理事長コーナー
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アフターコロナの時代の「学問のすゝめ」

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :12月号

 理事長に就任して以来ずっと考えてきたことがあります。「アフターコロナの時代のPMAJのミッションって何なのでしょうか?」ということです。
 最近、一つの結論に達しました。それは「ビジネスパーソンの生涯学習の場と手段と指針を提供して行くこと」です。
 ここで、ビジネスパーソンとは「目標・目的を達成すべく活動するすべての人」のことであり、企業に勤める人と限定しているわけではありません。学生であれ、個人事業主であれ、主婦であれ、目標・目的を達成しようと努力している人すべてを指しています。
 なんでそう考えるようになったかというと、「ジョブ型雇用」という働き方が注目されるようになってきたことが一番大きな理由なのかもしれません。
 ちょっと話はさかのぼりますが、平成12年版の経済白書の「第2章 持続的発展のための条件」にこんな一節があります。
「日本経済が大きな発展を遂げた背景には
  1. ① 人材を重視し、教育に資源を投入し、人材が能力を発揮するような環境を整えたこと、
  2. ② 外国の文物を柔軟に吸収し、日本の状況に合わせた改善を行ったこと、
  3. ③ 時々の経済情勢や発展段階に応じた経済体質を作り上げたこと、
という3つの要因があったと考えられる。」
 要は、資源の無い日本は、①教育と②変化に対する柔軟性によって明治以降の発展を達成してきたという事だと思います。ちなみに、平成12年の経済白書は、経済企画庁が発行した最後の経済白書で、当時の経済企画庁長官の堺屋太一氏ご本人が執筆したと言われています。
 この中の、「①教育」が日本の人材形成の基盤となるきっかけを作ったのが、福沢諭吉氏の書いた「学問のすゝめ」であり、今年がその発行から150年目に当たることは、この理事長コーナーで何回も紹介しています。
 では、①教育の現状はどうなっているのでしょうか。
 明治以降の日本の教育の目標は「欧米に追い付け追い越せ」であり、1970年代末に「ジャパンアズナンバーワン」と言われるほどの経済発展をとげたことで、この目標は達成されたと言っても良いでしょう。問題は、その後に、新しい日本の目標を明確にできず、その結果、新しい教育の方向性が迷走したことで、日本の学校教育の質が大きく低下してしまったというのが、残念ながら現状ではないでしょうか。
 それでもそれなりに日本の人材が維持されてきたのは、グローバルな環境でビジネスを戦う日本企業の多くが、社内教育という形で人材育成を担ってきたことが大きく貢献してきたと言えます。ところがいま、「ジョブ型雇用」という名のもとに、「学習も自分の責任である。」という形で企業の人材教育の仕組みが変わろうとしています。巷をにぎわせている「リスキリング」という言葉も、スキル習得もすべて個人の責任で行いなさい、と言っているように聞こえます。
 話は変わりますが、今年の北海道PMセミナー2022で基調講演をやっていただいた平本健太先生の著書に「戦略的協働の本質~NPO、政府、企業の価値創造~」という本があります。この中で、ドラッカー氏の著書からの引用で、「20世紀において、われわれは、政府と企業の爆発的な成長を経験した。21世紀においてわれわれは、NPOの同じような爆発的な成長を必要とする。いかなる組織が社会の課題に取り組むべきかという問いに対する答えは、政府でもなければ企業でもない。NPOである。」という記述を紹介しています。そして、平本先生の主張としても、「21世紀の社会の課題に挑むための方法の1つが、本書で取り上げるNPO、政府、企業間の戦略的協働である」と述べられています。
 このような観点から考えると、アフターコロナのビジネスパーソンの学習を支えていくのが、NPOであるPMAJの新しいミッションなのではないかという結論になったという経緯です。
 ところで、「②変化に対する柔軟性」が失われたことが、1980年代以降の失われた30年の大きな要因であることは、昨年のPMシンポジウム2021の私の主催者講演の中でも解説していますが、プログラムマネジメントは、まさに、「状況に合わせた改善を行」ったり、「時々の経済情勢や発展段階に応じた経済体質を作」ったりするための体系であり、プログラムマネジメントに主眼を置く、P2Mの得意技でもあります。この意味からも、P2Mの概念を社会に広く普及させていくことは、アフターコロナに向けた日本の社会基盤形成にとって、非常に重要な役割を果たすのではないかと考えています。
 「学問のすゝめ」が、明治維新という大きなトランスフォーメーション以降の、教育や社会基盤の形成に大きな役割を果たしたのと同様に、改訂4版の「P2Mガイドブック」が、アフターコロナという歴史的なトランスフォーメーション以降の教育や社会基盤形成に対して、大きな役割を果たすという決意をもって、「P2Mガイドブック」の改訂作業を進めていきたいと考えています。

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