PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (145) ( Feasibility Study )

向後 忠明 [プロフィール] :11月号

 ディスカウント・キャシュフロー(DCF)の基本的な考え方は、「将来の100万円は今の100万円とは違う」ということです。なぜ、違うかというと、世の中には必ず「金利」というものが存在するからです。「金利」が存在する背景には「物価上昇、インフレ」があります。
 もし、ここに100万円があり、そのまま手元においてもっていても何年たってもその100万円は全く変わらずそのままです。しかし、時間と共に物価の上昇というものがあり、例えば10年後に持っていた100万円で買い物に行ってもその時は100万円の価値の物は買えなくなっているでしょう。
 物価上昇がほとんどない状態でも、今の100万円と将来の100万円とは同じではありません。物価上昇だけではなく経済活動の変化により各種要素が絡んでくることにより貨幣価値も変化することになるためです。
 要するに、物価上昇や金利の変化などにより今の100万円が将来の100万円とは異なってきます。DCFの場合は事業などが生み出すキャッシュフローを金利で割り引いて現在価値にしたものの合計を算出します。
 すなわち、現在価値とは下記のような式で説明できます。
 なお、 Cfnはn年目のキャシュフロー iは金利

 このように DCFの基本的な考え方は、金利から元金を算出する方法です。上記に示す各年のキャッシュフローは この計算をするときはあくまでも予測された数値であるが、投資する時点での投資に見合う売上予測を行いそれぞれの年度におけるCfを示し、この計算式に基づいて現在価値に引き直して合計を算出する必要があります。
 その結果のNPVが投資した金額より上回ればこの投資は正常であると判断できます。
 ただし、この時の金利(i)は銀行などからの融資を依頼しているのであれば銀行のその時点でのハードレートを基準に考えていく必要があります。
 当然算出されるNPVはこの金利に大きく左右されます。
 このハードレート設定の場合のリスクプレミアムも恣意的になりやすい問題もあります。企業の資金調達は銀行よりの融資だけではなく投資家からも投資を依頼する場合もあります。このようなことも考慮してリスク資産の期待収益率において価格変動リスクの対価も考慮するリスクプレミアムといったことも考慮しなければなりません。
 このようにDCFで求めたキャシュフローの現在価値(NPV)が企業価値のベースとなります。
 なお、M&A等に際して企業価値を算出するDCFは事業が生み出すキャッシュフローの現在価値から負債やのれん代、そして偶発債務等を差し引いたものであり、そこから求められたキャッシュフローの現在価値が企業価値となります。
 この際に使うキャッシュフローはすでに前月号でも述べたEBITD(Earnings Before Interest Tax and Depreciation)金利、税金、減価償却費前利益を用います。
 すなわち、減価償却費、金利、税金も関係ないベースのキャッシュフローで企業が生み出す価値を算定する方法であります。

 さてここまではM&Aなどの企業買収の際の企業価値の算定などでしたが、今度は投資またはプロジェクト(投資対利益)の判断基準としてのIRRについて話をしたいと思います。
 IRR(Internal Rate of Return)とは設備投資などでの生み出すキャッシュフロ―が現在価値となる場合の割引金利のことを言います。
 このIRRの算出は投資金額の現在価値と照合するための計算法であり、投資額がその投資の生み出すキャッシュフローの現在価値(NPV)になるように割引率を算出し、その数値がある一定の投資に対する基準利回り「ハードレート」以上になれば投資を行う価値があり、そうでなければ投資を行わないというものです。これを「投資対効果」とも言われています。
この計算はトライアンドエラーでの計算となりかなり労力が必要となるのでパソコンに頼ることになります。
 ちなみに、そのソフトは一般市中に手も手に入るので、それを利用するとよいです。
  Bn : 各年のアウトフロー
  Cn : 各年のインフロー
  n : 期間
  i : IRR
 例えば1年目50、2年目60、3年目70のキャシュフローのケースを金利5%で計算した場合、そのキャシュフローの現在価値NPVは以下のようになります。

 上記の結果、投資金額が 162.5とすれば、そのIRRは5%となります。
 よって、上記にキャッシュフローによって得られた実際の累積値は50+60+70でその合計は180となるが、出資金額に金利がついていなければそのまま180のキャッシュが手に入ります。しかし、実際は投資金額が180であっても3年後にはその投資価値は162.5となります。
 ところで、IRRを算出しても、それを比較対象するものがないと意味がありません。そこで通常はIRRを企業が投資する際の基準金利である「ハードレート」を見て投資の可否を決定します。すなわち、ハードレートよりIRRが高ければ投資を行い、そうでなければやめるといった判断の材料となります。
 ハードレートは企業独自で決定されるものであり、通常銀行よりの融資であれば銀行の金利にリスクプレミアムを上乗せした金利となります。一般的にはこのリスクプレミアムは投資案件によっては高く設定されます。
 日本の場合、現在金利は低いのでリスクプレミアムを載せても3~4%と聞いていますが、ある発展途上国でのPFI事業では公定レートも高く、その上カントリーリスクも多い事業だったので15%といったかなり高いIRRを設定することもありました。

 以上がキャッシュフローに関する概要ですが、我々プロマネに必要な知識としては投資したものや設備がその法定償却期間内にてその現在価値が投資額より大きく、そしてその時採用した金利が金融機関または投資家との約束金利より大きければ問題ないということになります。
 この程度のことを理解していれば投資されたプロジェクトの価値判断をするためのFS(フィージビリティースタディー)とはどういうものか理解できると考えます。

これまで課題解決の話をしてきましたが、その結果のプロジェクト投資額が妥当かどうかの検証が必ず発生してくるので、プロマネとしてはIRRとNPVに関する知識をもってそのプロジェクトに対応していくことも必要となります。
 このように、今後のプロマネとして持つべき知識はさらに高度なものが要求されるようになります。
 なお、今回の「ゼネラルなプロ145」までは小生が現役を退き書き始めたエッセーですが約12年の長きにわたり書いてきました。
 現在は企業を取り巻く環境にも大きな変化が発生してきています。DX、SDGsやイノベーションといった言葉がいろいろ出てきています。
 しかし、我々プロマネはあまりこのような言葉に惑わされることなく、あくまでも与えられた時代の変化によって求められる複雑なプロジェクトやビジョン設定型によって与えられた曖昧な問い「何をしたいのか?」といったテーマを「このように解決する」といったことから始まるプロジェクトも多くなると思わなければなりません。
 「明確な指示がないからできない、この案件は内容が不明確」などと言って後ろ向き対応をするプロマネは失格だと思います。
 今回、説明してきたFSについても「ファイナンス」にかかわる知識は課題解決での最終段階で課題提案者(プロジェクトで言えば顧客)との共創による基本設計終了時点でプロジェクト投資金額がわかったところでこの投資が妥当かどうかの検証に必要となります。
 以上がFSに関するプロマネとして持っていなければならない基本的な知識です。

次月号は(失敗の構図とリスクマネジメント)について話をします。

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