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依頼文を書く力

井上 多恵子 [プロフィール] :9月号

 
 先日、文章術講座に参加し、依頼文の書き方について学んだ。関心を持ったことにより、引き寄せの法則のように、依頼文が数多く目に入るようになった。今回は複数の例と共に、依頼文を書く力について考えてみたい。

 「うまいこと書くな~」と感心した文
ふるさと納税のお礼に北海道石狩市から送られてきた手紙で、私が注目した点が5つある。

  1. 1. 温かみを感じる
    市長、生産者、市のマスコット、石狩市の美しい風景、食材を使ったお料理などの写真を使っている。
  2. 2. 自己肯定感が増す
    「あなたの感想が励みになります!」という一文が目立つように書かれており、「自分が行動することで誰かの役に立つことができる」と思わせてくれる。
  3. 3. 生産者の気持ちに思いをはせる
    「生産者の方々は心をこめて作った自慢の品を皆様に喜んでいただけたのか、いつもドキドキしています。」という文で、「確かに私が生産者だったら、ドキドキするだろうな」と共感できる。
  4. 4. 自分にもベネフィットがあると感じる
    「『おいしかった』『感動した』という喜びの声や素直なご意見が励みになり、新しい品やサービスのアイデアにもつながります。」という文で、「協力することで、自分にもベネフィットがあるかも。より美味しい品、例えば肉を送ってもらえるかも」と思える。
  5. 5. ITリテラシーが低い人も、「私でも迷わず投稿できそう!」と思える
    「感想投稿はとっても簡単!」という文と共に、ふるさとチョイスを使っている人と、楽天ふるさと納税を使っている人向けに、それぞれわかりやすい3 stepが書かれている。ふるさとチョイスだと、「感想投稿」「マイページ」、楽天ふるさと納税だと、「レビュー投稿」「購入履歴」といったように、サイトで表示される言葉を使ったガイダンスがなされている。

仕事の場面で自己肯定感が増し、最善を尽くそうと思わせてくれた表現
 研修の依頼を喜んで受けようという気にしてくれた表現の例を紹介する。
「やっぱり研修のプロに頼みたいですから」
「ご送付資料の内容を拝見させて頂き、事務局一同、期待とワクワク感で一杯になっております」
「我々、学ぶところ多しです」
「ファシリテーションをやってもらえるということで、個人的にとても嬉しいです」

やる気を大きく下げる言葉
これまで述べてきたように、ちょっとした気遣いの言葉が大きなプラスの効果を生む一方、やる気を大きく下げる言葉もある。
 「井上さんなりに、経験談を話してくれた」と書かれた依頼文を受け取った瞬間思ったこと。「井上さんなりに、ってどういうこと?私の経験は不足していると思ってるの?それなのに、その経験の共有をしてくれ、というのは、失礼じゃない?」と。但し、関係性を悪くしたくなかったので、返事のメールの中ではその点には触れず、いかに経験を共有していったらいいか、についての提案だけに言及した。
 そして、私が言葉の意味を誤解していると相手に失礼になるので、念のため、後で「なりの」の意味を調べてみた。すると、「~にふさわしい」という意味で、「その立場や状況に合った行為や態度や物事について述べる表現です。物事の欠点や不足している点を認めた上で、プラスの評価をする場合によく使われます。」と解説しているサイトが見つかった。N1文法 ~なりに|日本語教師のまる得 (blognihongo.com) 実用日本語表現辞典でも、「自分に相応の程度に。」という表現があった。「自分なりに(じぶんなりに)」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書
 残念だったのは、「井上さんなりに」の中でその人が言及していた領域が、私がその人よりも実績をあげてきて、周りの人からも評価を受けている研修だったこと。だから、私も否定的に反応した。私が苦手としている領域についての話だったら、否定的に反応することはなかった。
 ITリテラシーが低いことは自覚しているし、周りにも自ら公言している。だから、「井上さんなりに、この新しいソフトを使おうとしてみた経験」と言われたのなら、その言葉を素直に受け入れただろう。「私は苦手なりによく頑張ったよね」と、自分をほめたい気持ちになったかもしれない。

相手の立場への配慮を欠いた依頼
 通常は、私自身、相手の立場に立って、言葉を吟味し誠意をもって依頼しているつもりだ。しかし、先日大事な場面でそれができなかった。私が書いている本のネイティブチェックを甥に依頼した時のこと。急遽刊行が決まり、焦っていた。お盆休みで仕事モードではなかった。友達と過ごしており、じっくり取り組むことができなかった。全て言い訳だが、結果として、超短納期で、日本語と英語が混じった状態で送った。原稿から確認してもらいたい英文だけを抜き出すこともせず。依頼する時は、深呼吸して冷静さを取り戻してから行う、というのがこの時得た教訓だ。

相手が喜んで依頼を受けてくれるような文を書くことができるよう、研鑽を続けたい。

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