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「エンタテイメント論」(176)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :11月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●AKB48(エー・ケー・ビー・フォーティーエイト)
 現在の日本のエンタメ界では数多くのスターが活躍している。其の概要を説明したいが、此処で書き切れない。その代わりをしたい。本稿の読者層の主流は、若い世代よりも中高年が多いと想像している。ならば誰しも知っており、若い世代に多くのファンを持つスターの「AKB48」を素材に今月号のエンタテイメント論を展開する。

出典:AKB48
出典:AKB48 bing/videos/search view=detail&mid=D6E3746&FORM=VDRVRV

 AKB48は、プロデューサー:秋元康により生み出され、2005年、東京・秋葉原を拠点に活動を開始した女性歌手・アイドルグループの名前である。所属レーベルはYou Be Coolとキングレコード。AKBの名前は、企画した3人の人物の名前に由来する。Aは総合プロデューサーでAKB48の名付け親である秋元康、Kはエグゼクティブ・プロデューサーの窪田康志である。しかしBだけはoffice48社長の芝幸太郎のシバのB、48はOfficeの名前のシバ(48)に依る。しかし秋葉原の俗称である秋葉(あきば、AKIBA)に由来すると云う説もある。筆者は秋元総合プロデューサーに会って確めてはいない。そのため真偽のほどは分からない。

 AKB48は2010年11月では名前の通り正規メンバーが48人であった。2013年3月では88人となった。その結果、ギネス世界記録に認定(2013年3月)された。其の後、メンバー数は上下し、現在はメンバーと研究生を合わせて約80名がAKB48の組織に在籍すると云われている。

●AKB48とプロセス・エコノミー
 東京都千代田区外神田の「ドン・キホーテ秋葉原店」の8階に「AKB48劇場」がある。此の劇場で「会いに行けるアイドル」をコンセプトに、AKB48の公演がほぼ毎日行われている。

出典:ドン・キホーテ秋葉原店とAKB劇場
出典:ドン・キホーテ秋葉原店とAKB劇場
出典:ドン・キホーテ秋葉原店とAKB劇場
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 AKB48はマスメディアを通した遠い存在とファンに認識させず、身近な存在として感じさせ、応援させる戦略の基で存在する。しかもメンバー各人の歌唱力、ダンス力、発表力などの「成長過程」をファンに知らせ、共有させ、公演で見せている。この作戦が功を奏して以前から現在も数多くのファンを獲得し、AKB48のエンタメ事業を支えている。AKB48はメンバーの歌やダンスなどを訓練した「結果」を「公演」で見せるだけでなく、結果に至る「過程」をファンに見せて収益を獲得すると云う新しいビジネス・モデルを生み出した。

 従来のエコノミーは、新しい、優れたアイデアで創り出したモノやサービスと云う「結果」を売る「プロダクト・エコノミー」である。しかし最近、アイデアの発想に至る迄やアイデアを実現させる迄の「過程(プロセス)」を売る(収益に繋げる)と云う新しいビジネス・モデルが盛んになってきた。此れを「プロセス・エコノミー」と言われている。AKB48の活動は「プロセス・エコノミー」の「先駆け」になった。

●AKB48のレコード大賞とCD売上枚数
 AKB48は2009年にシングル「RIVER」のCO売上枚数で初のオリコン・ウィークリーチャート第1位を獲得した。その後に発表するCDは次々と1位を獲得した。AKB48は2011年にシングル「フライングゲット」で第53回日本レコード大賞の大賞を受賞した。翌年の2012年もシングル「真夏のSounds good」で第54回日本レコード大賞の大賞を受賞した。此れによってスターの座を確立させた。此の一連の大成功ブームをマスメディアは「AKB現象」と呼んだ。

 AKB48のCDシングル売り上げを概説する。2011年にシングル「風は吹いている」で1000万枚、2013年にシングル「UZA」で2000万枚、2014年にシングル「希望的リフレイン」で3000万枚、2015年にシングル「唇にBe My Baby」で3600万枚。この時、CDシングルの総売り上げ日本一となる。2016年にシングル「LOVE TRIP/しあわせを分けなさい」で4000万枚となり、オリコンの1968年よりの集計開始以来初めての出来事となった。2018年にシングル「センチメンタルトレイン」では5000万枚。2020年にシングル「失恋、ありがとう」で5600万枚の自己記録更新となった。

 AKB48は2011年の発売の「桜の木になろう」から2020年の「失恋、ありがとう」までで「シングルミリオン連続達成作品数」を「38作」まで延ばした。オリコン集計で日本で2番目に多くのミリオンセラーを出したアーティストは「B’z」である。しかしその数は「15作」。連続しての記録ではない。

 「AKB商法」に依ると揶揄されても、38作連続ミリオンセラーは日本の音楽業界の歴史で初めての傑出した記録である。しかし此の大記録にも陰りが見えてきた。2021年のシングル「根も葉もRumor」は100万枚に到達でなかった。前作「失恋、ありがとう」では従来のシングルと同じく特典として「イベント参加券」が封入されていた。しかし今作ではコロナ危機で恒例の対面での「握手会」の開催は不可となった。代わりにオンラインによるイベントを開催した。しかし今一であった。AKB48が今後もトップスターの地位を維持できるか? コロナ危機ですっかり様相が変わった。

●AKB48の海外公演と世界の音楽事情
 AKB48は、2007年に初の海外公演をした。北京の中国芸術研究院で開催された「日中文化人懇談会2007」での参加であった。2009年にパリ、ニューヨーク、カンヌで公演。2011年シンガポールで公演、2010年にロサンゼルス、ソウル、シンガポール、モスクワ、マカオで公演。2012年にワシントンD.C.で公演。2019年にバルセロナで公演した。しかし海外公演もコロナ危機で停滞した。さてAKB48は、日本国内では日本の音楽史に残る物凄いCD売上枚数を達成したが、海外に目を転じると、世界の殆どの人はAKB48の存在を全く知らない。

出典:ビートルズ(英)
出典:ビートルズ(英)
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出典:エルビス・プレスリー(米)
出典:エルビス
・プレスリー(米)
ja.wikipedia.org/
wiki/Elvis

 上記の通り、誰しも知っている世界的に有名歌手や歌手グループのCD(レコード)の売上枚数を正確な数値ではないが、概説する。ビートルズ(英)6億枚、エルビス・プレスリー(米)5億枚、マドンナ(米)3億枚、レッド・ツエッペリン(英)3億枚、エルトン・ジョンズ(英)2.5億枚、リアーナ(米)2.3億枚、ビージーズ(英)2.2億枚、セリーヌ・ディオン2億枚、AC/DC(豪州)2億枚、クイーン(英)2億枚、ABBA(スエーデン)2億枚などである(その他は割愛) 彼らと比べるとAKB48の売上枚数は相当なものである。しかし残念な事に世界的認知度は全くない。

●日本の歌と日本の音楽業界の国内思考、非国際性、閉鎖性で世界の蚊帳の外(今も昔も)
 残念な事は他にもある。其れは「日本の歌」で世界中の人が覚えていて、今も唄ってくれる「歌」は、戦前、戦後を通じて全く存在しない事である。しかし敢えて、無理して「例外」として挙げれば、米国で一時期ヒットし、イギリス、フランスなどで評判になった歌がある。其れは坂本九が唄って日本で大ヒットした「上を向いて歩こう(作詞:永六輔、作曲:中村八大)」である。

 此の歌は米国では「SUKIYAKI(My First Lonely Night)」と云う妙な名前(命名者は某ジャズ・ミュージシャンと記憶する)で有名になり、一時期、「全米ビルボード1位」になった。米国の国内売上が100万枚を突破し、全米レコード協会の「ゴールドディスク」を受賞(当時は100万枚以上は受賞となる)した。

出典:川勝所蔵の米国の楽譜集と其れに掲載のSUKIYAKI
出典:川勝所蔵の米国の楽譜集と其れに掲載のSUKIYAKI
出典:川勝所蔵の米国の楽譜集と其れに掲載のSUKIYAKI

 しかし当時の日本の音楽業界は、ビルボードの存在価値も、ゴールデンディスク賞の受賞価値も正しく理解せず、国内思考性、非国際性、閉鎖性を持ち、世界の音楽潮流の「蚊帳の外」に存在していた。

 当時の日本の音楽業界の関係者(音楽業界トップ、作詞家、作曲家、歌手、演奏家なども含めて)は、此の歌の大ヒットをトリガー(引き金)として更なるヒット曲を生み出す行動を米国で起こさなかった。米国だけでなく、世界の音楽ファンを対象にした国際的音楽事業活動や国際的演奏活動を事業的、組織的、人脈的に展開する事を全くしなかった。「上を向いて歩こう」でなく「世界を向いて歩こう」と誰一人も発想しなかった。やれば成功していたのに、誠に残念である。

 しかも現在の日本の音楽業界関係者も、国内思考性、非国際性、閉鎖性などを持ち、世界の音楽の潮流の「蚊帳の外」に存在する。拙い事に多くの関係者が此の事に危機感すら持っていない。以上の事は音楽の世界だけでなく、映画の世界でも同じである。

出典:蚊帳の外
出典:蚊帳の外 anstockphoto.com/illustration/discriminated.html

 本号でも述べた様に「日本の国際競争力」は世界最低に近い水準である。特に新しい事業~産業~経済を再生させ、発展させる鍵となる「日本の企業総合起業率」に至っては世界最低である。その結果、日本は世界の技術分野と事業分野に於ける世界の潮流の「蚊帳の外」に置き去りにされた。残念・無念な気持ちを通り越し、唖然・呆然である。

 此の構造的危機に直面した日本を救う「唯一無知の方策」は、音楽、映画、生産、販売、サービスなどの事業分野を一切問わず、共通して、「企業人(社長 & 社員)が自社の事業経営を成功させること」である。此の成功した事業が数多く累積されると新しい産業が形成される。此の成功した産業が数多く累積されると新しい経済が形成される。その時、「夢」が実現する日本に変身(Transformation)する。
つづく

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