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他者から学ぶ力

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 「まずはシステムを多少変えましたし、特に昨日もサウジが0-1のビハインドから逆転して、大きなことを成し遂げたので、自分たちもできると信じて戦いました」ワールドカップサッカーでドイツに劇的な逆転勝利をおさめた後のインタビューで、日本代表のキャプテンを務めるDF吉田麻也選手が語った言葉だ。サウジアラビアがアルゼンチンに勝利した試合を参照していた。実力の差がある相手に先制点を入れられると、普通は意気消沈してしまう。その時に、一歩先をいっているチーム、自分たちが欲しい未来を実現しているチームを見つけて、そのチームの行動に力を借りた。そして、大きな結果を日本チームは手に入れた。
 ここまで劇的ではなくても、他者から学ぶ機会は数多くある。セミナーに参加したり本や新聞や雑誌やブログを読んだり、テレビや映画やYouTubeで動画を視聴したりすることで、普段接点が無い人から学ぶことができる。また、観察力を高めることができれば、日々、周りの人達から真似したい良い点も、真似したくない点も、学ぶことができる。その際にポイントとなるのが、自分で課題意識を持っていること。課題意識を持っていることで、日々大量に接する情報の中から、自分に必要なものをキャッチすることができるようになる。
 「努力は必ず報われるとは限らない。ただ、報われるまで努力する。KUMIKO KANEDA」
11月26付け日本経済新聞朝刊に掲載されていた株式会社キューブの広告に掲載されていた言葉だ。ゴルフの金田久美子プロが樋口久子三菱電機レディスで優勝を果たしたことを祝している。この言葉が目にとまったのは、今回「他者から学ぶ力」をテーマに原稿を執筆しようと思っていたことと、私がキャリア技能二級テキストの試験に向けて学習中だからだろう。暗記しないといけないことがなかなか頭に入っていかず、諦めようかという弱気な気持ちになりがちな自分。そんな自分を鼓舞してくれ、キャリア技能二級合格という目標が達成されるまで、努力を続けてみようという気持ちにさせてくれた。
 来年度異文化研修をすることもあり、関心が向いたのが、アメリカから届いた二週のメールだ。両方ともHappy Thanksgiving!と感謝祭を祝う表現が書かれていた。違いは、一通には、to those who celebrate. という、感謝祭をお祝いする人たちに対して、を意味する表現が追記されていた点だ。感謝祭を祝う人も祝わない人もいることに配慮した表現になっている。
 Design for greater inclusion.と書かれた研修の案内を受け取った際に学んだことは、インクルージョン(受容)というのは、ほっておいたらできるものではなく、設計することができるのだ、あるいはすることが大事なのだ、という点だ。多国籍の人達を集めた研修を実施すると、このことが良くわかる。多国籍の人達と接することに慣れていない人が含まれていると、インクルージョン(受容)が行われるよう、場を設計しないといけない。例えば、共通言語が英語の場合、英語力に不安を感じる人たちに事前に英語力アップやグローバルコミュニケーションにおけるマインドセットを伝えることに加えて、参加者全員に対して、インクルージョン(受容)の必要性や、周りの意見を聞くといった具体的なやりざまをガイドすることが求められる。
 他者から学ぶ際に忘れると上手くいかない視点が、「自分や自分達の状況に合わせて、学びをどう活用するか」だ。「報われるまで努力する」や、「自分を信じる」といったマインドセットであれば、そのまま適用できることもあるだろう。しかし、やりざまは、個々の状況に応じて変わってくる。11月25日放送の「ガイアの夜明け 働き方改革 その先へ!~“働きがい”がニッポンを変える~」で、「働きがいのある会社研究所」の代表荒川陽子氏が、働きがいを向上させる処方箋はなく、個々の組織の状況に応じて考え対応していく必要がある、といった趣旨の話をしていた。私も実務でエンゲージメント向上の活動に携わってきた中、その通りだと思う。ベストプラクティスを共有したからといって、皆が上手くいくわけではない。
 先日オンラインで研修講師をした際は、私自身が、他者からの学びを前半活かしきることができなかった。私が普段慣れている設定ではなく、複数の人達とスライドに書かれたテキストを読みながら普段使っていないZOOMで実施しないといけなかった。やり方の説明を聞いてそのまま研修に入ったのだが、甘かった。「聞いてわかった」ということと、「実際に円滑にできる」の間には差があった。後半は、自分の力量や経験値でもできるよう、実際にリハーサルをして臨んだことで、何とか上手くいった。
 課題意識があると、他者から学ぶ質も、量も増える。学びを自分のものとして実践に活かすためには、自分や自分達の状況に合わせて学びをどう活用するかを考えた上で、必要なら、実際にできるかどうかを試してみた上で、大事な場面に望むよう心がけたい。

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