例会部会
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『第277回例会』報告

増沢 一英 : 9月号

【データ】
開催日: 2022年7月22日 (金)
テーマ: 「お客様が求めている品質とは何か?」~品質の正体を解き明かす~
講師: 枝窪 肇 氏  横河電機株式会社 デジタルソリューション本部
デジタルソリューション品質保証部

◆ はじめに
今回の例会も、会場とオンラインでのハイブリッド・セミナーでの開催になりました。会場には、執筆者のほかに、2名が対面参加され、講師の説明に都度視線を動かしつつ、対面講座の良さも味わっていました。
品質とは何か?講演の主旨は、未来永劫の課題のようにも思われます。振り返ってみると、日本製品=高品質、という言いまわしは以前ほど流布していません。このようなことを考えつつ、品質とは管理するのに難しいものだという漠然とした思いも抱えて、講演を伺いました。

◆ 講演内容
  1. 1. Made in Japanブランドの考察
    日本製品は、機能の信頼性や耐久性、安全性、使いやすさ、に重点を置いた丁寧な造りがブランド力でした。それに対して、今では、多様な技術力の進歩によって、顧客の様々なニーズを満たすことが可能になりました。また、コスト競争力の強化も力が注がれて、顧客のニーズを満たすための重要な要素になりました。顧客の多様なニーズは、様々な技術のインテグレーションという進化をもたらしました。近年では、社会的な要求も顧客ニーズの重要な要素として含まれてきています。
    このような中で求められる品質は顧客ニーズを抜きに語れません。つまり、顧客のニーズを満足させることを念頭に、製品の品質管理を実施することが求められているということです。
    因みに、このような状況下でも、常に100%を追求し、手抜きしない完全無欠のJapanブランドの価値は決して失われてはいません。ただ、多様な顧客ニーズ(時間やコストも含まれます)のすべての分野の品質目標を、かつて培ってきたJapanブランドのやり方だけで達成するのは難しい時代になった、ということだと考えています。

  2. 2. 顧客が満足する品質を提供する
    品質の拠りどころは、自社の基準も含めて様々ですが、規格が基本的な品質の基準といえます。例えば、ISO9001は世界中の多くの企業で認証取得されている品質マネジメントシステムで、1987年の初版以降、「手順を整えてそれを厳格に順守する」ことが重視されてきました。しかし、2015年の第5版では、「顧客要求の実現」を重要視する内容に改訂され、そのためのプロセスアプローチの手法を採用し、リスク思考と、PDCAの思考を盛り込んでいます。
    顧客がどのようなモノやサービスを要求しているのかを見誤らずに、確実にその要求を満たすためのアプローチを心がけることが、品質向上につながるものだと言えます。
    通常、顧客のニーズは多岐に亘ります。「製品」を例に挙げると、機能、適法、安全、デザイン、コスト、投入時期、利益・効率、等に加えて、SDGsやESGもニーズになります。このような顧客のニーズに対しては、社内部門、経営層、顧客を含む社外のステークホルダーが、個々の要素のレベルに応じて、責任主体を担当したうえで、真の顧客ニーズを把握して、品質を作り込んでいく、というアプローチが重要です。
    また、顧客のニーズの中には、自社製品のみならず他社製品の知識や、IT技術も必要となる物も多く、製品やサービスの品質要素の範囲が、広く、複雑になる事も忘れてはなりません。

  3. 3. 品質を表す特性
    製品やサービスの提供に際し、品質を幾つかの「品質特性」に分解した優先度指標として活用することができます。
    1. (1) システム及びソフトウェアの製品品質モデル(JIS X 25010)
      ソフトウェアの品質を、機能適合性、性能効率性、互換性、等の8つの特性と、さらにそれらの副特性で規定するものです。
    2. (2) データ品質モデル(JIS X 25012)
      データの品質属性として、固有の視点(データそのものの品質)と、システム依存の視点(コンピュータシステムでデータが持つべき品質)を考慮しているのが特徴です。
    3. (3) 6つのサービス品質要素(諏訪良武氏提唱)
      サービスは無形であるがゆえに明確な評価指針を持つのが難しいものの、シンプルで考えやすい6つの評価軸(正確性、迅速性、柔軟性、共感性、安心感、好印象)を用いることで、「このサービスにはどれが重視されるべきか」を考えることが提唱されています。

  4. 4. サービス品質の向上
    品質=顧客のニーズの満足という視点から、サービス品質の6つの要素を取り入れた業務プロセスの解析例を示します。
    顧客のニーズを満たすためのアプローチとして、製品を提供する各フェーズで6つのサービス品質要素(評価項目)を具体的に定義し、どの要素が重要かを評価したチェックリストを作成します。通常、顧客の多様なニーズの全てに、十分な対応をすることはできないため、優先度を設け、チェックリストで明示する事が重要になります。
    チェックリストから、チェックリストで定義された項目を達成するために必要な業務を洗い出し、品質管理計画作成します。
    フェーズごとに達成度が共有できるので、品質の提供度合いを中間評価することができます。また、担当者を割り当て、チェックリストを基にしたスキル定義ができ、サービス力量の向上に役立ちます。
    顧客満足が品質の原点である、という考えが浸透し、サービス品質を確保する事の重要性が急激に増加しています。

◆ 執筆者所感
要素の品質からアッセンブリーの品質へと、管理の視点が変化し、顧客のニーズが多様化する中で、基準通りの製品を納めることだけが高品質の証ではなくなった。品質の確保は、顧客のニーズを抜きにしては語れなくなったということを、講演から実感できた。サービス品質は、自分には新しく感じられ、説得力もあり、Made in Japanブランドとの違いも理解できた。ただ、サービス品質自体は、それほど最近の話題ではないとの事で、恥ずかしながら自分の不勉強も露呈した。
Made in Japanブランドは過去の物と考える必要もない。製品やサービスの品質特性に分解する中で、「日本品質」が活きる特性は必ずある。むしろ、サービス品質を確保すれば、新たな日本品質が蘇るのではないかという、期待感も持つことができた。
あっという間の1時間半の例会でした。今、必要とされる品質基準について分かりやすくお話頂いた枝窪様に、心からお礼申し上げます。

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