理事長コーナー
先号   次号

PMAJ 5.0

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :11月号

 今回は、PMAJの歴史を紹介したいと思います。
 1996年にPMBOK®ガイドの初版が発行されました。その日本語訳は当時のエンジニアリング振興協会(ENAA:現在のエンジニアリング協会)のプロジェクトマネジメント部会(PM部会)のメンバーが行い、1997年3月にENAAから発行されています。その後、PM部会のメンバーが中心となり、PMの普及・啓蒙を目指すボランティア組織として1998年に日本プロジェクトマネジメントフォーラム(JPMF)がスタートしたのが、PMAJの歴史の第1ページとなります。
 時を同じくして、1998年にENAAでは日本発のプロジェクトマネジメント標準の発行を目指してPM標準の開発委員会が設置され、2年後の2001年にP2M標準ガイドブックの初版が発行されました。続いて2002年4月にP2M資格認定センター(PMCC)が設立され、P2M資格もスタートしています。
 その後、2005年にJPMFとPMCCが統合されて、NPO法人としてのPMAJが誕生し、P2M標準ガイドブックの発行はPMAJに引き継がれ、現在に至っています。
 このような歴史を、最近流行りの「〇〇 1.0」というような表現(ステージ展開方式というらしいですが)で表せば、次のようになるのでしょうか。
  1. ☆PMAJ 1.0(1998年~2001年):JPMFとして、PMBOK®、PMP®資格の日本への普及を目指して、いち早くPMP®試験対策講座を立ち上げ、多くの受講生を集めてPMBOK®の普及に貢献した時期です。この活動はコロナ禍に見舞われる2019年まで継続され、80回以上、おそらく3000人近くの卒業生を送り出したと推定されます。ちなみに、日本で最初の一般受験者を対象としたPMP®試験は、1998年に千代田化工建設の食堂で行われ、それまで2桁だったPMP®資格取得者を一気に3桁台に増やすなど、日本におけるPMP®試験の普及・拡大に大きく貢献しました。また、JPMF発足とともに開始された、PMシンポジウム、例会などの取り組みは現在も継続されており、PMコミュニティ形成に大きな役割を果たしています。
  2. ☆PMAJ 2.0(2001年~2005年):P2MガイドブックおよびP2M資格試験の普及・啓蒙の時期。2005年末までにPMS資格試験合格者は2000人を越え、PMC試験も開始されました。2001年には日本においてPMの国際大会が開催され、そこで紹介されたP2Mの概念は、海外のプログラムマネジメントの方向性に影響を与えるなど、グローバルにおけるPMの発展にも寄与しました。
  3. ☆PMAJ 3.0(2005年~2014年):JPMFとPMCCが統合され、PMコミュニティ活動とP2M理論体系、資格体系のシナジーが形成された時期になります。P2Mの独自の概念であるミッションプロファイリング、3Sモデルやタクソノミーなどが、日本の産業界に浸透し普及してゆく時期にあたります。
  4. ☆PMAJ 4.0(2014年~現在):2014年に発行されたP2M改訂3版によりプロジェクトマネジメントとプログラムマネジメントの連携・役割分担が明確になり、P2Mツリーとして体系が整理されたのを受け、多くの教育機関でP2Mガイドブックが教材として採用されました。e-Learningなども開発され、実務でPMに取り組む企業人の基礎知識として、多くの企業への導入が進みました。日本全体では東日本大震災の復興プロジェクトや東京オリンピック会場の建設プロジェクトなど、大規模なプロジェクトの需要の高まりもありプロジェクトマネジメントへの関心は高まりましたが、一方、プログラムマネジメントの普及・促進はあまり進まなかった時期でもあります。

 それでは、これからPMAJが歩む、PMAJ5.0とはどんな歴史を生み出すのでしょうか。その手掛かりとして、ここでは3C分析をしてみたいと思います。3C分析とは、「市場・顧客(Customer)」「競合他社(Competitor)」「自社(Company)」の3つの要素から市場環境の分析を行い、今後の事業戦略の方向性を探るフレームワークです。
  1. ☆市場:現在は、VUCAの時代と呼ばれるように、将来を予測するのが困難な時代と言われています。そこでは仕様が決まっている成果物を計画通りに作るプロジェクトマネジメントではなく、DXに代表されるように、何を作るか決まっていないところから仮説検証を重ね、様々なステークホルダーの異なる価値観のバランスを取りながら進めるというプログラムマネジメントが強く求められる時代といえます。
  2. ☆競合他社:PMAJはNPOであり、競合他社は存在しませんが、同じプロジェクトマネジメントの普及を目指す団体であるPMI®の活動は参考になります。PMI®では数年前から「チェンジリーダー」を支援することを標榜して、対象とするマネジメント領域をより広く設定しています。また、PMBOK®ガイドの第7版では、プロジェクトが価値創造システムの構成要素と位置づけられ、より範囲の広いプログラム的にとらえるようになってきています。最近、PMI®が好んで使う言葉に「プロジェクトエコノミー」という表現がありますが、プロジェクトという言葉を、イノベーションから構想・企画、構築、運用にいたるまで、すべての経済活動を包含した概念に変えてきているように思います。
  3. ☆自社:もともとENAAのPM標準の開発委員会が、プロジェクトマネジメント標準の作成を目指しながら、最終的にプログラムマネジメントを包含した体系となったのは、日本の企業文化の特徴、つまり単に株主利益だけを求めるのではなく、「三方よし」の発想に見られるように、より広いステークホルダーの価値観のバランスをとることで、持続可能な関係性のなかで利益を得るという商売を目指したという特徴を反映した結果だと言えます。今、SDGsが全世界の主要課題となる中で、この多様な価値観のバランスを取る日本流のプログラムマネジメントを具現化したP2Mは、SDGsの17のゴールを、全世界の異なる価値観のバランスを取って実現するための強力な武器となると考えます。

 このような事業環境を考慮すれば、PMAJ 5.0の作る歴史は、P2Mの本来の強みであるプログラムマネジメントを世界に浸透させ、様々な価値観のバランスを取りながらSDGsの目標を達成する活動を普及・促進するものでなければならないと考えています。
 そして、PMAJ 5.0指針となる、新たなP2M標準ガイドブックの改訂作業が進められており、現在の予定では、2024年春に発行される予定です。ご期待ください!

ページトップに戻る