例会部会
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『第278回例会』報告

中前 正 : 10月号

【データ】
開催日: 2022年8月26日 (金)
テーマ: 「WELL-Beingな未来の為のプロジェクトマネジメント」
~東芝健保の目指す人・企業・社会の姿~
講師: 東芝健康保険組合 システム担当 グループ長
竹本 成司 氏

◆ はじめに

各種プロジェクトをマネジメントしている中で、プロジェクトメンバーの心身の不調に悩まされた経験のある方は多いのではないでしょうか。不健康によるメンバーのパフォーマンス低下は、プロジェクトのスケジュール遅延やコスト超過、品質低下などにつながるため、プロジェクトマネジャーとして何らかの対策が必要になってきます。とはいえ、多くの企業では従業員の健康は人事部やライン組織が担っており、プロジェクト組織内でメンバーの健康維持に積極的に取り組むというのもなかなかハードルが高いことと思われます。

ところで、従業員の健康増進の担い手の一つとして、健康保険組合の存在があります。急速な高齢化や生産年齢人口の減少など、われわれの近辺でも起こっている社会課題に対し、どのようにアプローチして克服しようとしているのか。その実態を語っていただくことは有益と考え、今回の例会では東芝健康保険組合でさまざまなプロジェクトに取り組んできた竹本成司氏を講師にお招きしました。以下、要点を抜粋して紹介します。

◆ 講演内容

1. 東芝健保を取り巻く環境の変化と課題

健康保険組合とは
  健康保険とは健康保険法に基づく公的医療保険であり、健康保険組合はこれを国の代理で行っている組織(公法人)。
  東芝健康保険組合は1926年設立(2022年で設立して96年)。加入者数は2022年6月末現在で186,791人。事業主(所管会社)は同3月末現在で159社。

時代背景と健康保険組合に求められる役割の変化
  高度経済成長時代のピラミッド型人口構成から、少子高齢化により現在はひょうたん型の人口構成に。高齢者1人を現役世代16人で支える時代から、2人で支える時代へ。
  健康増進法(平成14年)、高齢者の医療の確保に関する法律(平成20年)など各種法律が整備されてきた。そして健康保険組合には特定健診・特定保健指導の実施、データヘルス計画の策定、コラボヘルス推進などが求められるようになってきた。(医療・治療から予防へのシフト)。

健康保険組合を取り巻く状況 「2022年危機」
  2022年から団塊の世代が後期高齢者(75歳~)に。それにともない健保の拠出金負担の急激な増大や健保財政への多大な影響が懸念されている。

2. 健康経営とは

健康経営とは
  「人という資源を資本化し、企業が成長することで、社会の発展に寄与すること」という経営戦略のこと。
  企業理念に基づいて従業員の健康保持・増進に取り組むことで業績向上や企業価値向上につながる。また健康寿命の延伸、国民のQOLの向上といった社会的効果も見込まれる。

健康経営優良法人認定制度
  従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を顕彰し「健康経営に取り組む優良な法人」として見える化する制度。2022年度から日本経済新聞社が運営している(参照:ACTION!健康経営|ポータルサイト(健康経営優良法人認定制度))。
  健康経営優良法人2022に申請し認定されたのは、大規模法人で2,299社、中小規模法人で12,255社。年々増加している。

健康経営の深化
  健康投資は「新しい資本主義」の中でも重要な要素であると、岸田総理が国会で答弁した。
  深化の方向性としては、健康投資の取り組み状況の開示の促進、健康投資の効果の分析、国際的な発信を通じた日本ブランドの確立が挙げられている。

3. 東芝健保が目指す未来とプロジェクトマネジメント

組合内促進プロジェクト
  マイナンバーカード・マイナポータルへの対応を行った。全加入者のマイナンバーと個人単位番号を紐付けし、加入者自身で健康関連情報やライフログを管理してもらうことを促進した。
  保険者と企業が積極的に連携して健康づくりを効率的に行う「コラボヘルス」を推進した。多くの薬剤を服用し健康を害してしまうポリファーマシーの抑制や、がん検診の促進、がんの治療と勤務の両立支援などにつなげた。

組合外関係者(健保連)との連携プロジェクト
  健保連神奈川連合会との連携。保健事業関連データ報告の仕組みを通じて、健康施策の例やその結果など、各種データを共有し合った。
  コロナ禍による受診控えや運動不足による肥満割合の増加など新たな課題も発見できたが、データの精度にまだ難がある。データ分析・活用を発展させること、企業や加入者の行動変容につなげることなどが課題である。
  企業は健康経営を実行、健保連はデータ報告と各種支援事業を実行、そして健保組合は電子化を整備して健康に関するデータを利活用する「データヘルス計画」を実行する。この3者の連携により、加入者のさらなる健康増進が期待できる。

会社との連携プロジェクト
  東芝健保と東芝が連携して、健診データから将来の健康リスクをAIによって可視化する取り組みを推進した。
  AIの予測アルゴリズムの特徴としては、高い疾病予測精度とロバスト性、リスクを下げるための生活習慣の改善提案機能が挙げられる。疾病予測と改善提案というソリューションをつなぎ合わせることで、自然と健康になっていくユーザー体験を提供する。
  今後の展開としては、コロナ禍による生活様式の変化がもたらす生活習慣病リスクを可視化して対策につなげること、また不眠症や頭痛といった症例とゲノムデータを突き合わせて次世代の健康管理手法を開発する研究が進められている。

4. 最後に - 東芝健保が描く人・企業・社会の姿 -

企業理念・経営戦略の変遷
  これまでは「理念・方針(ビジョン)」、「戦略策定(ミッション)」「対策検討・施策実行(バリュー)」の三層構成だったが、今後はそこに、土台としての「行動指針(クレド)」と、上位概念としての「志や存在意義(パーパス)」が加わり、より立体的に企業理念を構築し経営戦略を実行していく。

健康経営戦略の進め方
  健康経営は企業の経営戦略とリンクして展開していく必要がある。その際、パーパス、ビジョン、ミッション、バリューを明確に定義して浸透することが重要である。

WELL-Beingな企業とは(人材から人材へ、そして会社の成長へ)
  WELL-Beingとは、「健康」であり、「幸福」であること。
  WELL-Beingな企業とは、会社の理念に共感し誇りを持っている社員が、いきいきとワクワクを持って働いており、社会的評価も高い企業である。
  さらに、WELL-Beingな社員とWELL-Beingな企業の相乗効果により、持続可能な社会とWELL-Beingな未来が実現できる。東芝健康保険組合は社員(とその家族)、企業、健保、社会の4方良しのWELL-Beingを目指していく。

◆ 講演を聞き終えて

私の属している企業でもさまざまな健康増進策が実施されており、これまで何気なく利用してきましたが、本講演を聞いて「こんな理念や方針で実施されていたのか」「健康保険組合や健保連の施策とこういうつながりがあったのか」と気付かされることが多くありました。

また冒頭で、プロジェクトにおいてメンバーの健康を保つことの難しさについて述べましたが、思えばプロジェクトやプログラムも企業理念や経営戦略と合致させながら進めていくものなので、健康経営とも相性は悪くないはず。そう考えると、今回お話しいただいた施策例はプロジェクト内でもいろいろ活用できそうだと思いました。当日参加された皆さまはどのように感じましたか。

例会では、今後もプロジェクトマネジャーにとって有益な情報を提供してまいります。引き続きご期待ください。

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