『第281回例会』報告
中前 正 : 2月号
【データ】
開催日: |
2022年12月23日(金) |
テーマ: |
「グローバル×AI翻訳時代の新・日本語練習帳」
~AI翻訳を悩ませない、かつ、グローバルに通用する日本語の書き方とは~ |
講師: |
レジュメプロ代表 兼 グローバル企業人事
井上 多恵子 氏 |
◆ はじめに
読者の皆さまの中には、日頃の業務において、日本語のみならず英語でドキュメント類を作成する機会のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。その際、英語の表現能力を十分備えている人には必要がないかもしれませんが、そうではない人にとって役立つのが翻訳ソフトウェアや翻訳ウェブサービスの類です。ただ、近年はAIの技術も進歩して以前に比べると高精度になってきた感はありますが、それでもいざ日本語を入力して「翻訳」ボタンを押してみると、ややピントがズレた英文を提案されることがあります。
ところで、正しい英文を導くためのコツの一つとして、日本語と英語の構造的な違いを理解し、日本語独特の表現や言い回しをなるべく排除した日本文を書いてから翻訳をかける、というアプローチがあります。
グローバル化が進む昨今、私たちには、国内外のステークホルダーにとってより分かりやすく伝わりやすい表現でドキュメントを書くことが求められています。そこで今回の例会では、先日『グローバル×AI翻訳時代の新・日本語練習帳』(BOW&PARTNERS発行)を上梓された井上多恵子氏を講師にお招きし、AI翻訳というツールを活用しつつ、上記アプローチによってグローバルに通用する表現を導く手法をご教授いただきました。以下、要点を抜粋して紹介します。
◆ 講演内容
<ゴール>
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グローバル・コミュニケーションのルールを知ること |
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グローバル・コミュニケーションのルールを踏まえて多様な相手に伝わる分かりやすい日本語を書くこと |
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AI翻訳を活用すること |
<前提>
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日本語はハイコンテクストの言語であり、人々の間で共有されている情報に頼ったコミュニケーションとなる。ローコンテクストな英語に比べると曖昧な表現を含んでいる。 |
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日本語では読み手が行間を読むが、英語では読み手は行間を読まない。そのため書き手が分かりやすく書くことが必要。 |
<実演内容>
※当日は、プログラムマネジメントやプロジェクトマネジメント領域で実際に使われている日本語を「DeepL」というAI翻訳サービスを用いて英文に翻訳しながら、分かりやすい日本語表現を導く手法が披露されました。ここではそのポイントを一部抜粋して紹介します。
- 主語が書かれているか? 書かれていない場合は、AI翻訳が文脈から主語を適切に推測できるか?
日本語では主語を省略することがあるが英語では必要である。AI翻訳が文脈から正しい主語を推測して翻訳できればいいが、できない場合もあるので日本語でもしっかり書くようにする。
- 文が完結しているか?
述語・述部を明確に表現しておらず、文として完結していない日本語は、AI翻訳でも完結していない状態の英文が導かれてしまう。そのような場合は述部を補って文として完結させるとよい。
- 理解しやすい文の長さになっているか?
1文として長すぎる日本語をAI翻訳にかけると、英文の途中で主語が追記されて前後のつながりが不自然になることがある。日本語では主語がなくても通じるが、英語ではその長さだと主語があった方がいいとAIが判断するため。
また複数の内容や要素を1文で表現しようとするとどうしても長くなる。その場合は始めから2文以上に分けて書くとよい。
- 大事なことが先に書かれているか?
1文が長くても、結論ファーストで前から理解していく文章構造にすると、読み手は全体像を把握しやすくなり、日本語、英語ともに読みやすい文となる。
- 伝えたいことが、重複なく、シンプルな日本語で書かれているか?
1文の中で同じ単語が重複して出現すると、AI翻訳はそれを忠実に翻訳して冗長な英文になることがある。また日本語では格式ばった表現をすることがあるが英語の世界ではあまり必要とされない。重複のないシンプルな表現で構成するとよい。
※当日は他にも以下のようなポイントが紹介されました。本記事を読んでさらに興味を持たれましたら、書籍『グローバル×AI翻訳時代の新・日本語練習帳』(BOW&PARTNERS発行)をご参照いただければ幸いです。
- 省略により、誤解を生みやすくなっていないか?
- 読み手にとって、最も分かりやすい場所に、単語を置いているか?
- 「こそあどことば」が指していることは明確か?
- 文と文は、適切に繋げられているか?
<まとめ>
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日本語はハイコンテクストの言語 |
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ローコンテクストの英語に比べると、日本語はどうしても曖昧な表現になる |
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読み手が間違わないように、Plain Japaneseで書くことを心がけてほしい |
◆ 講演を聞き終えて
普段プロジェクト憲章やプロジェクトマネジメント計画書といったドキュメントの作成に携わる中、(自分自身も含めて)周囲には正確で分かりやすい表現を書ける人が少ないな、と感じていたタイミングで本講演を聞くことができ、目から鱗が落ちたような感覚になりました。また今回は「日本語を母国語とする者が、英語の側から、日本語表現のあり方を学ぶ」という、ある意味逆説的なアプローチが斬新で、多くの気づきを得ることができました。
私は、プロジェクトマネジャーにとって重要なスキルの一つに、分かりやすいドキュメントでステークホルダーに自らの意思を伝える「ドキュメント力」なるものがあるのでは、と日頃から考えています。講演を聞き終えて、自身のプロジェクトを成功に導くために今後もこのスキルを磨いていきたいと強く感じました。当日参加された皆さまはいかがでしたか。
例会では、今後もプロジェクトマネジャーにとって有益な情報を提供してまいります。引き続きご期待ください。
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