今月のひとこと
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 映画「引越し大名」とPM 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :1月号

 露地にホウキを逆さまにしたような草が枯れたまま残っていました。ホウキ草という名で呼んでいますが、ホウキ木ともいわれ、最近はコキアという方が通りがいいようです。1~2ヶ月前までは鮮やかな紅色だったのですが、薄茶色になっていて引っこ抜けば名前のとおり落ち葉を掃くホウキとして使うことができるそうです。これの実を加工したものが畑のキャビアとも称される「とんぶり」です。プチプチとした食感を楽しむ食材といわれていますが、たしかにどんな味だったかは全く覚えていません。

 肩が凝らないものがいいということで「引越し大名(2019年8月公開)」のビデオを選びました。江戸時代、国替えを命じられた大名が苦労して引越しを行う様をドタバタ調に仕立てた喜劇映画です。我田引水といわれるかもしれませんが、その中にプロジェクトマネジメントの特性を象徴するような場面があったのでご紹介します。
 ものがたりは、家来の前で恥をかかされた柳沢吉保が姫路城の殿様に国替えを命じるところから始まります。この殿様の藩には、かつて国替え=引越しに通じた専門職の家来がいたのですが数年前に亡くなっており、引越しの責任者を誰にするかなかなか決まりません。藩を取り潰したい柳沢吉保の意を受けた重役(裏切者)が引越しプロジェクトのプロマネとして選んだのは、失敗確率が最も高いと思われた引きこもりの春之助でした。
 春之助は、友達付き合いがほとんどなく本ばかり読んでいる書庫番(藩の図書館の館員)で、家柄だけはいいので上士(管理者)にはなれるがプロマネの適性は皆無というような若者です。引越し計画を殿様に上申する期限になっても彼が作ろうとする計画書は真っ白で、ただ「荷造り」「運搬」と2行の文字が書かれているだけです。何をどうすればいいのか皆目見当がつかないという状態でした。
 そこに忽然と現れたのが、プロジェクトマネジメントガイドブックを携えた引越し専門職の忘れ形見である娘です。時代劇ですので映画ではガイドブックのことを「引越し覚書」と称していました。ここから、PMO(専門職の娘)の支援を受けたダメなプロマネの大活躍が始まります。この引越しプロジェクトにおける様々な課題を整理し、キーマンを選んで次々と解決していくのです。娯楽時代劇の定番である娘との恋や、悪人たちとのチャンバラシーンも織り込んで、大団円へと進んでいきます。映画の見どころとしてはそちらになるのでしょうが、PMに携わる身としては、見事な楷書で引越しプロセスを書き上げた「引越し覚書」と「荷造り・運搬」としか書かれていない春之助の計画書の対比が最も記憶に残りました。まさにPMを知る者の作品と知らない者の不出来との対比です。
 春之助に星野源、娘は高畑充希、その他髙橋一生、濱田岳などが出演しています。芸術性・エンタテイメントあるいは人間追及などの深いテーマに関してはあまり期待しないでください。あくまで気楽にご覧になることをお勧めします。
以上

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