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組織の文化を変える力

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 組織の文化は、その組織の価値観や行動規範に基づき、その組織を構成する人たちが、日々どういった態度を取り、どんな行動をするかで決まる。トップが「組織をこう変えたい」と思って、社員に対して一方的に発信するだけでは、文化は変わらない。ウエブサイトや社内の壁に美辞麗句が並んでいたとしても、それらだけでは、そこで働く人たちの日々の態度や行動の変化にはつながりづらい。文化が変わっていくためには、日々の習慣がまず変わることが不可欠だ、とある組織開発のコンサルタントから聞いた。習慣が変わることが、日々の態度や行動を変えていくことに繋がるのだという。
 とは言え、日々の習慣を変えるための具体的な方法が、私にはよくわからないでいた。例えば、心理的安全性が高い組織をつくるためにどうしたらいいのか。傾聴することや質問をすることなど、色々な方法が指南されている。しかし、それぞれの方法を効果的に実施するためには、高いスキルが求められる。日々振り返りを行うという方法もあるが、組織全体で行うのは容易ではない。上手くいかず、志半ばで終わってしまう場合もありそうだ。
 そんなモヤモヤした気持ちを抱えていたところ、先日あるポッドキャストで、「これは使えそう!」という方法を聞いた。アメリカ人の人事の方が、「失敗を恐れず、チャレンジをする文化の醸成」のためのヒントを共有していたのだ。「失敗を恐れず、チャレンジをせよ」というフレーズは、私も何度も聞いたことがある。だが、そういう組織で、実際にチャレンジをして失敗して何らかの罰を受けた人たちがいたら、チャレンジをしようとは思わなくなるのが普通だ。それに対して、人事の方が紹介していたのが、日々の業務の中で、全員でミニチャレンジに取り組むサイクルを回していく方法だ。具体的には、仕事でやっている何かを取り上げて、今までとは異なる結果を得るためのアイデアを皆でブレインストーミングをして出す。そして、実際に、それらを毎日一つずつ試していく。業績を大きく左右しない、ちょっとした試みに限定することで、上手くいかなくても大丈夫になる。アイデアを皆で出すこと、アイデアを試みること、そして、その試みから何を学んだのかを振り返る、ということを繰り返していくのが肝だ。そういう活動が日常化することで、「結果を恐れずにチャレンジをする」ことが習慣化されるとのこと。英語でModel the behavior you want to see.(見たいと思う態度を模範として見せる)という表現がある。まさに、チャレンジをして、そこから学ぶ姿勢を行動の中で示している例だ。
 例えば、身近な会議。「1時間の会議を30分に短縮するために、何ができるか?」というお題に対して、どんなアイデアを出しうるだろう。参加者が事前に資料を読み込むことで各議題を説明する時間を省き、会議では、不明点の質問をする形にするのも一案だ。あるいは、質問を事前に募っておき、それらに答える形で資料を明確化して事前配布しておくと、会議でのQAは不要になる。そうすることで、会議では、議論だけに徹することができるようになる。議論する際も、話が長い方への対策として、例えば意見を述べる際は1分以内に限定することで、簡潔に意見を述べることができるよう、事前に準備をしておいてもらうことができる。議論が脇道にそれたり、空中戦になったりしないように、オンラインでもホワイトボード機能などを使って、議論するお題と、意見のポイントを可視化しておくのも効果的だ。実験的に毎回一つのアイデアを試してみて、以前との違いを検証してみる。「実験」という表現を使うことで、「実験」だから、上手くいかないことも当然ある、という気持ちになることができる。
 「会議の参加者を半減する」というお題は、どうだろう。「発言をしないなら出席は不要」と言われるアメリカにならって、発言をする必要がある人に、出席者を限ってみてもいい。情報のアップデートは、議事録を読むことで対応できる。議題が複数ある場合は、議題を絞った短い時間の会議を複数実施し、議題に関係がある人だけが出席するようにできると、効果的だ。オンラインだと会議室の空きを調べて予約する手間が不要なので、短い時間の会議も開催しやすい。
 今やっていることに何らかの変化をつける場合には、「より短い時間で、より少ない人数で、より低いコストで、より質の高いものを」といった観点から考えると良い。「より質の高いものを」は更に、継続性、環境への影響、多様性、顧客視点などから考えることができる。顧客視点も満足、幸福感、達成感、自信、ワクワクなど、複数考えることができる。こういった様々な視点があり得るので、今やっていることを少し工夫してみる方法は色々とありそうだ。皆さんも、日々のちょっとした工夫で、失敗を恐れずチャレンジする習慣をまずは身につけてみませんか。

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