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「きぼう」日本実験棟開発を振り返って (51)
―「きぼう」第1便打ち上げ―

PMマイスター 長谷川 義幸 [プロフィール] :2月号

 筆者は、このプロジェクトに参加して18年が過ぎようとしていましたが、まさか自分が責任者として打ち上げに立ち会うとは想像していませんでした。およそ20年待った国際宇宙ステーションの日本宇宙施設「きぼう」第1便の打上げがNASAのケネディー宇宙センター(以下KSC)で、2008年3月11日朝2時半に行われることになりました。
 以下の文面は、当時JPMF(現PMAJ)の渡辺貢成編集長から、「『きぼう』打ち上げの体験をオンライン・ジャーナルに投稿してほしい。」との依頼があったので、KSCで作業しながら現場の雰囲気を臨場感あふれるように書いたものです。断捨離をしていたらUSBメモリに残っていました。

1.「きぼう」第1便打上げ4日前
 筑波からKSCに移動する。「きぼう」打上げ運用隊の隊員とともに、成田からフロリダ州オーランド空港に到着する予定であったが、ヒューストンから乗り継ぎ便の出発が1時間半以上遅れ、さらに、空港周辺が雷雨のため旋回、その後も、天候が悪く空港上空を大回りして4時間以上遅れて着陸。空港は、風が強く土砂降りの雨。先輩の運転するレンタカーでホテルを目指した。大きい雨粒が強い風でフロントガラスをたたき、視界は非常に悪くスピードを押さえてゆく。“幸先悪し!打上げは大丈夫か?”と心配になった。午前1時にホテル到着。雨は小降りになった。

2.打上げ3日前
 朝早く起きた。雨は止んだが風は強い。NASAのプレスセンターでの日本人記者団との会見を古川宇宙飛行士と2人で行う。時たま吹く突風でJAXA広報用の仮設トレーラーハウスがゆれている。打上げは大丈夫か?と不安がよぎる。新聞やTV等の記者が30名程度集まった。今までにない数。記者会見は、同時通訳をいれ、1時間行った。日本が高い安全と信頼性を必要とする有人宇宙施設を開発できる能力を身に付け、ISSの一部として日本の国力と存在をアピールできること、かつ日本とNASAをはじめとするパートナーが共同利用することにより国際貢献と先端の科学技術研究を実施して国民に利益を還元できることを説明した。

3.打上げ2日前
NASA打上げ準備審査会  NASA打上げ準備審査会が、朝8時から開始された。スクリーンのそばのボードテーブル席に座った。緊張している。
(右写真は最近の写真だが、当時と同じ様子です。出典:NASA)
前回の打ち上げ審査会では、スペースシャトルの断熱材のはがれや液体水素燃料の燃料切れ検知対策等の課題が山積みで、会議は丸1日厳しい表情で行われたとの話であったが、今日の関係者は笑顔で雑談、余裕の雰囲気であった。大きな課題がなく、アクションアイテムの確認を丁寧に議論して合意をとっていく。議長は、ミッション責任者リロイ・ケイン。スペースシャトルのことで何を問われても技術的に答えられるベテラン。技術の香りがするレベルの高い会議である。最後に、空軍の気象担当が、打上げ日と翌日のKSC近辺、緊急着陸場所及びスペインを含めたシャトル緊急着陸予定地の天気を予測。非常に良好で問題なし。さらに、16日後のKSC、カルフォルニア、ホワイトサンズ、スペインの天候を予測。着陸に支障のある風や低気圧等の障害のないことのこと。2時間で終了。
 知り合いのNASAの方に、「本当に予測はあうのか?」と聞いたら、笑顔で“NASAと空軍の気象予測を信じろ!” 夕方、NASA記者会見。英語での記者会見で非常に緊張。幸い質問はなかった。良かった。

4.打上げ当日
 打上げがみえるビル(打ち上げ審査会の場所)の5Fに100人以上入るオーディトリアムホールがある。NASA副長官はじめ、今回の打ち上げミッションがあるカナダと日本の宇宙機関代表者および20名以上の米国議員関係者が中央の席にすわる。打上げ2時間半前の午前0時セレモニーが始まった。まず、星条旗に向かって全員起立し、NASAの女性が透き通る綺麗な声でアメリカ国歌斉唱。そして、米国議員の出身州やカナダ国会議員の紹介。その後、今回のミッションの紹介等で約1時間。その後、軽い食事で休憩。真夜中の2時半。カウントダウンがはじまると、NASAの知人が来て “もうすぐだ。日本のモジュールがあがるぞ。”と言いにくる。子供をつれた家族が招待されていて、古川さんのブルースーツをみつけサインを頼んでいた。
スペースシャトル打上げ 2008年3月11日朝2時半、打上げは予定時刻通リ、バリバリと身体に響く音響、真っ暗な中、花火のような光があたり一面にひろがり、スペースシャトルはゆっくり上空へ上がっていった。雲が上空にあり、その中に吸い込まれていった。
(写真:NASA)
 私は、観望ビルの最上階で幸運を祈りながら、NASA TVの実況中継を見ていた。総重量2000トンのスペースシャトルを持ち上げるのに外部燃料タンクと2本の固体燃料という巨大な火薬庫が点火され、その上にシャトルが乗っているが、大丈夫だろうか?と心配していると隣の古川飛行士が、「シャトルの3基のメインエンジンに点火してから、燃料を燃やし尽くすまでの8分40秒の間が勝負です。」と耳もとでささやく。NASA TVの広報担当が、「無事打ち上げは成功!」とアナウンス。NASAの知人が、笑顔で“Congratulation!”と握手をしにきた。でも、まだまだ心配。“シャトルがちゃんとISSにドッキングできるのだろうか?”心配すればきりがない。考えることが多すぎるから何も考えないことにした。

5.打上げ2日後
 シャトルは予定通りISSにドッキング。シャトル荷物室でクルーが船外活動でケーブルやカバーを外した後、土井宇宙飛行士がシャトルアームを使って、船内保管室を取り外し、所定の場所に設置した。幸い、危惧したことは何も起きなかった。いい日だった!

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