PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(182)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :5月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●筆者の作曲論が読者の創造活動に役立つ事を願って
 本稿でデザイン思考、アート思考、アーティスト思考、そしてデック思考の発想法を何度か議論してきた。また既存事業の改善や新規事業の達成の為に絶対不可欠な「優れた発想(アイデア)」を如何に生み出すか? も議論してきた。

 以上の議論に筆者の作曲の「在り方(基本的考え方)」と「やり方(具体的方法論)」が役立つかもしれないと思い付いた。この事を先々月号に記した。先月号では筆者の非音楽事業分野での創造活動と音楽事業分野での作曲活動が筆者の心と体の中で混然一体と成り、無意識に相乗効果を生み出していると感じている事を記した。また作曲活動への読者の理解を深めて貰うために「筆者の作曲活動と作詞活動」、「作詞家と作曲家の関係」を紹介した。今月号では筆者の作曲論(在り方とやり方)を紹介したい。もし此の作曲論が読者の非音楽事業分野での経営、業務、プロジェクト等に於ける「創造活動」に役立てば、望外の喜びである。

●読者から「或る協力」を得たい。
 「作曲」は「絵画」や「彫刻」などと異なり、抽象度が高く、目に見えない「音」を扱う創造活動である。しかも筆者の作曲論は、ピアノ、ギター等を使わず文章で説明される。従って読者は文章を読んで理解し、感じて貰わねばならい。筆者としては、可能な限り、より理解され、より感じて貰える様に頑張る。しかし限界がある。

出典:ピアノで作曲
出典:ギターで作曲
出典:ピアノで作曲:alamy.com/composing-music-piano-170584853.html
  ギターで作曲:dreamstime.com/guitar-composing-music-14415434

 此の限界を解決する為、読者から「或る協力」を得たい。或る協力とは、読者が作曲する立場に成り切り、作曲する自分自身を「想像」して貰う事である。その為、成り切りと作曲の「疑似体験」を是非して欲しい。疑似体験とは、ピアノの筆者、某ベースマン、某ドラマーのトリオ編成でジャズのアドリブ演奏を行った録音を、次号以降の本稿で記載された「音源アドレス」に読者がクリックし、両耳イアフォンで聞き、記載された「楽譜」を見ながら視聴する事である。

 しかし何故、ジャズのアドリブ演奏(即興演奏)を視聴する事が作曲する自分自身を想像する事になるのか? その理由はジャズのアドリブ演奏が「リアルタイムの作曲作業」そのものであるからである。一方「ノン・リアルタイム(バッチ式)の作曲作業」は通常の作曲を意味する。

●物事の「在り方」や「やり方」とはそもそも何の事か?
 物事の「在り方」や「やり方」とは何か? その解釈は様々で統一されたものはない様である。筆者は、「在り方」とは「基本的考え方」、「やり方」とは「具体的方法論」と考えている。言い換えれば、前者はWhy? 後者はHow? と云う「問」に対する「答」を意味する解釈している。

出典:何故作曲するのか?
出典:如何に作曲するか?
出典:何故作曲するのか? musictheoryacademy.com/composing-why/music/
  如何に作曲するか? musictheoryacademy.com/category/composing-how/music/

 しかし「何故、作曲するのか? 」と云う「在り方」については人様々である。また「如何に、作曲するか?」と云う「やり方」についても人様々である。様々な考えの人達の中の一人である筆者の作曲論(在り方とやり方)を以下で順を追って紹介したい。

●筆者の作曲の「在り方(基本的考え方)」 その1 昔も、今も音楽が大好きであること。特に作曲する事を最も好み、最も得意でもある。
 筆者は何故、作曲するのか? その答えは音楽が好きだからだ。子供の頃から唄う事よりも楽器を演奏する事を好み、特に曲を作る事を最も好んだ。然らば、何故、作曲を最も好んだのか? その理由は簡単。何かを頭の中に描くと、不思議な事に曲が幾らでも湧いて来たからである。此の妙な習性は今も変わらない。その結果、作曲が最も得意になった。

 さて筆者は子供の頃から「或る夢」を持っている。それは「プロの作曲家」になること。また作った歌がヒットし、多くの人が唄ってくれることである。更に作った歌や好きな歌を演奏する「プロの演奏家」になることである。しかし両親は筆者が音楽家になる事を絶対的に反対した。筆者の「夢」は完全に潰され、非音楽事業分野の道に進んだ。そして今は経営コンサルタントの仕事をしている。

 しかし「夢」を諦めず、非音楽事業分野の仕事の合間と隙間で、音楽事業分野の仕事を続けてきた。今後もそうする積りである。本稿で紹介した通り、筆者に「幸運の偶然」が2度も起こり、プロの楽器演奏家になる事とプロの作曲家になる「夢」が叶えられた。諦めず、努力した結果の「ご褒美」と考えている。

 しかし筆者の子供の頃からの「夢」で今も叶える事が出来ていない「夢」がある。其れは筆者が作曲した「歌」がヒットし、多くの人が唄ってくれる事である。諦めず、努力すれば、3度目の「幸運の偶然」が起るかもしれない。

出典:良い偶然
出典:良い偶然、canstockphoto.com/good-luck-concept-10564862.html & canstockphoto.com/illustration/good luck coincidence.html

●筆者の作曲の「在り方」 その2 素晴らしい、心から満足する作曲を成功させ、深く、強い「快感」を得ること。実現頻度は低いが、鳥肌が立つ様な「感動」を味わうこと。
 多くの作曲家は、素晴らしい曲が生まれる瞬間を、「何処からか曲が下りてくる」、「天から曲が降ってくる」、「神が曲を与えてくれる」などと言い表わす様である。筆者の場合は、「曲が湧いてくる」と云う感じを持つ。

出典:下りてくる
出典:降ってくる
出典:与えてくれる
出典:湧いてくる
出典:下りてくる、降ってくる、与えてくれる、湧いてくる。
stockphoto.com/408563648phrase=Fall、stockphoto.com/438439639phrase=heaven、Pin on Quotes (pinterest.jp)、地下水が湧くのイラスト- Bing images

 筆者を含め作曲家は、誰しも、「優れた曲」が生まれる瞬間を待ち望み、日々作曲に挑戦し、努力する。そして成功した瞬間、深く、強い「快感」や鳥肌が立つ「感動」を味わう。

 彼らは「曲を作っている」と云う感じではなく、「曲を作らされている」と表現をする事が多い。筆者も「作らされている」と云う感じを持つ。と同時に作曲は未知への挑戦と思えてならない。

 さて筆者の作曲作業を説明したい。

 最初、「或る歌詞」を読んだり、「何かの絵や写真」などを見て、頭に浮かんだイメージや体が感じた感覚で、「或る旋律」を伴奏とリズムを付けて、ピアノで弾き始める。その旋律を聞いた瞬間、別の旋律が浮かぶ。

 次に、浮かんだ旋律に「別の旋律」をピアノで弾き繋げる。繋がって弾いた旋律を聞いた瞬間、更に「違った旋律」が浮かぶ。もし連想され、繋がって弾いた旋律等がしっくり来ない時は、最初に戻ってやり直す。此の連想・連鎖・反復の作業を何度も繰り返す。

 その結果、徐々に旋律の塊と全体の輪郭が形成されていく。部分の旋律で満足がいかない場合が多いが、余り部分に拘らず、全体の輪郭の構築に拘る。その訳は、「曲の起承転結」の形成を重視し、優先させたいからである。しかし巧くいかない場合がある。その時は、曲の輪郭を異常なまでに拡大したり、縮小したり、時に狂った様な有り得ない旋律を敢えて難局を打開する。

 そして最後の最後に「これならどうだ!」と云う期待する旋律が「湧いてくる」。この瞬間、深く、強い「快感」を感じる。筆者はこの「快感」が得らえない限り、作曲作業を終わらせない。

 しかし作詞家の歌詞に作曲する場合が最も大変である。歌詞の基本コンセプトに曲を融合させねばならない事、歌詞が持つ威力を増進させねばならない事、そして作詞家の満足を得なければならない事などがある為だ。

 なお作詞家を満足させる作曲を意外に簡単に成功させる事が出来る場合がある。しかも皮肉な事に、作曲の完成度、満足度、成功度は、作曲作業に投下した時間と労力等に比例しない。実現頻度は低いが、歌詞に融合し、歌詞の威力を高揚させ、鳥肌が立っ「感動」を生む作曲も意外に簡単に生まれる事がある。作曲も、創造も、理屈で計り知れない未知の世界に属している様だ。

●筆者の作曲の「在り方」 その3 作曲で得た「快感」や「感動」が本物か否か? 此れを確める為、必ず「冷却期間」を設定し、作曲内容の良否を精査する。
 作曲が完成するまでの時間が30分や1時間と云う短い場合がある。普通は数日掛かる。しかし数か月掛けても完成しない場合もある。時間を掛けてもダメな場合は、作曲を中断し、一定期間後に作曲を再開する事で難局を切り抜ける。筆者の場合、本業の合間と隙間で作曲する為、どうしても時間が掛かる。しかし測定した事がないので「平均作曲時間」は分からない。

 さて筆者は作曲を短時間で完成させた場合も、長時間で完成させた場合も、完成後、最短で1週間、普通は1~2か月の「冷却期間」を設定し、期間が過ぎてから作曲内容をピアノで演奏して作曲の良否を精査する。

 最短の1週間と云うのは、筆者に作曲要請した会社が急いで作曲して欲しいと頼まれた場合である。同社に如何に急がされても、必ず1週間の冷却期間を設定して対応している。いい加減な作曲をしたくないと云うプロの作曲家としてのプライドと意地がある為だ。

出典:冷却期間と期間後の行動
出典:冷却期間と期間後の行動
出典:冷却期間と期間後の行動
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 さてそもそも何故、冷却期間を設定し、精査するのか? その理由の一つは、作曲と云う創造活動をすると意識的にも、無意識的にも、心身共に「活性化」され、「興奮」する。その為、完成曲に「快感」を感じ易くなり、誤った評価をする為である。また「感動」も生まれ易くなる為でもある。本物の快感か? 本物の感動か? を冷静に、可能な限り、主観に頼り切らない様、自分を厳しくチェックしている。勿論、第三者のチェックを受ける事が多い。

 もう一つの理由は、「或る経験知」を持っている為である。冷却期間後の「自己精査」や第三者による「他者精査」の結果、完成した作曲の約30%が「NO精査」になる為である。「この曲はベストだ」と思っていたが、冷却期間後、演奏してみると、それほどでなく、落胆する。作曲には「自惚れ」が必要であるが、「自己反省」も必要である。NO査定された曲の全部を書き直す事は殆どない。一部を書き直すことで「快感」を再度得られるまで作曲作業を続ける。

 筆者にとって作曲は「夢(大好きな事)」である。其の為、「落胆」しても「苦」にならない。「優れた曲」を発想する事が本当に楽しい。作曲を成功させるまで何度でも挑戦行動をする事ができる。本号で紹介した筆者の作曲の「在り方」と次号以降で紹介する作曲の「やり方」は、昔から殆ど変わっていない。今、振り返ると、夢工学が説く「成功根源3要因(本物の夢×優れた発想×優れた発汗)」を、筆者は昔から作曲の場で実践してきた様である。
つづく

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