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限界を超える力

井上 多恵子 [プロフィール] :10月号

 
 限界を超える力って何?そう思われた方がいるかもしれない。ここでは、「何かを活用して、自分一人では成し遂げないことを成し遂げる力」と定義したい。「何か」の中には、人やツールや仕組みや環境などが入る。
 組織でチームとして仕事をする時も、これが当てはまる。理想的には、お互いの得意な力を持ち寄って、ある目標を達成する。その際に、組織のブランドに頼ったり、インフラを使ったりすることもあるだろう。
 9月末に私が本を出版し、10月に出版記念講演会を開くのも、この「限界を超える力」あってこそのことだ。父親と共著で三冊出版してから、10年以上がたった。その間、出版塾にも通ったが形にならず、本を出すこと自体、諦めていた。そんな中、所属会社で文章術講座が開催されることになり、参加した。数か月間にわたり要提出課題もあり、時間の工面も楽ではなかった。最後までやり遂げることができたのは、「課題を提出すると、添削してもらうことができる」という特典があったからだ。参加条件の一つだった学びを社内で還元するための勉強会も、人材開発部に所属する立場としてやらないわけにはいかない、と感じたからこそ開催できた。
 こういったプレッシャーもあり、真面目に課題にも取り組んでいたところ、講師の先生から、執筆のお声がけを頂いた。「適切に機械翻訳される日本語の書き方」の指南本の著者を探しておられた中、共著本三冊の実績、英語力、日本語で書く力がある私に打診頂いた。それから約一年強たって本になったのだが、その過程で、多くの人の力を借りた。同時通訳者、機械翻訳を使って業務をしている方々、そして、機械翻訳ツールを販売している会社の方に行ったインタビューから得たヒントをそれまでの実践知とあわせ、複数のルールを書いた。自分なりに構成したルールを読み手にとって分かりやすいように再構成してくれたのは、名編集者の干場弓子先生だった。読み手に響かない事例や例文は、バッサリカットされた。本格的に出版に向けて動き始めてからの二か月という短い期間で、修正や追記の依頼もあった。時には、「えー、書き直し???」と思いながらも、気を取り直して取り組んだ。
 そして、完成したのが、『グローバル×AI翻訳時代の新・日本語練習帳』だ。グローバル・コミュニケーション力を日本語の工夫で強化する発想で、「正確な翻訳結果をえるための日本語の書き方のコツ」を、実践を踏まえたコラムと共に、紹介している。書籍を手に取ってもらうためのタイトルも、今回、干場弓子先生につけていただいた。私では、考えもつかなかったタイトルだ。『日本語練習帳』という本がかつて、話題になったことも踏まえている。
 10月に出版記念講演会を開くにあたっても、人の力におおいに依存している。主催者はオンライン開催の設定だけでなく、案内用の絵柄や案内文も、amazonの本の紹介文を参考に、サクサクつくってくれた。私が作成した講演用スライドにも、丁寧なフィードバックと提案を頂いた。私のスライドの質があまりにも低かったため、「このようにフォントサイズとレイアウトを変えると、伝えたい意図がはっきりします!」と、1枚を具体的に変えたページを、送ってくれた。講演会当日まで、まだまだ彼のお世話になりそうだ。
『グローバル×AI翻訳時代の新・日本語練習帳』

 出版と講演の告知をフェイスブックに投稿したら、知人が、私をタグ付けして紹介してくれた。「井上さんは僕をコーチングの世界に誘ってくれた恩師です」と書いた上で、「僕は勉強のために本を買い、講演会にも行きます。」と書いてくれたのだ。勉強家して知られ、団体のリーダーなどもやっている彼がそう言ってくれたことは、本当にありがたい。彼自身が持つ信用を私に付与してくれた形だ。私が師事している世界的に著名なコーチ、マーシャル・ゴールドスミス氏も、「日本語はわからないが、グローバル・コミュニケーション力を日本語の工夫で強化するというとてもユニークなコンセプトをエンドースできるよ」と言ってくださった。彼のような方の力を借りることで、一挙に影響力を増すことができる。
 今回名刺も作り直すことにした。書店で他の著者の方々とのサイン会もあるということで、自分で作る安い名刺から、ちゃんとしたものをつくろうとしている。これについても、自分が当初考えたものにはかなり、ダメ出しが入った。広報のプロの知人のアドバイスにより、素敵なデザインと内容のものができそうだ。
 ダメ出しが入ると、その時はへこむ。でも、それが糧になり、私が提供できるものの価値がより大きいものになる。苦手な領域がたくさんある私だ。これからも、自分が貢献できるところではしっかり貢献しつつ、人の力やツールや仕組みや環境の力を活用して、自分の限界を超えたより大きな価値を届けるようにしていきたい。皆さんも、力を借りて、ご自身の限界を超えてみませんか?

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