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心を動かす力

井上 多恵子 [プロフィール] :2月号

 『心をつかむ英語アピール力』という本を2010年に書いた。それから13年。「心をつかむ」を一歩進めた「心を動かす」ことに今、向き合っている。研修のファシリテーターとして受講生と接したり、講演者として、聴いてくださる方々と接したりする時。こういった時には、聴き手の心を冒頭からつかみ、感情を動かせると、伝えたい内容が聴き手に響き、また、記憶にも定着しやすくなる。また、4月から個人事業主として独立するにあたり、自分が提供するコーチングや英語指導などのサービスを受けようという気になっていただくためにも、聴き手の心を動かすことは必要だ。

 ■ 「心を動かす」ための方法 ①組み立て方や提供の仕方を工夫
 「心を動かす」ためには、様々な方法がある。研修やワークショップや講演の組み立て方や提供の仕方を工夫するということは、何年も前に学び、実践を積み重ねてきた。例えば、いきなり自己紹介から始めず、テーマに関連した質問から始める、というやり方や、一方通行ではなく、聴き手も参画する形式にする、などだ。最初はとまどったものの、オンラインならではの聴き手も参画する形式にも、だいぶ慣れてきた。

 ■ 「心を動かす」ための方法 ②声の使い方を工夫
 先日学んだのは、声の使い方だ。アメリカで開催されたInfluencers’ Summit(影響力を与える人々のサミット)で、登壇したボイストレーナーが教えてくれた。彼は、数々の著名俳優やスピーカーを指導してきた実績を持っている。曰く、どんなに中身があっても、心を動かさない話し方をすると、脳の中にある扁桃体にまでしか届かずスルーされてしまう。聴き手の感情が動くと、前頭前皮質に情報が届けられ、大事なものだとして認識されるという。子供の頃に覚えた歌やインパクトのあったスピーチは、大人になっても忘れず歌えたり唱えたりすることができることを考えると、納得がいく。アメリカの黒人解放運動・公民権運動の指導者キング牧師の有名な演説”I have a dream”(私には夢がある)。アメリカに住み始めた当初、まだ、英語がよくわからなかった中学生の時に覚えたスピーチだ。今でも、暗唱できる。
 伝えたことがスルーされてしまうと、結果として聴き手の時間を無駄にしてしまったことになる。話し手としては、責任重大だ。話し手として気をつけるべきは、楽器としての声でメロディーを奏でるようにすること。そのためには、音量、速さ、抑揚、「えーっと」などの無駄な言葉を入れない、などに気を付ける。特に、「えーっと」などの無駄な言葉を入れると、聴いたことを脳内で処理してその意味を考えるための時間を奪ってしまうのだという。私は、大事な点は強調して言うことには気をつけてきたが、メロディーを奏でるレベルには至っていない。

 ■ 「心を動かす」ための方法 ③ストーリーで語る工夫夫
 最もよく紹介される心を動かすパワフルな方法は、ストーリーで語れることだ。私もこの手法は以前から実践しようとしており、自分がなぜ人の成長支援や英語指導に関わっているのか、は語れる。両方とも、私が以前どうやって成長したらいいのかわからず、日々劣等感を抱き焦りながら過ごしていた日々や英語で想いを伝えることができず悔しかったことがベースになっている。教える機会が多い異文化コミュニケーションについても、数々の体験をもとにしたミニストーリーを持っている。それらである意味十分なのかと思っていた。ところが、そうではないらしい。
 例えば、コーチング仲間と実施したアイスブレイクのお題。「自分を元気づけてくれる歌で、自分が歌うことができるようになりたいもの」。いろんな歌のメロディーが頭の中を駆け巡ったが、「これ!」という歌は、記憶の奥深くにしまい込まれていたのか、考えるために与えられた40秒の間には、思い浮かばなかった。結果。元気づけとは関係のない、たまに口ずさむ歌をまとまりのない形で伝えてしまい、インパクトに欠けてしまった。
 翌日になって思い出したのが、マライア キャリー が1993年に発表した「ヒーロー」だ。「自分で心のなかを覗いてみて そうすればヒーローが見つかるから」という歌だ。私は1993年以降何度も、他の人が何かをしてくれないからダメなんだ、と他人評価で落ち込んでしまうことがあった。そんな時でも、自分で自分を元気づけることができたら大丈夫と、この歌が教えてくれ、元気になれたことがあった。「あ、これだ!」と思って改めて今回聴いてみて、歌に惚れ直した。
 先日営業セミナーで聞いたのは、相手と場面にあわせて、料理でも旅でも、様々なトピックで語れるストーリーを持っておくとよいとのこと。瞬発的に記憶を引っ張り出せない私は、テーマごとに、記憶を引っ張り出す時間をとったほうが良さそうだ。それは、自分の過去を豊かなものにしてくれる効用も、ありそうだ。

 皆さんは、この三つの方法の中で、やってみようと思えたものはありましたか?

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