例会部会
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『第282回例会』報告

田邉 克文 : 4月号

【データ】
開催日: 2023年2月24日(金)
テーマ: 「 『できること』 から 『やるべきこと』 へ」
~ロードマッピングによる不確実性へのチャレンジ~
講師:  
イノベーションマネジメント株式会社 シニアマネージングコンサルタント
(ロードマッピングSIG主査)        佐藤 祐也 氏

◆はじめに
VUCAと呼ばれる不確実性の高い環境下で企業が生き残っていくためには、従来の延長線上で「できること」から、将来の目指す姿を起点とした「やるべきこと」に軸足をシフトする必要がある。言い換えると「不確実性へのチャレンジ」が求められていると言える。そして、そのチャレンジを支える有効な手法がロードマッピングである。ロードマッピングと聞くと「ロードマップを作成する事」を想像するが、「ロードマップを如何にして有効に活用するか」ということが重要である。
今回の例会では、佐藤 祐也氏を講師にお招きし、欧米中心の学術的研究から得られた枠組みを基に、日本企業の実践事例を分析した結果として、ロードマッピングにおける成功要因を整理し、効果的な実践ポイントを講演していただきました。

◆講演内容

<なぜ今、ロードマッピングなのか>
  1. ◇不確実性の高い時代では、従来の延長線上のみの活動ではリスクとなっているため、将来を見据えた先行投資や取り組みが必要となっている。その中で不確実性の高い業界として自動車業界、医薬品業界が挙げられる。
  • 自動車業界は、保有するから利用する(シェアするもの)への変化
    →自動車メーカーをトップとしたピラミット構造が、新しいプレーヤー(Uber等は利用をメインとする)が参入し、業界構造が変化している。
  • 医薬品業界は、従来は医薬品を開発して提供するビジネスであった。
    →対象範囲を予防から予後まで広げ、新しい切り口での対応が必要となっている。
    いずれの業界も既存の主力事業領域に留まり続けることがリスクになってきており、チャレンジが求められる状況にある。

<ロードマッピングの意味と意義>
  1. ◇「ロードマップ」の定義として、以下の2つが挙げられる。
  • 目標とする場所に辿り着くための道筋を示すマネジメントツールである。
  • 具体的な達成目標を掲げた上で、目標達成の為にやらねばならいこと、困難なことを列挙し、優先順位を付けた上で、達成までの大まかな計画の全体像を、時系列で表現した書物である。
  1.     いずれの定義も、目標があり、そこへの道筋を示すことが共通している。
    ロードマップは今やっていることが書かれているだけのものではなく、それが何のためにやられているのか、目標がはっきりしていないとロードマップとは言えない。
  2. ◇ロードマップの歴史は、1970年代 モトローラ社によって作成されたカーラジオの技術ロードマップから始まり、技術の開発計画を時系列に描かれたもので、その書き方は現在も大きくは変わっていない。
  3. ◇なぜ、ロードマップが必要なのか?
    研究開発の課題を例に説明すると戦略と実行が乖離している企業が94%も発生しており、このギャップを埋めるための手法の1つとしてロードマップが必要とされている。
  4. ◇企業におけるロードマップの用途例
    主な用途として、将来議論社内整合アイディア創出社内説明対外アピール等がある。
    例えば、将来のシナリオについて可視化して議論する際にロードマップを活用するといった使い方である。
  5. ◇「ロードマップ」と「ロードマッピング」の違いについて
    「ロードマップ」は、成果物(名詞)で、「ロードマッピング」はプロセス(動詞)の位置づけとなる。ロードマッピングSIGではロードマッピングを以下のように定義している。
    「ロードマッピング」とは、
  • 適切な先行投資の意思決定を行うために、市場環境の分析により製品の要件と目標を定義し、目標達成に必要な技術及び組織能力と、その達成に向けた道筋を明らかにする長期的な計画策定のプロセスである。
  • 加えて、その成果物であるロードマップを継続的に更新すること、及び各種マネジメントに活用することを含むプロセスである。

  1. ◇ロードマッピングの構造
    ロードマッピングは、3つのレイヤーから構成される。
  • Why…なぜその製品/サービスなのか?なぜそのタイミングなのか?
         (マーケットのニーズ、事業戦略が背景にある。)
  • What…自社として世の中に提供する製品やサービス
  • How…現状とのギャップどう埋めていくか?(技術・資源)
  1. ◇ロードマッピングの代表的なプロセスと重要な考え方
    「代表的なプロセス」
    事前活動技術ロードマップの作成(7Step)事後活動
  • 実施時のポイント
  • 活動を推進するための資源の確保(主に人的資源)
  • 主要な意思決定者から活動に対する賛同を得る。
  • ロードマップ策定メンバーの選定は成否に大きく影響する。
  • 様々なステークホルダーに受け入れられる必要がある。
  • 投資の意思決定が行われて初めてベネフィットが享受される。
  1.     「重要な考え方」
  • バックキャストとフォアキャスト
  • マーケットプルとテクノロジープッシュ
  1. ◇ロードマッピングの注意点
  • ロードマッピングは単なる方法論ではない。
    決まった手順を踏めば自動的に進んでいくようなものではない。
  • ロードマッピングは戦略立案のプロセスである。
    市場の洞察や創造性、組織の英知を結集した論議が求められる。
  • ロードマップはそれらしい体裁にまとまっていても、
    そこに魂(戦略、意図、覚悟)が込められていなければ、所詮は絵である。

<事例からみるロードマッピングのポイント>
  1. ◇自動車部品メーカーの実践事例
  • 自動車業界の厳しい状況、異業種を含む各社の覇権争いが激化している中、
    完成品メーカーから部品メーカーへ将来の方向性を問われていた。
  • その部品メーカーでは、中長期を見据えたロードマップが無いため、短期目線の場当たり的な技術開発を繰り返し、他社に遅れをとっていた。
  • ロードマップ策定の代表的なプロセスにしたがってロードマップを作成した。立上げには、トップマネジメントも関与し、適切な人材を集めて進められた。
  • その後6年が経過し、計画していた新規事業が立ち上がり、収益を生み出している。
  1. ◇自動車業界の事例の他に、建設、医薬品業界を含めた計3社の事例調査より、
    以下のポイントが明らかになった。
  • 危機感の共有と、力的なTo-beによる現場社員の巻き込み、惹きつけ
  • 作成目的の明確化と継続的な共有、継続的な人材育成による形骸化や中断の防止

<今後の課題検討>
  1. ◇2年目のSIG活動より明らかになった課題の一例は以下の通り。
  • ロードマップピングの実践におけるポイントの整理
  • ロードマッピングの標準プロセスの設計
  • P2M標準ガイドブックへの提案
  • デジタル化手法等の検討・整理
  • 既存マネジメント手法(シナリオ・プランニング法など)との関係整理
  1. ◇SIGの活動は14名のメンバーで構成され、月2回程度 活発な議論を行っている。
    (※ご興味がある方は是非ご参加ください。)

◆講演をお聞きして(所感)
ロードマップ自体については身近な用語なため、今回の講習は自分の知識の延長との理解で臨みましたが、実際に講演をお聞きして、ロードマップ/ロードマッピングの大切さ、重要さを再認識することができました。普段何気なく接している投資計画や中期経営計画を見る際にも、ロードマップの観点で見返して考えてみたいと思います。有意義であり、大変役立つ時間を過ごさせて頂き有難うございました。

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