Deep Skill (ディ―プ・スキル)
(石川 明著、ダイヤモンド社、2022年10月25日発行、第1刷、279ページ、1600円+税)
デニマルさん : 2月号
今回紹介の本は、題名から内容を判断するのはチョット難しい。しかし、目立つ表紙や副題「人と組織を巧みに動かす深くさりげない“21の技術”」と金色の派手な丸マーク(リーダー管理職必読!)から、経営手法かマネジメント関連の本であることが分かる。筆者もPMAJのジャーナル編集に関係していた経緯から、この種の本を数多く手にした記憶がある。今回、敢えてご紹介する理由は、この本を推薦するメルマガとその主宰者が関係している。以前、ここで取り上げる本の情報源をご紹介したことがある。その中にメルマガもあると書いたが、具体的な内容には触れなかった。しかし、今回ご紹介するチャンスが巡って来たので、多少細かに触れて置きたい。先ずメルマガ名は「ビジネスブックマラソン」と称し、設立は古く2004年7月からで、その当時から日刊ベースで発行されている。現在時点で、6159回を数え、6万余人ものフォローがいる。主宰者は土井英司氏で、日経BP社を経て元アマゾンのカリスマ・バイヤーと言われ、現在は出版マーケィングコンサルタント、ビジネス書評家で(有)エリエス社代表取締役である。参考までに「ビジネスブックマラソン」のURLをご紹介すると(http://www.mag2.com/m/0000135008.html)である。ご興味がありましたらご覧下さい。筆者が土井氏と接点を持ったのは2004年のメルマガ開設以来、現在もフォロアーの一人である。それと土井氏の初著書「成功読書術」(2005年4月発行、ゴマブック社)は、筆者の愛読書で、現在も書棚にある。そんな経緯等から、WEBの中でも歴史ある古参のメルマガで、本文のスタイルは今も変わっていない形式である。そのメルマガの文中に、最近読んで良かった本のランキング順位が発表されてある。その中で昨年後半の数ヶ月間1位を続けた本があった。それが今回ご紹介する本である。非常に長い前段となったが、土井氏との経緯をどうしても触れたかったのでお許し頂きたい。
さて、肝心な本題の内容についての紹介に入ろう。著者の石川氏は、本書を出版した経緯を自分の経歴と併せて本文で克明に綴っている。1988年大学卒業後、リクルートに入社(配属は営業部門)。その後、リクルートの企業文化を象徴する新事業提案制度「NEW RING」の事務局長を務め、新事業を創造し続けられる組織・体制づくりに携わり、1,000件以上の新事業の起案を行う。そこで人間心理や組織力学を学び、自分なりの「ディープ・スキル」を磨いた。2000年、人事担当として総合情報サイト「All About(オールアバウト)」の立ち上げに携わり、事業企画責任者となり5年で、当時のJASDAQ(現在の東証スタンダード市場)に上場を達成した。2010年、企業における社内起業のサポートに特化した会社((株)インキュベータ)を設立。そこで100社、2000案件、4000人以上の新規事業を成功させた。その過程で学び、経験し、成功したエッセンスが「ディープ・スキル」であると確信した。それが「全ての組織人に不可欠はスキル」であり、組織やマネジメントで時代に合わせて変化させていく術を身に付けた仕事人が必要と痛感。それを体系的に書き上げたのが本書であると著者は「はじめに」で述べている。
Deep Skillとは? ――人と組織を動かす「ヒューマン・スキル」――
著者は、過去の経験から“仕事の出来る人”には、「人間心理と組織力学に対する洞察力に加えて、その洞察に基づいた的確な行動力」が伴っていると理解した。この人と組織を動かすヒューマン・スキルとも言うべき能力を独自に定義した。「深い洞察」に基づいた「ヒューマン・スキル」であるから、これを「Deep Skill(ディープ・スキル)」と名付けたと言う。その言語の体系化と多くの人に理解して貰うための説明書が本書であると書いている。そこでビジネスの最も重要なポイントは「この世の“不”を解消して、お客さまに喜ばれて、その対価を頂くことである」と言い換えることが出来る。ここでの“不”とは、不満、不便、不良、不快、不足等々、お客の数以上に際限なくある。同時に問題の解消には、夫々の専門的な解明と技術が求められる。またお客のニーズにも多面的に配慮しなければならない。この配慮こそが、「ヒューマン・スキル」であると書いている。問題解決の専門的な技術だけではない、お客ニーズに加えて企業、業界、世間の常識等を考えるのが「Deep Skill」である。専門性や個人的な感情にも溺れないで、且つ費用・納期・性能も満足する結果を出すことである。本書には、費用・納期・性能に関して触れていないが、一般的に必須項目である。
Deep Skillの構成とは? ――4章からなる「21の技術」を体系化――
本書での「Deep Skill」は、4章(したたかに働く、人間関係を武器にする、権力と組織を動かす、人間力を磨く)を大きな骨格として、夫々に「技術と分類される項目と分かり易いタイトル」が21の技術として列記されてある。参考までに第3章の「権力と組織を動かす」の幾つかの項目を引用すると、「企画力」:組織を動かすプロセスを企画するとある。次が「言語力化」:上司の頭の中を言語化する。次に「権力」:権力を味方に付ける人の思考法と続く。この時点で、「Skill(スキル)」という認識が筆者の理解と多少違っている様に感じ始めた。そこで改めてスキルと知識と専門性を整理してみた。知識は学業や経験で得たものを仕事に生かす能力で、スキルとは持てる知識を使って仕事のパフォーマンスを発揮する能力である。その仕事で発揮する分野が特化されたものが専門スキルであると理解している。全てアナログでファジーな分野だ。筆者はスキルを多少ディジタルでIT化の可能性を考えていたズレであろうか。先に著者は「Deep Skill」を「ヒューマン・スキル」と書いていたので、21の技術名称やタイトルには拘らないことにしよう。筆者はネーミングには拘っている。
Deep Skillが期待されるもの ――全ての組織人に不可欠なスキル――
本書に書かれた「deep Skill」は、仕事に携わる全ての人に不可欠なスキルである。先に筆者が気になったポイントは、仕事をプロジェクトと置き換えてPM(プロジェクトマネジメント)手法を基本に考えたからであろうか。JPMF時代にPMBOKを、PMAJではP2Mを学び、実践してきた経験から、プロジェクトの体系的考え方が身に付いていたからかもしれない。本書をP2Mの観点から再読すると、新たな「Deep Skill」が見える可能性を強く感じた。
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