『第276回例会』 報告
庄崎 肇 : 8月号
【データ】
開催日: |
2022年6月24日 (金) |
テーマ: |
「AWPの実装と普及活動の紹介」 ~建設分野の生産性改善を目指して~ |
講師: |
PMDX-AWP SIG
北林 隆宏 氏 日揮グローバル株式会社
高須 潤 氏 千代田化工建設株式会社
左武仁 ミラド 氏 東洋エンジニアリング株式会社
齋藤 陽介 氏 旭化成エンジニアリング株式会社 |
◆ はじめに
現代の大規模プラントエンジニアリングでは、世界規模での部材調達や作業人員の移動を伴う一方で、知識技能を持った技術者の減少により、従来よりも非常に多くの据付要領書や作業図面を必要とします。プラント建設時の作業人員、部材、および要領・図面の遅れによって全行程の約40%が待機時間であり、工期遅延、建設コスト増の原因のひとつとなっています。AWP(Advanced Work Packaging)とは、プラント建設に使う資源(ヒト、モノ、要領・図面・指示書、スケジュール)にEWP(Engineering Work Packages)、CWP(Construction Work Packages)、IWP(Installation work packages)などをデジタル技術によって紐付け、プロジェクトを効率よく管理する技術です。当日は、大手エンジニアリング会社3社の事例、および、プロジェクトオーナー側の実例を説明いただき、それぞれの立場を比較しながら深くAWPについて理解することができました。以下、要点を抜粋して紹介します。
◆ 講演内容
1. プラント建設における課題
- a) 巨大プロジェクトの失敗 :
多くの石油・ガス系建設プロジェクトにおいて、工期遅延を伴う予算超過が起きており、適正な工期遵守への対策が種々検討されている。
- b) 建設分野の課題 :
昨今のエンジニアリング業の労働生産性指数は、業務のIT化などで飛躍的に向上した他業種に比べて著しく悪い。各工程間の待機時間が長いことが低生産性の要因として挙げられ、この待機は①図面・材料が届かない。②先行工事の遅れ。③リソース管理不足などによって発生している。
2. AWPの紹介
- a) AWPとは :
Advanced Work Packaging(AWP)は、プロジェクトを小単位のWork Packageに分割し、それらを連結して制約条件を事前に検知・解消することにより、スケジュールやコストを管理する手法である。
米国CII(Construction Industry Institute)によって2011年に提唱され、後工程から現工程が定まるトヨタ生産方式の考えを基礎としている。従来の図面・指示書待ちによる待機時間解消を意図した取組みである。
- b) IWPの導入 :
AWPの有するWPのうち、建設作業はCWP(Construction Work Packages)に記される。このCWPは設計作業の成果物を示すEWP(Engineering Work Packages)と紐づけられる。据え付け準備が完了したCWPは据え付け作業のパッケージであるIWP(Installation Work Packages)と連携し、IWPに記される作業詳細と必要な情報に基づいてコントロールがなされる。CWPよりも粒度の小さいパッケージを取り入れることで管理し易くするものである。
- c) AWPに必要なもの :
①AWPの適用思想、②AWP遂行チーム、③建設計画、
④ツール立ち上げ、データ収集
日揮では、現在AWPを適用して装置建設プロジェクトを遂行中であり、実際のコストインパクトについては今後明らかになる。
3. 各社からの発表
- a) 日揮グループにおけるAWP導入効果
- ① 導入前は、多大な紙情報から人力(記憶・筋力)を駆使して1つの情報を探し当てる。進捗は図面を読み取らないと分からない状態だった。
- ② 導入後、電子情報による一元管理(時間・場所不問)が可能となり、建設の進捗状態を3Dモデルで把握可能となった。(デジタルツイン)
- b) 千代田化工建設(株)のAWP導入の目的。
- ① 3D CADによる設計で資材集計を行い、工事のタイミングに合わせて資材と工事図面を現場に届け、工事を進行する。
- ② CWPを詳細に記載した作業指示書(IWP)、そして制約を紐づけ、作業者の待機時間を減少。
- ③ 効果的段取り、早期ハザード対応により品質と安全性の向上を達成する。
- ④ 現場待機時間減少によるコスト減とコストオーバーランを抑制。
- c) 東洋エンジニアリング(株)
- ① デジタル技術により情報を可視状態にし、建設工事着手制約条件の対応を早期に意思決定することでプロジェクト全体工程の遅延の影響を小さくする。
- ② Proposal段階から建設段階での3Dモデル活用による意思決定の円滑化と対応の迅速化。早期対応法確立により工程平常化を目指す。
- d) 旭化成エンジニアリング(株)
- ① ユーザー系エンジ会社は専業エンジ会社に比べ役割分担不明確、非システマチックな面があり、AWPの即時導入は難しい。
- ② オーナー(製造側)にとって、建設工事は”コスト”であり、建設工事改善に対するDXやAWPというだけでは関心が薄い。製造(保全)ー建設のシームレス化が必要。
- ③ 単純に米国CII版AWPを適用するのでなく、日本版AWPが必要。
◆ 執筆者所感
昨今のエネルギー系建設プロジェクトにおいて、工期遅延に伴うコスト増が大きな課題となっており、石油・ガス業に従事する筆者自身も産油各国の国営石油会社から多くの相談を受けています。日本の大手エンジニアリング会社は工期・コストともに計画値近くに収めることで有名であり、欧米諸国から高い評価を得ています。その日本のエンジニアリング会社でも、計画値に収めるのは担当者の地道な調整力によってなされた結果であり、本講演のAWPを活用したムダ・無理時間の削減によって25%以上のコスト削減を期待できるようです。新興エンジニアリング会社との低価格競争を仕掛けられている中、この取組みが競争力確保の鍵となることを期待しつつ本講演を拝聴させていただきました。
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