロジェクトでユーザー要求を確実に実現する成果物を提供する。
  • サービスモデル : ユーザーからのフィードバックを受けて、体験価値を継続的に高める。
 というような関係になるのかもしれません。
 最近では、プロジェクトエコノミーという言葉で、経済活動の多くがプロジェクトで構成されるといわれることもありますが、その本質は、経済活動が劇的にサービスへシフトして来ていることから、サービスモデルプロジェクトの重要性が大きくなったという事なのかもしれません。
 それにしても、2002年当時に、このサービスシフト、プロジェクトエコノミーへの変化を予想して、3Sモデルというフレームワークを作り上げた先達の先見性に、心から敬意を表したいと思います。

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