図書紹介
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栗山ノート
(栗山 秀樹著、(株)光文社、2019年12月30日発行、第2刷、229ページ、1,300円+税)

デニマルさん : 5月号

今回紹介の本は、2023年WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で侍ジャパンがアメリカを破って14年ぶりに3度目の世界一に輝いたことに関係している。この本は、侍ジャパンの監督を務めた栗山英樹氏が書いている。さて筆者もWBC一次ラウンドの試合から決勝戦の試合までテレビで応援した。どの試合も出場した全選手が持てる力を十分に発揮して勝利に貢献した。中でも投打二刀流の大谷翔平選手や、ダルビッシュ有選手、吉田正尚選手、ラーズ・ヌートバー選手等々上げれば侍ジャパンの全選手かもしれない。特にアメリカとの決勝戦は、終始緊迫したエキサイティングな試合で、球史に残る名勝負とまで言われている。恐縮ですが、その場面をもう一度再現させて頂きたい。『試合は日本が3対2でリードして迎えた9回表、ピッチャーはダルビッシュ有選手から代わった大谷翔平選手、打者はアメリカの主将で4番のマイク・トラウト選手との対決となった。2アウト、ランナーなしで、2ボール2ストライクで迎えた5球目。大谷選手の力が入ったのか164キロのストレートは大きく外れてボールとなる。フルカウントで迎えた6球目のスライダーをトラウト選手が空振りをして3アウトとなり、日本が見事に勝利を決めた、その瞬間、大谷選手はグローブとキャップを放り投げて喜びを表現し、他の選手も大谷選手の周りに集まり飛び跳ねて喜んだ。実況放送のアナウンサーも解説者もWBC王座奪還と叫び大興奮に包まれた。』このWBC決勝での、二刀流の大谷選手と強打者トラウト選手の対決は、多くの野球ファンが待ち望んだ夢の対決でもあった。まさに映画か漫画での空想の場面が、現実に見ているテレビで展開されたのである。それも大谷選手が三振を奪って、優勝を実現させたのだ。日本にとっては最高の歓喜の瞬間である。これは歴史に残る名場面として、後世に語り伝えられる優勝シーンであろう。その後、侍ジャパンの監督である栗山監督や大谷選手やダルビッシュ有選手等の胴上げシーンを見ながら、この勝利までに導いた栗山監督の苦労場面を想像した。筆者は、栗山監督が日ハム・ファイターズ時代からのファンで、4年前に本を出版したことを思い出した。それが優勝決定戦の23日深夜であったが、アマゾンでその本を検索した。残念ながら在庫はなく、プレミア価格なら入手可能とあったので、早速注文した。それが今回紹介する本で3月末に我が家に配達され、このジャーナル用の資料として手元にある。まだ興奮さめやらぬ気分で出筆している次第です。今回のWBCの全ての試合で、栗山監督の「侍ジャパンの優勝」という強い信念が、秘めたる言動に満ち溢れていた。その意思を受けて、全ての選手・コーチ・スタッフが全力でプレーした。栗山監督の「信じて任せる精神」が貫かれていたように感じられた。例えれば、大谷選手の二刀流やダルビッシュ有等のピッチャーの起用、バッターでは一番のヌートバー選手、吉田選手や、岡本選手、4番で不調だった村上選手を起用し続けて、最後に結果を出させた采配から勝利を引き出している。こうした選手の采配の原点が、今回紹介の本に書かれてある。その神髄を探るべく紹介したい。

栗山選手の現役時代          ――ドラフト外の入団からスタート――
栗山氏は小学校時代からの野球少年で、高校時代は甲子園を目指していた。東京学芸大学では、東京新大学野球連盟のリーグ優勝に貢献する活躍をしている。1,2年を投手として25勝8敗、3年以降は、打者として3割8分9厘の打率を残している。しかしプロ野球では、ヤクルト・スワローズにドラフト外で入団した。1980年の1年目から内野手としてデビューを果たし、途中から外野手に転向したが、俊足巧打者として活躍した。この本では「プロ野球選手としてのキャリアは、実働7年という短いものでした。野手にとって一流の目安となる打率3割を記録したこともありません。守備力に秀でた選手に贈られるゴールデングラブ賞を一度だけ受賞したのが、選手としてのささやかな勲章です」と謙虚に書いている。しかし、入団当初からの原因不明のメニエール病で悩んでいた。体力的にはプレー出来たが、1990年のシーズン終了後に引退した。その後は、スポーツキャスターや大学教授等で活躍されていた。

栗山監督のコーチ・選手の采配      ――栗山マジックの原点とは?――
この本の著者である栗山氏は2011年、日本ハム・ファイターズの監督に就任した。現役選手を引退して22年間のブランクがあった。当時の球団統括本部長である吉村浩ジェネラルマネジャーから「栗山さん、命がけで野球をやってくれれば、それでいいんです」と言うオファーであったと本書にある。2012年の入団初年度は、パ・リーグでの優勝を果たした。因みに、この年のプロ野球ドラフト会議で日本ハム・ファイターズは、大谷翔平選手を1位指名で獲得している。2014年にチームは3位で終わったが、大谷選手は11勝と10本塁打での二刀流の実績を残している。そして2016年にはセリーグの広島カープを破って日本一を達成した。その後はBクラスの順位を低迷して、2021年に監督を退いた。その間の戦績は、684勝672敗で勝率5割4分であった。大谷選手との関係では、2017年にメジャーリーグのエンジェルス球団へ移籍を実現させている。その他にも日本ハム・ファイターズには数々の名選手がいる。本書では中田翔選手、斎藤祐樹選手、有原航平選手、吉田輝星選手、中島卓也選手、清宮幸太郎選手等々、他球団の有名選手も含め栗山監督との試合状況や名場面でのエピソードが多数書かれてある。その内容は、人間味ある野球愛に溢れたものである。

栗山ノートは人生ノート         ――栗山ノートにお手本がある?――
この本は栗山ノートとあるが、野球を題材とした人間論である。栗山氏は、監督就任以前から日記形式のノートに記録を整理している。それも論語や書経や易経といた先人の教訓と併せて人のあるべき姿を纏めている。更に、プロ野球で昔「三原マジック」と言われた三原修元監督の采配ノートが栗山氏のバイブルとなっていた。だから本書には勝利と人材育成の方程式が書かれてあり、「この瞬間ではなく、5年後、10年後どう評価されるかを意識して監督を務める。私心を捨てて“選手良し、チーム良し、ファン良し”の『三方良し』を成立させるのが私の責務である」と結んであった。野球以外でも通じる珠玉の言葉である。

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