●世界ヒット制作戦略
坂本 九が唄った「上を向いて歩こう(作詞:永六輔、作曲:中村八大)」は、米国で1962年6月15日に発表された「Billboard Hot 100」で第1位になり、その後、4週連続1位の大ヒットとなった。
そして此の歌は欧州でも、アジア諸国でもヒットした。今から60年前の出来事である。
出典:ビルボードと2021年のプレーリスト
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WE THE BEST MUSIC (musictotox69.blogspot.com)
もし此のヒット曲を引き金として「世界を向いて歩こう」と発想し、「世界的ヒット曲制作戦略」を実行していたら、更に1曲又は2曲の追加ヒット曲を生み出せたはずである。此の「引金戦略」は世界中の何処のレコード会社でも、音楽会社でもやってきた事であり、今もやっている事である。にも拘わらず、当時の日本のレコード会社などは、此れをビッグ・チャンスと認識せず、何もしなかった。何故か?
理由は簡単だ。当時の音楽業界の関係者で世界戦略を発想し、実行しようとした人物が誰一人存在しなかったからだ。ならば現在は存在するか? 発想ぐらいはするだろう。しかし誰も実行しない。その証拠に、「上を向いて歩こう」のヒット以後、半世紀以上経過した今も、世界で大ヒットし、世界の多くの人が唄う「日本の歌」は一曲も生まれていないからだ。
●世界の潮流の「蚊帳の外」にされた日本の音楽、映画などのエンタテイメント業界
筆者の上記の指摘に、「AKB48は世界各国で何度も公演し、世界に乗り出そうとしたではないか」と反論するかもしれない。しかし其れ等の海外公演は、「世界的ヒット曲制作戦略」に基づいて実施されたものであったか? 欧米やアジア諸国の音楽愛好家(ファン)の言語、歴史、文化、習慣などの違いを考慮した海外公演であったか? そもそも日本の音楽業界の関係者が世界の潮流の「蚊帳の外」であると云う危機意識を持った上での海外公演であったか? 筆者が持つエンタメ情報ネットワークからの情報では、今迄の海外公演も、今、計画されている海外公演も、世界戦略に基づく様なものではなかったし、今もない様である。
「蚊帳の外」は、音楽事業分野に限った事ではない。日本の映画業界、その他のエンタテイメント業界も「蚊帳の外」に置き去りにされている。また日本の多くの技術分野や事業分野で「蚊帳の外」にされている事も本稿で既に指摘済である。何で此の様な情けない事になったのだろうか?嘆いてみても仕方がない。何とかならないか? 筆者の考えは以下の通りである。
●蚊帳の外からの脱却とDX
「蚊帳の外」から脱却するには、兎にも角にも、①当該分野の関係者自身が危機意識を持っ事、②自らの思考と行動を根本から変える所謂「変身」を遂げる事である。そうすれば、③海外に目を向け、自らの事業の国際競争力を強化する様になるだろう。更に④年齢、性別、学歴、経験、国籍などを一切問わず、優れた人材又はその可能性のある人材を当該事業分野の内と外から積極的に集め、抜擢し、活用する様になるだろう。此の人材は、歌手だけなく、音楽事業を支えるあらゆる種類の人物を云う。
出典:変身 cartoondealer.com/illustrations/pg1/pupa.html
しかし「危機意識」に基づく「自己変身」は最も至難な事である。此の事は日本の事業分野に於けるDXの成功率が10~15%である事からでも容易に分かる。そもそもDXとは何か?其れはデジタル技術を使って事業改革をする事であると日本の多くの学者、批評家、経営コンサルタント達は説く。そして多くの企業人(社長&社員)はそう信じさせられている。しかも日本政府まで信じて「デジタル庁」を作った。
DXの本質はデジタルに実在しない。変身(X=Transformation)に実在する。例えば、自社が今後生き長らえ、発展するのは如何に変身するべきかに在る。この変身とは、世の中に役立つ価値を具体的に創造する「優れた発想(アイデア)」と「優れた発汗(行動)」を情熱(夢)を持った企業人(社長と社員)に依って断行(決断&実行)される事を云う。そして決断した後、実行する過程でどのデジタル技術を使うのか?どのアナログ技術(ヒューマン技術を含む)を使うのかを考え、活用する事である。技術から発想する事ではない。変身から発想する事である。ちなみに日本政府は「デジタル庁」を作った。各省庁からのスパイ官僚の集団の庁では失敗するだろう。本来は「行政改革庁」を作るべきであった。
筆者は現在、経営コンサルタントとして多くの経営相談を受け、特にDXに関する相談が多い。しかしDXを支援指導する前に、DXへの誤解を解くのに大変苦労している。クソ学者、クソ評論家、クソ・コンサルタント達に依る誤ったDX説のせいである。頭に来ている。
それにしても隣国の韓国や中国の音楽、映画などのエンタテイメント業界は、世界戦略を決断し、国際的事業展開を実行し、世界市場での成功を虎視眈々と狙っている。この実例を今後、紹介していきたい。先ず手始めに、日本の多くの若い人に知られているが、多くの中高年の人はあまり知らない「BTS」の世界的活躍を紹介する。
●韓国のBTS
BTSとは、歌を唄い、踊る男性7人の韓国グループの事である。バンタンソニョンダン(반 탄 소니 단 Bang Tan Sonyeondan 防弾少年団)と呼称され、英語表記の頭文字を採り、英語圏向け名称としてBTSと命名された。
出典:BTS bing.com/images/search?viewVSI&ajaxhist=0&ajaxserp=0
防弾少年団と何故命名されたか?其れは若者への社会的偏見や抑圧を「銃弾」であると考え、音楽活動を通じて銃弾を防ぐ「防弾」の役割を果たしたいと世にアッピールする為であると聞く。何とも立派な社会的意識を持ったグループであろうか。日本の歌手や音楽グループで此の様な使命感を持った歌手や音楽グループは過去にいただろうか?また今、いるだろうか?
それにしても「防弾少年団」の「少年」とは全くの誤訳である。彼らは大人の「青年」だ。過去に似た誤訳の実例がある。約15年前、日本でもヒットした韓国の「少女時代(Girls' Generation)」の歌手達(9人編成)を「少女」と誤訳した。
彼女達は脚線美とセクシーなボディーアクションをアッピールした大人の「女性(Girl)」だ。世界の多くの大人の音楽フアンを意識したパフォーマンスを行った。しかし日本の音楽業界の関係者は「少年」や「少女」と誤訳させた様だ。国際感覚も、大人の感覚も、音楽センスも、そしてビジネス・センスも欠けるクソ連中が日本の音楽業界を「蚊帳の外」にさせた。
出典:少女時代 youtube.com/watch=fYP_3QEb5Yk
●BTSの世界戦略
BTSはBig Hit Entertainment社(現 BIGHIT MUSIC社)から登場。2013年に「NO MORE DREAM」でデビュー。2017年からはBTS世界戦略が実行され、「現実に安住せず、夢に挑戦し、成長する事」を旗印に加えて、BTSを「Beyond The Scene」と再定義した。
BTSの男性7人は、凄い歌唱力を持ち、強烈なダンスパフォーマンス、見事なルックス(美男子+美容姿)で定評がある。しかもメンバー自らも作詞、作曲、振り付け、ビデオ制作を行い、アルバム製作にまで参画している。更に彼らは、ソーシャルメディアの活用、Weverseでファンとの積極的コミュニケーションの実施、LIVEの生配信、バラエティー番組への参加、YouTubeでのダンス練習動画の配信、各種音楽番組やジャケット撮影の舞台裏の紹介、ラジオテイストでの座談会や食事場面の配信など多岐に渡る行動を行い、世界的影響力を齎せている。紙面の制約からBTSの事を此れ以上書き切れない。WEBで参照して欲しい。
BTSは2020年売り上げ世界1位を獲得している。しかし「BTSは米国で売れていない」とか、「BTSはアジアの一部で人気があるだけ」などと誤解している日本人が結構多い。世界の潮流を「見ざる、言わざる、聞かざる」の3猿は、日本の音楽業界の関係者だけではなさそうだ
出典:MRC ビルボード2020
●BTSと2022年・第64回グラミー賞
BTSは世界的ポップアイコンの地位を確立させ、遂に米国の音楽界最高峰の祭典「グラミー賞」の受賞を目指すまでに成長した。そしてシングル曲「Butter」で「最優秀ポップデュオ / グループパフォーマンス賞」にノミネートされた。BTSを強烈に応援する「ARMY」と称されるフアン軍団を含めて世界中のBTSフアンが「受賞」を期待した。
出典:2022年・第64回グラミー賞
bing.com/images/searchAA7D&selectedindex=0&sim=11
「グラミー賞」は2022年4月3日(現地時間)、ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで開催された。しかしBTSの受賞は叶わなかった。けれども「グラミー賞」でBTSに依るノミネート特別出演では会場の観客が興奮し、総立ちし、拍手喝采を送った。彼らの人気が如何に凄いかが分かる。BTSは、近い将来、グラミー賞を受賞するだろう。
グラミー賞としては、年間最優秀アルバム賞にジョン・バティステの「We Are」、年間最優秀レコード賞にリル・ナズ・Xの「Montero (Call Me by Your Name)」、年間最優秀楽曲賞にシルク・ソニック(ブルーノ・マーズ、アンダーソン・パーク)の「Leave the Door Open」、最優秀新人賞にオリヴィア・ロドリゴが夫々受賞した。
●世界の音楽業界が実践する「優れた発想」と「IT改革(DX)」
世界の音楽業界は、毎年、「優れた発想」に基づく「新しい音楽潮流」を生み出している。その過程で「IT改革(DX含む)」に挑戦している。その新潮流の1つがEDMである。
出典:EDM edm+clipart+images.jpg&action
EDMとは何か? 若い人なら誰でも知っている。其れはElectronic Dance Music(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)の略称である。電子楽器、電子打楽器などを使い、様々な電子音を多用して制作された音楽である。聞く事より、踊る事が主体の音楽である。
しかも楽器を演奏する固有技術を持たなくても、電子音を発する仕組みと作曲する仕組みが組み込まれたプログラムを使い、PCボードのキーを打ち込むと、誰でも作曲し、演奏、録音する事ができる。まさしくデジタル技術、IT技術の活用である。EDMでは打ち込み式で作曲され、打ち込み式で演奏された曲が数多く使われている。聞くよりも踊る音楽のEDMは、世界各国の言語、歴史、文化、習慣などの相違に左右され難く、国際性、汎用性、一般普及性が極めて高い。
韓国のBTSのメンバーとその関係者は、世界の潮流に乗り、世界戦略を成功させるにはどうすれば良いか? 「優れた発想」を求めて必死で挑戦したと聞く。そしてEDMが狙う言語、歴史、文化、習慣などの相違に左右されない「特質」を活用する事を思い付いた。
BTSは、此の特質を活かすため、「凄い歌唱力」、「素晴らしいダンスパフォーマンス力」、「見事なルックス」を備えたグループに仕立て上げられた。彼らのパフォーマンスは、聞いて良し、見て良し、踊って良し。そして国際性、汎用性、一般普及性を目指した狙いは見事に当たり、大成功した。
現在のAKB48、現在のBTS、15年前の少女時代の夫々のステージ・パフォーマンスは、YouTubeで簡単に視聴できる。是非、此の機会にそれ等を見比べて欲しい。日本グループと韓国グループのステージ・パフォーマンスの差の大きさが歴然と分かり、唖然とするだろう。
つづく