理事長コーナー
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大変革期のプログラム&プロジェクトマネジメント

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :7月号

 最近、「ジョブ型雇用」という言葉がマスコミ等で取り上げられる機会が増えているように思います。言うまでもなく、従来の日本の労働慣行としての「メンバーシップ型雇用」に対立する考え方で、「メンバーシップ型雇用」が、仕事の範囲や成果物があいまいで、職場全体で成果を達成する働き方で、評価が不明確、日本の場合は時間で評価されるのに対し、「ジョブ型雇用」は業務範囲を明確に定め、その業務の成果物を明確に定義し、成果物の評価基準で公正に評価されるので、ニューノーマルの働き方となるであろうリモートワークでも、適切に人事管理ができるというところから、採用する企業が増えていると聞いています。
 「なんだ、プロジェクトマネジメントそのものじゃないか」と、プロジェクトマネジメントに関わったことがある方は思うかもしれません。その通りですね。
 プロジェクトマネジメントの基本も、プロジェクト作業全体を検証可能な成果物単位で要素分解してWBS(ワークブレークダウン)を定め、WBSの最下層のワークパッケージ単位で担当者を割り当て、アウトプットとなる成果物は受け入れ基準で公正に評価される・・・。まさにジョブ型雇用そのものですよね。
 そういう観点からすると、ニューノーマルの時代の業務形態において、業務担当者にとっても、人事担当者にとっても、プロジェクトマネジメントは必修科目と言っても良いのかもしれません。

 ところで、昨年発行されたPMBOK®ガイド 第7版は、「プロセスベースから原則ベースに変更された」という点だけが強調されていますが、むしろ、「プロジェクトの成果物を重視する考え方」から、「プロジェクトが『価値実現システム』というバリューチェーンの中で達成した価値を重視する考え方に大きく変わった」という点が、実は最も大きな変更点ではないかと私は考えています。
 このことは、PMBOK®ガイド 第7版の序文の中に明確に記述されています。
 曰く、「価値実現のためにシステムを重視することは、ポートフォリオ、プログラム、プロジェクトのガバナンスを実施するという見方から、バリューチェーンを重視する見方への変化をもたらす。」(PMBOK®ガイド 第7版 序文 ⅸページ)
 要は、プロジェクトを単に成果物のQCDで評価するのではなく、価値実現システムにどれだけの価値を提供したか(貢献したか)で評価する、なんだか、P2Mのプロジェクトの定義「プロジェクトは・・・・将来に向けた価値創造事業である。」という考え方に近づいてきているような気がしますね。
 結局、業務において創造する価値を重視するということは、プログラムマネジメントとプロジェクトマネジメントが融合された「価値実現システム」という事業活動全体を俯瞰する総合力が必要になるということですね。したがって、ニューノーマルの時代の業務形態において、企業も人も、プロジェクトマネジメントだけではなく、プログラムマネジメントも必修科目となる、まさに「P2Mの重要性が再認識される時代」になったということのようです。

 今年、2022年は、福沢諭吉の「学問のすゝめ」の初編が発行された1872年(明治5年)から数えてちょうど150年目にあたります。この本はすべての編を合計して340万部が売れたと言われており、当時の日本の人口が約3400万人であったことから、日本人の10人に1人が読んだ大ベストセラーと言われています。そして、この本が、明治維新後の大変革期の日本の教育体制の確立と、日本国民の教育の指針に大きな影響を与え、その後の日本の変革と成長を支える人材を育成する契機となったと言われています。
 PMAJは今、2年後の発行を目指して「P2Mガイドブック」の改定作業を進めています。日本人の10人に1人が読むベストセラーになるかどうかは別として、多くの識者が予想する2030年代に起こると言われている全世界を巻き込む大変革期に備え、ニューノーマル時代の必修科目である「プログラム&プロジェクトマネジメント」を身に着けた「使命達成型職業人」を育成する指針を提供したいと考えています。
 そして彼ら、彼女らが、大変革期を乗り切る人材インフラとして活躍し、日本が、世界が持続可能な開発目標を達成することに貢献することを願いつつ改訂作業を進めています。ぜひ、ご注目ください。

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