今月のひとこと
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 人的資本の開示 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :3月号

 2月中頃から3月初めにかけては梅の見頃です。さらに、桜の開花予報が聞かれるようになり、日の出の時刻がどんどん早くなっていくこの時期は心が浮き立ちます。梅や桜の木は前年の夏から秋にかけて花芽をつけるのですが、寒い冬を迎えて一旦休眠状態になり、暖かい春の刺激を受けて眠りから覚め花開きます。これを休眠打破というのだそうです。冬の寒さが不足すると春になっても刺激が足りず、なかなか目覚めないこともあるといいます。じっとエネルギーを蓄えていて「打破」する日を迎えるのか、ずっと眠ったままなのか、人間の場合も外見では判りません。ただ、成果が出ていないけれど頑張っているというような人は「打破」の日が必ず来ると信じて見守りたいですね。

 4月1日以降に決算を迎える企業は、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」を記載することになりました(2023年1月31日公布、内閣府令)投資の対象とするかどうかを判断する材料として、有形資産だけではなく無形資産についても公開すべきという趣旨だと聞かされましたが、どういうことになるのか様々な議論が飛び交っています。
 有価証券報告書は、証券市場や金融市場から資金を調達するうえで、内容の如何に関わらず正確性が第一に求められてきました。無形資産の開示、特に人的資本の開示において様式等は企業に委ねられていることから、CEOとかCHROといった立場の方々にとっては、どうすれば正確だと評価されるかも頭の痛い問題だろうと思います。
 人的資本に関する開示基準が整備されていくということは、一般社員に対する評価基準もまた厳格になっていくのではないかと思われます。例えば、目の前の仕事に追われるだけで自己研鑽等の先行投資をしていない社員が多い企業だということになると、市場評価は下がるかもしれません。どのように開示するかは各企業において検討中だと思われますが、市場では開示された人的資本情報を基に将来性についての分析を行うはずです。
 どのような形になるかはこれからですが、企業として、人的資本充実への取り組み方針を社内外に示すことが必須になります。企業の方針に沿わない社員への対応方針も明確にせざるを得なくなると想定されます。欧米のように、企業間での社員の流動化が進むかどうかは分かりませんが、少なくとも入社したら定年まで安泰というような状況はなくなっていくと考えるのが妥当だと思われます。
 活躍の場が広がると前向きに捉えることもできます。企業としては、高評価の人材を引き上げようとしている訳ですから、自身の現在のスキル及びスキルアップの取組みを明確にすることが肝要です。そのことによって、大きな仕事を任されたり、他社からの勧誘ということになるかもしれません。まだ分からないことが多い状況ですが、少なくともPMに携わってきた皆さんは自分自身の「to be」について常に考えているでしょうから、心配無用だと思います。
以上

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