今月のひとこと
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 PMとリーダーシップ 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :2月号

 この冬、日本のみならず北半球の各地から大雪・寒波に伴う被害発生の報道が多数続いています。気候変動に伴う異常気象が多発しているということでしょうか。気象庁のホームページに「世界の異常気象」というページが設けられています。そこには、直前の週・月・季節・年ごとの異常気象の記録が掲載されています。30年間に1回以下の頻度で発生する異常な「高温・低温」「多雨・少雨」その他の気象災害を取り上げているとのことです。1月の20日頃には、週9件(1月11日~17日)、月15件(2022年12月)、季節16件(2022年秋・9月~11月)、年11件(2022年)が掲載されていました。日本に関する記事として1月13日、14日の東北~奄美の高温が載っていましたが、昨年12月の北陸の大雪は週ごとの記録を遡ってもありませんでした。掲載されている以上に異常気象現象が多いのかもしれません。

 6月3日開催の関西PMセミナーで講演される滋賀大学経済学部小野善生教授の研究論文「酒造業経営者の企業家行動~滋賀県の日本酒メーカーにおける事業変革に関する研究~」は、昨年12月のオンラインジャーナルの記事「PMAJでは何故日本酒の講演が多いのか」執筆にあたって参考にさせていただきました。どのような講演となるのか、今からワクワクしています。
 同教授の専門はリーダーシップ、組織論ということですので「リーダーシップ理論 集中講義」という初心者向けの著書も読ませていただきました。20代後半から30代にかけて、勤め先の社内研修のテーマとして取り上げられていたことを思い出しながら一気に読んでしまいました。
 この著書は、リーダーシップ研究で有名なマックスウェーバー、コッター、三隅二不二、ベニス、グリーンリーフ、ミンツバーグといった諸氏が順に解説するという構成になっています。導入部で、マネジメントの大家ドラッカーによる「マネジメントの遂行者であるマネジャーの重要な能力」がリーダーシップであるとの定義が紹介され、コッターによるリーダーシップの基本についての解説が続きます。リーダーシップ研究史上は20世紀初頭のマックスウェーバーが先になりますが、リーダーシップ初心者向けには基本的なところをまとめたコッターの話を先に持ってきた方が分かり易いとの著者の判断がありました。マックスウェーバーが行ったリーダーシップの類型分類は次の章で紹介されます。
 ここで、プロジェクトマネジメント(PM)の研究は、リーダーシップ研究史におけるマックスウェーバーの段階にあるのではないかと、ふと思いました。こんなことを書くとお叱りを受けるかもしれませんが、PMとは何かについて様々な定義があって「これがPMの基本だ」といえるものは未だ確立していない段階のだと思います。日本におけるPMの普及が進まない理由はいろいろありますが、このことも一因になっているのかもしれません。リーダーシップに比べるとPMはまだ新しい学問なのです。
 コッターの解説では、まず「リーダーシップとマネジメントは違う」とあります。リーダーシップは「フォロワーに意識の変化を促す行為」であり、マネジメントは意識が変わったフォロワーに対して「体制をつくり、PDCAを回していく行為」だと説明しています。さらに「マネジメントとリーダーシップは車の両輪のような関係」だと続き、本田技研工業の創業者本田宗一郎と名参謀藤沢武夫の例にあるように、リーダーシップとマネジメントは役割を分担でき、企業のトップにはマネジメントよりもリーダーシップの方が重要だと説きます。
 P2M標準ガイドブックにおいてもリーダーシップの説明にはかなりのページを割いています。しかしながら、プログラム・プロジェクトマネジャーに求められる能力という切り口での記述となっているためか、PMとリーダーシップの関係について「車の両輪」になるというような整理は行われていません。マネジャーの能力としてだけではなく、プログラムやプロジェクトを推進する組織においてPMとリーダーシップがどうなっているかについて様々な事例を再度見直してもいいのではないかと思います。

 編集子の周囲には、PMについて熱く語る人が大勢いますが、世間ではその数千倍の人がリーダーシップについて語りあっています。酒場などの非公式の場で、PMを肴にしている人は(編集子の周囲を除くと)あまり見かけませんが、リーダーシップに関する知識の断片で遊んでいる人は数え切れません。「うちの社長は人の上に立つ器ではない」「あの部長の得意技は部下のモチベーション引下げだ」等々。リーダーシップと同じように、世間の噂話のネタになるような状況になると、PMもリーダーシップ並に理解者を増やせているかもしれません。
以上

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