『第283回例会』報告
増沢 一英 : 5月号
【データ】
開催日: |
2023年3月24日(金) |
テーマ: |
「価値を生み出すプロジェクトマネジャーを目指して」
~DX時代に求められる人財像を考える~ |
講師: |
株式会社アイ・ティ・イノベーション
DX推進西日本グループプロデューサー
奥田 智洋 氏
PMAJ 『価値創造型PM人財育成研究会SIG』 代表 |
◆はじめに
デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代には、様々な発想や手段でこれまで以上に新しい価値を提供していくことが求められる。決められたこと、与えられたことを実行することは勿論、さらに、プロジェクトマネジャー(PM)自身の、新しい価値を創出するための発想や行動変革が必要になるであろう。
本講演では、DX時代のPM像を仮説立てし、DX時代のPM人財育成の提案を紹介する。そして、皆様がDX時代に求められる人財像を考える糸口になる事を願っている。
このDX時代の人財育成に関するテーマは、今後、SIG(注)での意見交換を経てまとめる予定である。多くの方からの、幅広い意見を伺えれば幸いである。
(注)PMAJ 『価値創造型PM人財育成研究会SIG』
◆講演の内容
<DXって何なのか>
- ① 品質と価値-自分のプロジェクトを振り返る。
富士通で28年ほど、自動車製造関連のプロジェクトマネジメントと、組織統括業務に携わった。その経験から、「品質管理に拘って、悩みを共有することが、お客様の価値向上に貢献し、現場のモチベーションとマネジメントの効率も向上する」という気付きを得た。
- ② デジタイゼーション(Digitization=デジタルデータ化)、デジタライゼーション(Digitalization=プロセスのデジタル化)、デジタルトランスフォーメーション(DX=組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革)、のステップでDXが進む。デジタルとは、誰が見ても明らかに同じ数値(ことば、単語、文字と同様に)であり、ディスカッションの共通のベースになる。DXとは、デジタルデータに基づいた顧客の価値の創出である。
<「価値創造」型人財の育成>
- ① データに興味を持つこと
ビジネス活動の仕組みを、BA、DA、AA、TA、の4階層で考えると分かりやすい。
BAは概念的なビジネスの本質で、DAはBAに直結するデジタルなデータである。BAとDAはビジネスの本質や戦略が変わらない限り不変である。そのため、DX時代の価値創造型の提案には、先ず、ビジネスの課題にリンクしたデータ(DA)に興味を持ち、データに基づいて、IT施策の重要度を判別し、プロジェクトを成功させる。つまり、データに興味を持つことが極めて重要である。また、データに興味を持つと、自ずと、対象領域が社外全般にまで拡大し、幅広い領域で理解できる。価値創造型の人財は、データに興味を持っている人財である。
一方、AAは特定のDAを処理するアプリ、TAはサポートする技術基盤で、これらは技術の変化が激しい領域である。目先が向きがちな領域だが、AAやTAに最初に着目することは、Why-What-Howのうちの、Howに着目することである。往々にして、ビジネス課題から乖離する。
- ② 価値創造型提案のための3つのスキル(開発スキル、データ志向、業務知識)
開発スキルは必須である。データ志向に加えて必要なのは、業務に関する熟練した知識とスキルである。
「業務とデータのW観点からの業務提案」ができる人財が、価値創造のための提案には必要になる。
<構想企画の重要性を理解する>
- 実際に価値創造型の提案をする場合、「構想企画」のプロセスが重要になる。プロジェクトで発生する問題の殆どは、目的曖昧、現行見えない、技術不適切、無理な計画、といった、構想企画の不備から派生する。
RFPやプロジェクト計画書を作成する、BOSCARでプロジェクトを可視化する、業務フローや手順書を均一な粒度で作成する、リスク管理表を作って運用する、WBSを作成する、等の基本手順を確実に実施する。その結果、ビジネス課題からWhy-What-Howの手順で繋がっているプロジェクト計画が必須である。
こういった構想企画を立案できる人財が、DXの時代に求められるため、人財育成の面からも、できる限り若手も起用して、意見を交わし、若手のスキルとモチベーションの向上を計ることを提案したい。
若手には非常に難しいが、一部の基本手順をできる限り若手に委ねることは可能である。問題発生後のリカバリーに若手が投入され疲弊しているのが、多くの実態ではないか。
<自分のプロジェクトとして捉える-PMに必要な成功体験>
- ① My Dream:
DXの環境は変化が速い。PM自身が何をどうしたいかを明確に示し、プロジェクト優先度を決めて、プロジェクトを遂行することで、成功裏に完成させることができる。
だから、PMは、「成功しなくてはならない」から、「成功することが大好き」という、ポジティブに成功体験を活かす人である。これには、夢工学の思考が役立つ。
- ② 最後に、My Dreamを実現するために、PMに必要な成功体験を、講師の考える4つの軸に落して提案する。
- ● プロジェクトがMy Projectになっているか? :
実現したいことをはっきりと描くことができる「人」
- ● プロジェクトの成功はMy Successと思えるか? :
成功は成功の母、プチでも良い!成功できた感動を得た「人」
- ● プロジェクトの関係者はMy Teamになっているか? :
期待から信頼へ、チームメンバーを誰よりも知り尽くしている「人」
- ● プロジェクト成果の価値はMy Valueと思えるか? :
価値を生むためには何をすべきか知っている「人」
… 客先の課題を理解して最初の一歩を踏み出し、最後には、お客様に言われたこと以上の、+αの価値の上乗せをする努力。
◆講演を聞き終えて
DX時代は、+αの価値を創造するPM像を追求した視点でのご講演は、とても新鮮で、自分のプロジェクトにするための成功体験としてご説明のあった、4つの軸は、自分には、充分納得できた。
自分が注目したお話があった。My Teamとは、チームのストレスとモチベーションを理解し、信頼して、自分の目指す価値の実現に向ける、ということで、メンバーを単に自分の夢に誘導するのとは全く違う、ということ。育成=指導というイメージを、自分はまだ捨てきれていない。ハッとした新しい気付きだった。今回の例会はWBC決勝の2日後だったが、これはまさに、準決勝でサヨナラ2BHを導いた、栗山監督の行動そのものではなかったか??!!
公演中、講師は頻繁に、PM人財像に対応付けて、若手の人財育成に触れられていた。チームは常に向上し、育たなければならない、というふうに理解し、心に刻むことができた。
最後に、ご多忙中にもかかわらず、貴重なお話を聞かせて頂いた奥田様に厚くお礼を申し上げます。
講師が代表を務める、PMAJ 『価値創造型PM人財育成研究会SIG』 は、聴講参加も可能だとの事なので、興味のある方は聴講されてはいかがでしょうか。PMAJまでご連絡ください。
例会では、例会テーマおよび、例会運営のメンバーを募集しております。例会の活動にご関心をお持ちの方は是非、PMAJまでご連絡ください。 |
|