PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(178)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :1月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●カラオケ音楽(音源)は、生演奏か? 打ち込み演奏か?
 本稿の読者は、誰しも日本各地にあるカラオケ館、カラオケ・バーなどで一度は得意な歌をカラオケで唄ったであろう。カラオケ画面に表示される歌詞を見ながら唄う時に流れて来る音楽が「カラオケ音楽(音源)」である。

 カラオケ音楽は、昔は、本物のトリオ・バンドやオーケストラなどに依る「生演奏」を基に録音され、制作されていた(アナログ制作)。その結果、カラオケ音楽と云えども、その音質は素晴らしく、優れた編曲で制作されたものが多かった。

 今は、プロ楽器演奏経験を持たないプログラマーやシステム・エンジニアが本物の楽器音に似た電子音を発生させる「装置」を使い、極く普通の編曲楽譜を組み込んだ「演奏プログラム」を基に「キーボード打ち込み作業」で演奏し、録音し、カラオケ音楽を制作(デジタル制作)する。市販のカラオケCDも殆ど「打ち込み演奏」で制作。

出典:トリオ演奏
出典:オーケストラ演奏
出典:キーボード打ち込み演奏
出典:トリオ演奏、オーケストラ演奏、キーボード打ち込み演奏
jazzcentrale.com/combinations/jazz-trio.scottishfield.co.uk/welcome-symphony-orchestra. bing.com/images/search=digital-audio-workstation-VSI&ajaxhist

 打ち込み演奏で作られるカラオケ音楽は、アナログ音楽が持つ「生演奏の音」、「生演奏のドライブ感」、「生身の演奏者の人間味」を片鱗も感じさせない。そもそも人工音で質が悪い。しかも凝った編曲によるカラオケ音楽は殆ど見当たらなくなった。しかしそれらの欠点をカバーする利点もある。機械で制作するため曲のテンポや音程(ピッチ)が安定する。また演奏を録音した後、テンポの変更や音程の変更・追加・削除が自由自在に出来る事である。更にプロ演奏者を起用しないのでコストが抜群に安い。

●筆者の本業の合間と隙間での「作曲請負活動」
 ちなみに筆者は以前、電通やその下請けの音楽会社から依頼され、TVコマーシャルソング、企業イメージソングなどを作曲していた。しかしTVで放映されるCM画面には筆者の名前は一切出ない。あくまで「下請け仕事」であったからだ。

 通常のプロ作曲家は作曲要請を受けて作曲し、楽譜を提出するだけである。しかし筆者の場合は、作曲した楽譜を提出する他に或る事をした。筆者が所有する電子ピアノが内蔵する疑似トリオや疑似オーケストラの演奏機能を活用し、作曲したCMソングなどを自ら演奏し、「デモCD」を制作し、納入した事であった。その結果、電通関係者やコマーシャルソングを要請した企業の社長などが直ぐに作曲内容を聞ける。そのため筆者は大変重宝がられた。

出典:作曲
出典:作曲 dreamstime.com/composition-music-image15188560

 しかしその後、「1週間以内に納入しろ」、「デモCD制作料は今後も払わない」などと高圧的な態度で作曲要請がなさる様になった。最初の頃は自分の作曲した曲がTVに流れるので楽しくなり、忙しい本職の合間と隙間で頑張って作曲し、納入した。

 しかし「作曲料を値下げしろ」と云う「下請け虐め」が強化されて、遂に怒りが頂点に達した。電通関係の取引を一切取り止めた。筆者は本職を持つ「兼業のプロ作曲家」の為、生活は困らない。しかし本職を別に持たない「専業のプロ作曲家」は作曲要請が命綱。しかも作曲料が極めて安い。その為、生活は極めて苦しい。「下請け虐め」で辛い思いをしているのは作曲家だけではない事は周知の事実である。

 日本には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(独禁法)や「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)などで「下請け虐め」を禁止し、此れに違反した事業者には種々のペナルティーが課せられる。

 しかし明確な違反事実があっても、それを正すには結局、裁判に訴えるしか有効な手段はない。もし裁判をすると高い弁護士費用、調査費用などが掛かる。その様な経済的余力はない。そもそも生活のために日々働かなければならず、裁判をする時間すらない。その結果、違反問題は全く改善されず、多くの「泣き寝入り」を生んでいる。筆者は今も「電通」と聞くと虫唾が走る。

●デジタル現象のDXとアナログ現象のAX
 最近、「作曲のプログラム」を基に「打ち込み作曲」が頻繁に行われる様になった。更に「AI技術」を使った作曲まで出現している。

 作曲は生身の人間が行う典型的な創造活動の一つである。生身の人間を信じないで人造人間(AI)を信じて作曲させる。AIが近い将来、人間を超えると信じるのは勝手だが、そもそも人間誰しもが「成功根源3要因(本物の夢×優れた発想×優れた発汗)」を持っている事実(夢工学の教え)に気付いて欲しい。そして人を信じ、人に作曲を任せて欲しいものだ。

 以上の様な「デジタル制作」、「デジタル現象」は、音楽の世界だけでなく、ビジネスの世界にも起こっている。その象徴的なものが「DX」に依る経営・業務である。

 さて日本のDXの成功率は10~15%(JUAS、PWCなどの2019年~2020年調査)。此の失敗の根本原因はDXへの誤解(別途解説)にある。またDigital技術を重視する一方、Analog技術を無視する事にも原因がある。そもそも「万物の事象」はDigitalとAnalogの両方の情報で成り立っている事を改めて思い起こすべきであろう。

出典:アナログ情報とデジタル情報
出典:アナログ情報とデジタル情報
cselectricalandelectronics.com/analog-signal-and-digital-signal

 筆者は現在、経営コンサルタントとして多くの企業人(社長&社員)からの経営相談を受け、各種の経営や業務への支援指導をしている。特にDXの導入&活用の相談が激増。DXだけでなく、DXに対局して検討すべきAX(Analog Transformation)の導入&活用を強く薦めている。

 しかし筆者の知る限りでは、DXと同時にAXの導入&活用を主張する人物は、世界の事まで分からないが、日本では筆者唯一人の様だ。残念な事である。多くの学者、評論家、経営コンサル、ジャーナリストなどは何故、DXばかり主張するのか?

●エイミー・ウィテカーの「アート思考」
 最近、日本で「DX」ほどではないが、「アート思考」が持て囃される様になった。世界的に有名になった著者:エイミー・ウィテカーの「アート思考」の本を初めとして数多くの「アート思考」に関する本が日本で出版されている。
出典:アート思考
著者:エイミー・ウィテカー&著書
出典:アート思考
著者:エイミー・ウィテカー&著書
bing.com/images/detailV2&ccid&dentsu-
ho.com/articles/7146

 エイミー・ウィテカーは説く。「アート思考」とは、「A点からB点まで出来るだけ良い方法で行く事ではなく、B点を発明するプロセス(過程)の事」を云う。ビジネス的思考は「結果」を重視。アーティスト的思考(創造的思考)は「過程」を重視。過程を無視して結果を得られない。そしてビジネスの限界を越える為にも「アーティスト的思考」は不可欠と説く。3M、グーグル、ピクサー、ワービーパーカーなど世界的企業の成長の秘訣はアート思考の実践にあったと主張する。

 彼女はイエール大学でMBA(経営学修士)とロンドン大学スレードアートスクールで絵画のMFA (美術学修士)を取得。グッゲンハイム美術館、MoMa、テート美術館などのアート施設に勤務。サラ・ベルドーネ作家賞受賞、現在、ニューヨーク大学美術学部准教授。しかしアーティストではない。

つづく

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