PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (144) ( Feasibility Study )

向後 忠明 [プロフィール] :10月号

 これまでの話は「可能性の範囲が見える将来(新規技術による既存業務のイノベーション)」の事例について中央銀行のシステム開発案件を例に説明してきました。
 不確定な顧客要求から各種分析を通して課題解決を行い顧客との共創によりプロジェクト基本技術要件およびプロジェクト目標作りまでの手順を説明してきました。

 ところで、初めての事業やプロジェクトにおいてはその事業またはプロジェクトの採算性というものを検討することが必要となることがあります。すなわち、事業の立ち上げやプロジェクト実行までたどり着いても採算性のないシステムまたは設備の場合、顧客としてもその事業またはプロジェクトをやめるかまたは再検討をする必要が出てきます。その結果、設定された予算、スケジュール、そしてシステム仕様の縮小、中断ということになります。
 そのようなことが発生しないよう、各種プロジェクトを含む新規事業などの採算性について検討する必要が出てきます。これを事業可能性検討(Feasibility Study:フィージビリティスタディー)と言います。
 今回の中央銀行システム開発の場合は国のトップからの指示であり、顧客は資金的な問題より国の金融システムのDX化を優先したためこの検討は省略できました。
 しかし、必ずしもそうでないケースもあるのでプロマネを志す人はこのフィージビリティスタディーについての知識も必要となります。
 フィージビリティスタディーの目的はプロジェクトの実現可能性を事前に調査・検討することで、「実行可能性調査」「企業化調査」「投資調査」「採算性調査」とも呼ばれ、「F/S」と略記される。
 このような検討はプロジェクトの始まりに行えればよいのですが、すでに述べたように検討に必要なデータは初期投資コストをはじめシステムや設備を導入することによって得られるキャッシュフローや便益(例えば生産性/効率、人件費の減量等々)の調査が必要となります。なお、インフラ設備のような場合はお金に換算できないような社会的便益も考慮しなければならないケースもあり、JICAのような調査案件でも求められる場合もあります。
 フィージビリティ・スタディ(F/S)にはファイナンスにかかわる基礎的知識が必要となるので、以下にそのポイントを簡単に説明しておきます。
 民間事業者がプロジェクトや事業を新たに起こしたりする場合、必ず私的金融をベースにした資金が必要となりその拠出先、融資先そして資金の借り方など検討しながら事業やプロジェクトの生成を進める必要が出てきます。
 当然のことであるが、投資家、および金融機関が資金を融通するにあたって考える主なポイントは以下の通りです。
  1. ①資金の出し方または借り方
  2. ②資金の拠出または融通に当たっての投資対効果
  3. ③その後の投資安全性や収益性の検討
ファイナンスの関与する度合いは、事業またはプロジェクトの生成から完了までの間における各段階での仕事の役割や立場そして上記に示したポイントへのかかわりも変化してきます。
 ここではプロジェクトマネジメントに携わる者として今回の中央銀行のような海外で遂行するようなケースでF/Sを求められたらどうするか、プロマネとして「この程度の基本知識を持っていることが必要」というレベルの内容で話をしていきます。
 一般的に出資者又は銀行が出資をするにあたって、対象となる企業またはプロジェクトにそれだけの価値があるかどうかを検証する必要があります。この検証のためには各種データに基づき技術的そして財務的に検討が行われ、その企業またはプロジェクトが投資や融資に値するかどうかの費用対効果を見る必要があります。
 下図に示すように金融機関も民間企業もそれぞれの事情により資金の貸し借りの健全性を見てその信憑性を確認することが必要となります。
 この企業活動により発生するキャッシュフローをみて、金融機関、そして事業者またはプロジェクトに必要な投資金額と運用にかかわるキャッシュインとキャッシュアウトの関係をマネジメントすることがFSです。


 本エッセーにて説明のF/Sは企業の設備投資による新たなプロジェクトの生成や起業といった新会社の立ち上げによる事業展開の場合を対象とします。
 この場合、投資によって得られるキャッシュフローはどの程度あるか、また投資または融資した資金が確実に戻ってくるのか、これを投資家(企業内融資も含む)も金融機関も、「資金」を出す以前にその価値判断を検証する必要があります。
すなわち、
  1. ①投資または融資した金が回収できるか?
    全事業期間を通して事業運営に必要な運営費を払い、ローンの元利や金利を払っても、十分な利益を還元できるかという事業の収益性からの検証が必要となります。
  2. ②その回収にはどのくらいかかるのか?金融機関も投資家も融資または投資した金が早く戻ってきたら、その金を再投資や再融資の資金として使えるので、この金の回収される期間が重要となってきます。
 このように事業またはプロジェクトに投資または融資に対しての意思決定をするための方法として少なくとも下記に示すような財務分析に関する知識はプロマネになったら必要となります。
 一般的に起業や投資する際にキャッシュフローをベースとした(DCF:Discount Cash Flow)とIRR(Internal Rate of Return)はその投資判断基準として使用されています。
 ここでの基本的考え方として投資家または会社の立場からいえば「いくら利益を上げたか」よりも投資により「いくら手元にキャッシュが戻って来たか」が重要であり、企業経営者も同じ考えです。
 ここでDCF のIRRの基本的な考え方を述べてみます。
DCFとは
  CFは事業が生み出す毎年のキャッシュフロー(金利、税金、減価償却費前利益、すなわちEBITED: Earning Before Interest Tax and Depreciation)の見込み計算を行い、そしてキャッシュフローを利子率(i)で割り引いて投資の回収額を現在価値(NPV: Net Present Value)を算出するものです。
この計算の結果、累積の現在価値が事業の一定の期間(投資対象となった設備の法定耐用年数)にプラスとなればこの投資は問題なしと判断できる。
すなわち、DCFでは割引金利が高ければ現在価値(NPV)は小さくなり、逆に割引金利が低ければNPVは大きくなる。
IRRとは
  IRRは、DCFを行った計算結果算出されるキャッシュフローの現在価値が投資金額と全く同一となる場合の割引金利のことを言います。すなわち、投資金額と全く同一となる場合の割引金額を言います。つまり、投資から毎年得られるキャッシュフローの現在価値と、投資額が全く同じとなる割引金利が計算上求められるが、その金利のことをIRR と言う。
IRR を投資判断でどのように利用するかというと、企業が決めてある投資に値する基準利回り(ハードレート)以上の場合は投資し、それを下回る場合には投資を行わないといった判断とします。
 このようなキャッシュフローマネジメントの考え方はプロマネに必要ないと思う人がいますが、課題解決の結果不確定要件が確定した場合に、仮にその案件が設備投資などを含む場合には必ず必要となる知識であり、プロマネの知識としてその使い方も理解しておく必要があります。

次月号ではその具体的利用法について話をしていきます。

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