今月のひとこと
先号   次号

 インサイト 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :9月号

 夜になってもうるさかったセミの声がコオロギと交代し、漸く秋の気配が漂ってきました。あいかわらずの残暑が続きますが、最高気温が30℃前後だと過ごしやすいと感じるようになっているのが不思議です。今年は猛暑が続いたうえに台風が少なかったので、梨、桃、葡萄、無花果は甘みが強く、豊作だそうです。さらに涼しくなると栗や柿が出回るでしょうから、目一杯秋を堪能しようと、今から楽しみにしています。もちろん、ひやおろし(秋上がり)の日本酒もかかせません。

 今月はPMAJにおける一大イベントであるPMシンポジウムが開催されます。今年も様々なプロジェクトに関する講演が準備されているので、開催の日を心待ちにしている方も多いと思います。これまでを振り返ると、プロジェクトの実践事例を紹介する講演に視聴者が集まり、試聴後の満足度も高いという傾向が見られます。プロジェクトマネジメント(PM)の成功事例ですから、PM普及にあたっての宣伝材料になるはずですが、なかなかうまくいきません。実は、PM成功事例の実践者が必ずしもPMを学んだ方ばかりというわけではないのです。
 2000年の初め頃、日本経済立て直しには欧米流を導入すべきという風潮もあり、PMがブームになりPM資格取得者が急増しました。「PMが必要だ。」との解説が溢れかえっていました。それから20年以上も経っているのですが、PMを体系的に学んだ人に伍して学んだことのない人々が、プロジェクトを運営し斬新な価値を生み出しています。そもそもPMの元は、実際のプロジェクトにおける成功事例を分析して最良の方法を体系化してきたものですから、PMを体系的に学ばなくても最良の方策を自ら編み出すことは可能なのです。もちろん、予め体系化されたPMを学んでおいた方が、最良の方策には早くたどりつけるはずですので、学ぶ必要がないということではありません。PMの有識者の中には、近隣の中国や韓国に比べてPMの普及が遅れていることが、日本経済低迷の原因だという方もいらっしゃいます。
 PMブームから20年、日本ではいまだにPMを知らないビジネスマンが大半だという状況はどうしたことでしょう。どこかでボタンの掛け違いがあったのではないかと思えてなりません。
 PM普及をマーケティングの視点で見てみると、2000年のブームが狭い範囲に留まったのは、インサイトに訴えきれなかったというところもあるのではないかと推測されます。インサイトとは、直訳すると「洞察」ですが、マーケティング上は「隠れた動機」といった意味で使われる言葉です。2000年当時、PM普及を推進する理由として整然とした知識体系とか諸外国との競争力だとかが訴えられていました。一部のビジネスマンにはPMを学ぶ動機となったかもしれませんが、大半のビジネスマンには響かなかったのだと思います。日本企業の従来のやり方と何が違うのかとかQCと何が違うのかといった反発もあり、PMについて理解しようと思う人が増えなかったということではないでしょうか。
 PMの有用性といったものを的確に表現したインサイトは、現時点では隠れていて見えません。PMについて興味を持たせるような何か、使ってみようかと思わせる何かなのです。PMの効用について、従来とは異なる表現で表せることができないか、PMの仲間を増やしたいと願う同志の皆様、一緒に知恵を絞りませんか。
以上

ページトップに戻る