PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (149) (リスクマネジメントと失敗の構図)

向後 忠明 [プロフィール] :3月号

今月号は先月号に引き続きリスク対応策を最もリスク事象の発現の多いプロジェクト初期においてリスクとなる提案時に的を絞った対策の事例について話を進めていきます。

顧客要求が不明確で一括契約を求めているプロジェクトの場合
提案書作成チーム選定
下記注意ポイントの検討(特に注意するポイントを以下に示す。
(海外プロジェクトはさらに気をつける)
一括契約を求めていても顧客要件があまりにも明確でなく、提案書作成に支障をきたすような場合はゼネラルナプロ138に示す状況分析、問題分析、決定分析、リスク分析に沿って提案チーム内においての検討を行う。そして、以下に示すような課題の抽出とその解決を行うため、正式な提案書の作成の前に顧客に質問状を投げかけ問題の抽出を行い、不安と思われる事項を明確にしておく必要がある。

  1. ① 支払い条件(大きなプロジェクトになると進捗ベースの支払いとなるので,それに見合ったスケジュールとコストのインテグレーションが必要となる。)
  2. ② 知的所有権または使用許諾権の留保
  3. ③ 保証義務の内容と範囲(完工保証、瑕疵担保責任、履行保証、補償)どのような場合でも青天井の補償はしない。
  4. ④ 保険付保の内容と範囲
  5. ⑤ 契約中断/解除の条件
  6. ⑥ 契約発効日(特にスケジュール遅延ペナルティーがある場合)
 それでも 以下のような問題が残った場合はこのプロジェクトから撤退するか、または一括契約の範囲を見積もり条件が明確になるまで双方納得のいくまで要件の確認を行い確認の取れた時一括請負契約とし、それまではコストプラスまたはレインバーサブル契約とすることを提案する。
提案書作成時
  1. 見積もり技術条件および範囲が不明確なため積算ができない
  2. 時間的制約があり技術要件の十分な確認ができない
  3. 設計変更の可能性があり、スケジュール及びコストへの影響が大きい
  4. 技術要件が自社の範囲を逸脱し、対応人材に不安がある
  5. 商業的提案条件が不明のため条件設定ができない

合意書作成
 ここまでで、契約及び体制により大きなリスクは回避されてきているが、要件定義が不明確である限り、見積精度に不安が残る。
見積・積算
<見積・積算>
日常データからのアプローチ
  1. a) 基礎情報
    1. ① プロジェクト記録
    2. ② 個人ノウハウ
    3. ③ リスク集
  2. b) 情報源
    1. ① 上記a)の③に示すリスク集にトラブル処置に要したまたは影響したコストおよびスケジュールを記載し統計処理
    2. ② プロジェクト経験者の意見徴収および上記統計例に示すコンテンジェンシー金額(例えば総額の5%)も考慮する。
提案書の作成

 以上までが、提案書の作成に当たっての提案時のリスク対応策となるがこの結果を十分考慮し提案書の作成に入ります。
 この提案書作成も今後のプロジェクトリスクを最小にするための大きなステップの一つであり、上記に示した各工程での検討結果を十分に反映したものでなければならない。
 提案書の内容は顧客よりの引き合い書に規定されている場合とそうでない場合があります。一般的には商業的条件と技術的条件の2つの部分から構成されることが多いです。

  1. ① 商業的条件
     顧客の求める要件を精査し、顧客要求書(RFP)の項目内容に従い確認を行い、リスト(Compliance List)を作成する。その方法は顧客要求条件との照合により明確にする。異論があればNot Complyとし提案側の意見をそこに理由を含め提案する。すなわち、顧客要件の中にリスクファクターがあればそのリスク対応策を契約条件および提案コスト並び技術関連リスクに応じて考慮する必要があります。また、プロジェクト開始後の顧客要求の変更・追加要求が発生することも考え、変更・追加条件をこの時点で定義し、明確にしておく必要があります。このようなもろもろの作業の結果をまとめ、コスト積算そして契約書作成等を行い商業的条件にまとめます。

  2. ② 技術的条件
     ここでは提案物件の技術的内容を詳述する。
     所掌範囲については商業的条件で説明しきれない条件もここで詳述する。
     この時注意するのは競争相手がいる場合も考え商業適時条件に示した内容も含め作業を進めることが重要となります。
     ここでジレンマに陥るのは、良い条件や技術を顧客に提示したいが金額や条件が顧客にとっては納得のいくものにならないケースとなり競争相手に負けてしまう可能性が出てくることです。
     何はともあれ最も重要なのは提示金額が勝負となるので、場合によっては上司の判断を求め条件設定をある程度リスクを見て取り消しかつ、見積金額は原価コストを算出し利益分界点を十分知ったうえで行う必要があります。この利益分界点を算定する作業はトップマネジメントの最終提案価格の決定に際しての指針ともなり重要なステップでもあります。
     なお、コスト算出に当たって商業的条件を少し緩めることも必要となりますがこれもトップマネジメントの了解を取っておく必要があるでしょう。
     いずれにしても顧客交渉の段階がこの後に出てくると思いますが、何はともあれコスト的優位性を確保することが重要であり、商業的条件に至るまでの契約交渉の場において再提案するチャンスも出てきます。
     このように提案段階においては多くのリスクを内在する段階であり、顧客に自社の魅力を伝え、かつその後の条件闘争によりこちらにもよい条件となるよう、リスクミニマムとなるようにすることも必要になります。

なお、提案書の参考資料として商業的プロポーザル及び技術的プロポーザルを下記に示しておきます。

今月はここまでとします。

商業的プロポーザル
1.全般 (General)
1)序文 (Introduction)
  • 本プロポーザルで提示しようとしている設備の名称、建設地およびプロジェクト規模
  • 提案システムの概要
2)引合書要求事項に対する提案 (含むコンプライアンスリスト:Compliance List)
3)提案金額 (Proposed Price)
  • 見積総額
  • 見積金額のブレークダウン (Cost Breakdown)
  • 条件(支払条件、見積有効条件、為替/エスカレーション等々)
4)提案条件 (Proposed Condition)
  • 提案対象物(システムの範囲、インターフェース条件、既設設備との関係を示す。
    詳細は技術的(テクニカル)プロポーザル
  • 役務、所掌範囲(システムの範囲、設計、製造、輸送、保管、建設、テスト、試運転そしてプロジェクト管理の役務内容と範囲の一覧表)
  • 業務の遂行方法と体制
    プロジェクト遂行組織(コンソーシアムであればその組織)と各キーセクションの役割
    プロジェクトの管理方法および手順 品質保証体制およびその計画
  • 納期
    プロジェクト総合線表
    線表の説明
5)契約条件
  • 引合書に契約本文があればコンプライアンスリストにより処置
  • 引合書に契約本文がなければ請負業者(応札者)例にてプロポーズ

技術的プロポーザル
1.全般 (General)
  1. 1)序文 (Introduction)
    技術的プロポーザル全般の構成および商業的プロポーザルとの関係、特に金額算出に際しての技術的根拠を示す。
2)対象設備
  • 設備の全体構成のわかる図面/表(例えば、ネットワーク構成図、システム構成図、機器リスト、機器配置図、局配置図等)を示し、そこに請負対象範囲を明示する。
  • 引合書での技術要求を含めた各サブシステムの機能、仕様等に関する説明
  • 機器等の図面や性能を示す書類

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