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「きぼう」日本実験棟開発を振り返って (47)
―「きぼう」の窓から空気漏れ?―

PMマイスター 長谷川 義幸 [プロフィール] :10月号

○ 「きぼう」の窓から涙?
図 1 「きぼう」船内実験室の窓側の様子  図1(出典:JAXA)のように船内実験室には2つの窓があります。2003年12月、米国フロリダ州ケネディー宇宙センターで「きぼう」最終機能試験のために、窓のリークテストを行っていた時の話です。ISSの実験棟は宇宙では真空なので船内の空気が宇宙に漏れると宇宙飛行士の命が危なくなります。そのため、船外と接するあらゆる箇所の空気漏れ試験をします。図2のリークチェックポートから真空引きをしていましたが、規定の時間がたっても所定の真空度に達しないのでさらに時間を延長して真空引きをしていました。しかし、いくらやってもだめです。翌日もやりましたが同じでした。もう一つの窓のリークテストは合格でした。試験機材の問題か、試験方法が悪いのか、不具合か、関係者は頭をひねりました。注意深く窓の点検をしていた作業員はリークチェックポートにわずかな透明な液体を発見しました。NASAに分析を依頼しました。この窓は、ボーイング社が米国の実験棟のために開発したものでJAXAは同じものを購入していました。構想段階では、国産の深海潜水艇などの技術が応用できないかと検討しましたが、国産は頑丈なのですが重量が重く容積も大きく、宇宙仕様にするには軽量なガラスやポリカなどの素材を開発しなければならないのですが、開発をしてくれる国内企業はありませんでした。購入したこの窓はすでに納入されてから相当時間がたっていました。

2.ボーイング社と契約する
図 2 「きぼう」船内実験室の窓  NASAから液体の分析結果が届きました。水でした。なぜ水なの? 直ぐには理解できませんでした。ボーイング社の窓関係の作業はNASAの分を含めてすべて終了し作業グループは解散し機材もない状態でした。不具合調査と修理をするには、製造した企業と契約して進めるしかありません。しかし、製造工程はブラックボックスでしたので、調査の内容を詰めるのに時間がかかりました。船内実験室担当マネジャーO氏は積極的に船内実験室開発企業とNASA構造担当との間を動き回り、スコープの特定を開発企業と共同で行いました。私もプロマネとして開発企業の迅速な作業促進を指示するともに、NASAのISSプログラムマネジャーに協力依頼を行いました。「なんの不具合が起きたのか?」「窓の構造はどうなっているのか?」など特注品の情報をNASAからもらうとともに船内実験室開発企業の技術者の力をかりてこれらを紐解くのにエネルギーをかけた作業となりました。業務内容の特定、コストの算定、および米国国務省の輸出承認などを行いようやくボーイング社との契約にこぎつけました。ケネディー宇宙センタークリーンルームの船内実験室から当該窓を外し、2005年2月にアラバマ州のボーイング社に送り返すことができました。そして、ボーイング社から図面が送られてきました。この窓は図2のように4枚の焼結ガラスで構成され、外側の2枚は薄い傷防止用保護用で、内部2枚のガラスの間に空気などが入ると曇るので、真空排気用の通路を設けて船外に空気を排出します。空気のリークをチェックするためのポートがあり窓が密閉されていることを試験できる構造になっていました。
 しばらくして不具合調査の結果がきました。製造時にリークチェックポートの穴を塞ぐ部材の挿入が適当でなく通路が完全に遮断できていなかったためでした。
 出荷時には問題はなかったと記録にあるとしています。もし、この不具合がここで発見できていないと宇宙に上がって空気がもれ宇宙飛行士の生命が危なくなったかもしれないと思うと、試験をしてよかったと思いました。しかし、瑕疵で処置するかどうか契約調整が必要になり作業中断し、契約担当と協議をしましたが、業務は続行することになりました。

3.窓ガラスに傷をつけた!?
 その後のボーイング社の作業は順調でした。しかし、衝撃の報告が飛んできました。
 2005年8月、ボーイング社の品質管理技術者が修理後の窓ガラス表面をブルーライトで点検中に、そのライトを落としたため、傷防止ガラス表面に傷をつけてしまったというのです。このままでは、「きぼう」に搭載できません! でもJAXA担当マネジャーO氏は冷静でした。直ちにボーイング社の在庫と予備品の調査を実施しました。でも、「予備品はない」「ガラス製造業者のコーニング社は宇宙から撤退して代替品は製造できない。」との報告。この報告を受けて私はしばらく天井を見上げていました。《さあどうする? 「きぼう」の窓は2つあるから片目で打ち上げるか?》 一方O氏は、不具合の善後策をNASAと協議していました。ある朝一番にO氏は朗報をもって報告に来ました。「NASAは同等の窓を1つだけ持っている。これをJAXAに提供してもいい。」 その窓は、ISS初期の構成要素であった米国居住棟に設置するためのものでしたが、米国政府のISS見直しで居住棟は開発中止になり、NASAの倉庫に保管されていたものでした。私たちは、NASAより購入することを決めNASAとの契約を含めた調整を進めることにしました。どんよりしていた空気がぱっと明るくなりました。でもO氏が心配したのは、「窓ガラスの点検でまた物を落とすのではないか?」 ボーイング社が嫌がっていた工場でのJAXA立ち会いを認めさせ、技術者を派遣して連日作業監督を行いました。この結果、当初の計画通リ2005年10月20日にNASAケネディー宇宙センターに新しい窓を納入、11月~12月にかけて「きぼう」に取り付けリーク試験を実施し、問題ない結果がでて関係者一同胸をなでおろしました。まさにぎりぎりのタイミングで窓の修理が終わったのです。また、2005年7月に、事故で打ち上げを中断していたスペースシャトルに野口宇宙飛行士も搭乗し、打ち上げを再開させました。
 2008年5月、「きぼう」を打ち上げた後、米国実験棟で原因不明の気圧低下が起きました。宇宙飛行士が必死の調査を連日行ってついに原因を突き止めました。宇宙飛行士が実験のために窓付近で作業をするとき、ふわふわしている姿勢を固定するためホースを握るのでホースの付け根にクラックができて外部に空気が漏れていたのです。この対策のため、NASAもJAXAも宇宙飛行士がホースに触れないようにカバーする箱をつくり、後から打ち上げて取り付けました。 (1)

 「きぼう」を打ち上げてから14年以上経過しましたが、幸い窓の空気漏れはおきていません。

参考文献
(1) PMAJオンラインジャーナル『「きぼう」開発を振り返って』、「謎の気圧低下、空気漏れ?」2019年4月号

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