理事長コーナー
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構想・企画プロジェクトと実行プロジェクト

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :8月号

 最近、新たな企業からプロジェクトマネジメントの講義を依頼されるケースが増えています。それは私としては非常にうれしいことですので、喜び勇んで出ていくのですが、従来のようなプロジェクトマネジメント理論を説明するだけの講義では満足されないケースが増えてきています。
 それは、ご依頼をいただく企業の多くが、「実施すべき内容が明確に決まっていないプロジェクト」への対応に悩んでいるというのが一つの要因だと考えています。

 以前のPM研修の依頼元は、SIerやエンジニアリング企業といった、プロジェクトを受注して実施している企業が、若手や中堅のエンジニアにPMの基礎を教えてほしいというケースが多かったように思います。したがって、講義の最初の段階で、「プロジェクトマネジメントで最も大事なことは全体のスコープを把握して、段階的に詳細化していくことです。」という話しをして、「全体感を押さえずに、わかっていることから手を付けていくとスコープクリープになりますよ。」と説明していました。
 ところが、最近の依頼元は、社内の業務改革プロジェクトなど、『「何を最終的な成果とするか明確になっていない」業務にプロジェクトマネジメントが使えるのではないかという期待から、PMを学ばせたい』という理由で、講義を依頼されるケースもあるように思います。
 このような研修の場合、プロジェクトマネジメントというよりは、プロジェクトマネジメントの理論としてのP2Mの考え方が当てはまる場合があります。
 特に、3Sモデル(スキームモデル(構想・企画)プロジェクト、システムモデル(実行)プロジェクト、サービスモデルプロジェクト)の説明は非常に便利で、そのうえで「構想・企画プロジェクト」と「実行プロジェクト」について、特徴もやり方も違いますよという説明をすると素直に理解してもらえるケースが多いように思います。
 具体的には、「構想・企画プロジェクト」の特徴は、『おおよその目的(最終結果)はわかっているが、最終的にどんな成果を実現するかが明確で無く、「仮説」を立てて「検証」しながら進めていくので、手戻りが発生するのが前提。』になります。
 それに対して、「実行プロジェクト」の特徴は、『確定した要件を受け、「計画」を立て、「計画」に沿って実行し、計画と実績を対比(監視・コントロール)して、修正行動をとりながら、確実に計画した成果を実現するため、手戻りをできるだけ起こさない。』ことが重要になります。
 このような順序で話していくと、受講生の中には構想企画プロジェクトの担当者もいれば、実行プロジェクトの担当者もいて、それぞれの方が「自分のような業務もプロジェクトなんだ」と安心して内容に入っていけるように感じています。
 思い返してみれば、私自身、企業の情報企画部門に勤務していた時は、たとえば業務改善のプロジェクトなどではWBSを作りながらも、最初の企画フェーズではどんな成果を出すかをみんなで話し合いながら、あっちへ行ったりこっちへ戻ったりして徐々に明確にしていった記憶があります。それがいつのころからか、PMの講義では必ず、「最初に全体感を決めておかないとスコープクリープになりますよ。」などと語っていたことに気づき、反省をした次第です。
 というようなことを考えつつ、先日「本当に使えるDXプロジェクトの教科書」(日経BP社)という本を眺めていたら、最近の典型的なDXプロジェクトの進め方は、最初の構想・企画段階ではPOC(概念実証)やテストマーケティングを繰り返して要件を固め、要件が固まった後はウォーターフォール的に実装し、ユーザーテストで利用者のUX(ユーザー体験価値)のフィードバックを段階的に受けて、リリースしていくという進め方もあるとの内容を読み、3Sモデルとの類似性を感じました。
 VUCA(変動し、不確実で、複雑で、曖昧な)時代と言われる現代においては、多様な価値の実現を目指す、プログラムマネジメントの必要性を改めて感じた次第です。

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