投稿コーナー
先号   次号

フィードバックをもらう力

井上 多恵子 [プロフィール] :11月号

 「フィードバックはギフトです!」先日ワークショップを実施した際、冒頭参加者に伝えた言葉だ。180度評価というサーベイ手法で部下からのフィードバックをもらったマネジャーが集まり、お互いに結果を共有し振り返ることを通じて、行動を変えることが主旨のワークショップだ。辛辣なコメントを書いたり想定外に低い点数をつけたりする部下がいたりして、ショックを受けた状態でワークショップに参加するマネジャーもいる。私も以前マネジャーになった時に、部下からのフィードバックを受けて、ショックを受けた。当時の私は、フィードバックはギフトだとは思えなかった。それどころか、「こんなコメントを書いたり点数をつけたりするなんて、ひどい!」と、怒りすら感じた。
 今でも、正直否定的なフィードバックをもらうとへこむ。先月、かなり時間をかけて提案したワークショップが某官庁の審査に落ちた時もそうだった。「内容は問題ありません」と、間に入り書類を提出した会社の担当者は太鼓判を押してくれていた。だから、審査を通らなかったという結果に、一気に力が抜けた気がした。落ちた理由が、官庁らしい硬い表現で書かれていたこともあり、「再チャレンジはしない。ここに時間をかけても、通りそうもない。他にやることを優先したい」と、アドバイスをしてくれていた担当者に伝えた。そうしたところ、担当者は、硬い表現を解釈し、わかりやすく表現し直してくれた上で、どう直せばチャンスはあるという回答を返してくれた。それでも、私にはまだ大きな山が立ちはだかっている気がして、しばらくほっておいた。ようやく少し時間ができたこともあり、重い腰を上げて取り組んでみた。色々と試しているうちに、「いけそう」という感じになり、昨晩、修正版を提出した。まだ通るかはわからないが、指摘のおかげで、ワークショップの内容に深みが増した気がしている。ひどいと思った指摘は実際適切で、ワークショップを改善するプレゼントだった。
 先月出版した『グローバル×AI翻訳時代の新・日本語練習帳』に対して頂いている様々なフィードバックも、プレゼントだ。フィードバックにより、自分がやってきたことにお墨付きをもらえた気がしている。「Global企業で働いていて英語でのe-mail communicationが多い私にとってはとても参考になりました」と言うコメントは、本の狙いが達成できたことを示している。英語使いの達人からは、「ふんふん、そうだよねーと思いながら読みました。翻訳者を目指している方にも、また、若いビジネスマン、ビジネスウーマンにも読んでいただきたい本かと思います」とあり、プロから認めてもらえたことに安堵した。女性の成長と活躍を支援する団体の会長からは、「大切な内容ですからますます日本中に広めて日本のグローバル遅れに少しでも後押しをすることで貢献してください」と励ましのお言葉を頂戴した。学生時代の仲の良い知人からは、「実際に寺沢さん(私の旧姓)と話をしているような気分になりました。以前国際部長を務めていたときに座右に置いておければ最高だったなぁと思いながら読みましたと、」最高にうれしいコメントが届いた。
 また、コンサルタントの方からは、「ありそうでなかった、そしてとても本質的な英語と日本語の本」と言われ、経験から絞り出したことは本質になりえるのだということを学んだ。言語化できていなかった自分の良い面に、光を当ててくれた人もいた。「もっと言えば、人としての『姿勢』や『在り方』を示す本だとも感じました」というコメントは、人の成長を支援する仕事にずっと関わってきたことがにじみ出ていたことを示している。「DoingからBeingへ」という表現がある。何かをやるということから、何かをやっている人になること、あり方自体を目指しているのだが、それに少し近づいてきたのかもしれない。
 もちろんポジティブなフィードバックだけではない。不足している点の指摘もある。正直「えー、そんな細かいことまで言うんだ」とか、「ここではすべての状況までカバーしきれない。それは例外的な用途」と言い訳したくなることもある。読むたびに、ドキッとして心が刺される気がすることもある。でも、貴重な時間を使って指摘してくれたことに、感謝する方向に転換するように努力はしている。実際、指摘を受けた点を調べることにより、私も知識のレベルを向上することができている。痛い指摘がなければ、私自身の進歩がなかったということを考えると、有難い指摘だ。
 フィードバックを積極的に求める人の方が、成長するスピードが早いというデータを出している会社もある。皆さんも、まだ経験がなければ、勇気を出して、ご自身がやっていることやあり方に対して、周りの方々から一度フィードバックをもらってみませんか。自己肯定感を増したり成長を加速したりするコメントがきっともらえると思います!

ページトップに戻る