グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第165回)
海外向け研修再開

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :9月号

 2011年6月に日本プロジェクトマネジメント協会理事長を辞して以後10年間、海外大学院授業と海外社会人研修で過ごしてきた筆者であるが、今年は、初めて、出番がない月が3ヵ月続いた。5月にウクライナの学者達とウクライナの戦後復興に向けてオンライン・ラウンドテーブル会議を行い、国内では岡山県立大学では、知の理論の特論授業を行ってから、じっと我慢の時であった。
 
 しかし、一応半分は現役であるので、研修の教材を作ることや東ヨーロッパ向けの研究論文を書くことは続けていた。教材では、ポルトガル語の3日間オンライン研修の教材(スライド130枚と説明ノート)を完成した。ブラジル向け研修を関係先財団法人と検討していたが、ブラジルは今年10月2日が大統領選挙であり、また、コロナ禍での経済運営が困難で、とくにインフレが10%を超えており、実施は来年度になりそうである。
 
 論文では、2月24日ロシアのウクライナ侵攻の9日前に開催されたウクライナプロジェクトマネジメント協会主催の冬季学会での筆者のオンライン基調講演を論文化した、“Impact of the New Normality on Strategic Management and Project & Program Management” が、ウクライナ国立大学ランキング第2位のNational Technical University - Kharkiv Polytechnic Institute ハルキウ総合科学技術大学(通称KhPI)の科学ジャーナルに8月に掲載された。

ウクライナプロジェクトマネジメント協会主催の冬季学会での筆者のオンライン基調講演を論文化

 ウクライナのハイテク都市ハルキウ(旧ハリコフ)は、ロシア国境まで30Kmにあり、再々報道されているように、ウクライナに侵攻したロシア軍の砲撃が激しい都市だ。KhPIは2008年からの筆者のウクライナ国立大学巡回講義で2番目に訪れた大学で、戦略マネジメント研究院の主任教授と大変親しくしている。この先生は、ご自身はルーマニアの大学に避難、奥様と二人のお嬢さん(いずれも大学教授)は、ポーランドに避難している。KhPIも一部銃撃で損傷、休校が続いており、教職員も国内外で散り散りに避難というなかで、弊論文を敢えて刊行いただいた。ウクライナの教授達は、筆者の、ウクライナの悲惨な戦禍にあっても何も助けることができないとのお詫びに対して、学術発表と論文発表を続けることが、ウクライナへの何よりの支援である、と言ってくれた。
 
 ロシアのウクライナ侵攻も半年となった。筆者は、かつてロシア人と議論している時に採った戦術は、20分くらい、相手に一方的に話してもらい、そうすると疲れてくるので、そこから反撃を行うということを常としていた。最近の戦況や、ウクライナの戦術をみているとどうも同じことを考えているのか、という気にもなってくる。戦況は長引き、どのような決着がついても勝者がいない悲惨な戦争となろう。
 
 8月29日、(一財)海外産業人材育成協会(AOTS)から委託を受けて、発展途上国の管理職者に向けた3日間のプロジェクト開発・プロジェクトマネジメント研修を開始した。募集人員30名に対して、10か国83名の応募があったが、団体で40名応募した企業には別途機会を与えることで、今回は遠慮願い、定員を増やして40名を選考したが、参加費の送金が間に合わない、休暇にでかけて最終の参加確認ができなくなった、その他の理由で、辞退者が9名出て、結局8か国31名で開催となった。エジプト、パキスタン、インド、バングラデシュ、タイ、ベトナム、フィリピンおよびメキシコが参加国であり、参加者の業種は圧倒的に製造業となっている。
 
 現下の世界では、コロナ禍からの回復が途上であるなかで、天然ガス不足、食料(穀物)不足、インフレでほとんどの国が苦しみ、EUでは全域の47%が旱魃に苦しんでいる。インフレは、日本だけ例外的に2.5%程度で、10%を超えている国が多い。最大はトルコとアルゼンチンで100%に達している。
 
 その中で、東南アジア、南アジアは経済が好調であり、これが、今回の参加者数に表れている。
 
 New Normalityの最たる状況下で、製造業やこれまでPMに馴染がなかった企業のプロジェクト化を支援する研修の様相を呈しているので、講座設計には工夫を凝らし、講義60%、演習25%、Q&A15%で構成し、ZOOMを利用してのセッションに加えて、WhatsAppアプリ(日本のLineに似た国際版チャット・プラットフォーム)を利用してコミュニケーション機会を増やしている。
 
 コロナ禍で、また熱中症に注意しながらの研修は体調と集中力の調整が楽ではないが、いざ研修が始まったら元気がでた。教えることは筆者にとり中毒のようなものだ。
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