例会部会
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『第273回例会』 報告

中前 正 : 4月号

【データ】
開催日: 2022年2月25日 (金)
テーマ: 「風力発電の今後の動向について」
 ~エネルギー基本計画における風力発電への期待~
講師: 株式会社風力エネルギー研究所(技術顧問)
大和田 政孝 氏

◆ はじめに

日頃さまざまなプロジェクトに携わる上で、資源やエネルギーをめぐる諸問題に気を配っている方、またその必要性を実感している方は多いのではないでしょうか。原油価格が上昇すると製造コストが上昇したり、自然災害や国際紛争が起きると電力供給が停止したりと、エネルギーの問題がプロジェクトの遂行に支障をきたす可能性があります。プロジェクトマネジャーとしてはそういった世間の動向に目を配りつつ、リスクを低下させるための施策に取り組んでいくことが重要です。

ところで、近年、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」への取り組みが世界各国で推進されており、それを実現させるための手段の一つとして「再生可能エネルギー」へのシフトが進んでいます。

このような世界の潮流の中で、日本は現在どのような位置にいて、将来どこへ進もうとしているのか。これを共有することは意義あることと考え、これまで多くのエネルギー開発に携わり、近年はとくに風力発電の分野で活躍されている大和田政孝氏(以下、講師)に講演をお願いする運びとなりました。以下、要点を抜粋して紹介します。

◆ 講演内容

1. 世界の風力発電の動向について

風力発電マーケットの地域別推移(1996年~2015年) :
  以前は欧州が中心だったが近年はアジアや新興市場(中南米・アフリカ)が伸びてきている。

各国の電源の構成(2019年) :
  欧州とカナダで自然エネルギーの導入率が高い。デンマーク、スウェーデン、ポルトガル、カナダにおいては、自国の電源全体の50%を超えている。

再生可能エネルギーの発電量ランキング(2020年) :
  中国がもっとも多く800TWhの発電量を誇る。以下アメリカ、ドイツ、インド、イギリスと続き、日本は6位。
  2050年ネットゼロに向けたIEAロードマップでは、2020年28.6%から2050年87.6%と予想されている。

上記に加え、発電設備の大型化、メーカー競争の激化など、風力発電市場のトレンドも紹介されました。

2. 欧州の洋上風力プロジェクトについて

洋上風力発電の建設マネジメント体制 :
  縦串としては以下の5軸で構成。
Finance:財政
Turbines:風車の選定、供給など
Foundation:基礎工事の設計など
Elec:変電所の設計、ケーブル供給など
Insurance:保険
  横串としては契約戦略、リスクマネジメント、各種プロジェクトコントロール(計画、コストマネジメント)などで構成される。

風車の支持構造物の選定 :
  着床式と浮体式がある。
着床式:下部の構造や基礎によって風車を海底に打ち込み固定する。モノパイル方式、ジャケット方式など。
浮体式:海底から係留ロープで繋ぎ、風車を海に浮かせる。バージ式、セミサブ式など。

これまで世界の洋上風力発電をリードしてきた欧州における建設プロジェクトの内容が紹介されました。また建設現場の事例として、ドイツにおける港湾整備、風車・変電所の据付工事の状況が、写真とともに紹介されました。

3. 日本のエネルギー基本計画について

日本のエネルギー基本計画(2021年改訂版) :
  2019年の計画時は、2030年度の再生エネルギーの割合の目標値を22~24%に設定していたが、2021年の改訂時に2050年カーボンニュートラルの達成に向けて36~38%という目標値が設定された。

日本風力発電協会による風力発電の導入目標 :
  2050年カーボンニュートラルの実現に向けての数値目標が発表された。
2030年:洋上風力10GW+陸上風力18~26GW
2040年:洋上風力30~45GW+陸上風力35GW
2050年:洋上風力90GW+陸上風力40GW=130GW

導入ポテンシャルの推計結果 :
  自然条件や社会条件などから、陸上風力と洋上風力の将来的なポテンシャルが環境省から公表されている。ただし、経済性の評価は含んでいない。
陸上風力ポテンシャル:118GW超
着床式洋上風力ポテンシャル:約128GW
浮体式洋上風力ポテンシャル:約424GW

「導入ポテンシャル」とは、平均風速や河川流量(陸上)、陸地からの距離(洋上)などさまざまなデータから算出した「エネルギー資源量」です。上記の通り、日本は洋上風力発電で非常に高いポテンシャルを有していることが紹介されました。

4. 日本における風力発電の取り組みについて

海外・国産の風車の導入量 :
  2017年度で海外機が約242万kW、国産機が約108kWとなっている。

風車発電事業者の状況 :
  電力会社系列と、風力発電事業を専業とするデベロッパーで7割以上を占める。他には重電系列、エンジ系列、都道府県などが参入している。

国内風車メーカーの撤退 :
  日立製作所は2012年に富士重工業(現SUBARU)から風力発電事業を買収したが、2019年に生産から撤退。日本製鋼所も2016年から製造中止、2019年に製造・販売事業から撤退した。
  今後は海外の風車メーカーを採用することになる。

洋上風力発電の推進 :
  国内準備11区域から有望4区域が選定され発電事業者を決める公募がすすめられ、最近3海域で事業者が決定した。
青森県沖日本海(北側)
青森県沖日本海(南側)
秋田県八峰町及び能代市沖
長崎県西海市江島沖

5. 国際エネルギー機関(IEA)の風力部門での活動

国際エネルギー機関の概要 :
  理事会、委員会、作業部会、技術協力プログラムの4層で構成される。

「IEA Wind」について :
  技術協力プログラムの1つ。風力新技術の研究開発における効率的な国際協力の推進や、高品質な風力情報の収集、風力技術の分析などを行う。

「Task 40」について :
  IEA Wind内で40番目に立ち上げられた、日本初のタスク。ダウンウィンド技術が研究テーマ。参加国は日本、米国、ドイツ、スペイン。活動期間は2018年~2021年。

最後に、講師の国際エネルギー機関(IEA)での活動が紹介されました。Task40は講師自ら提案し承認されたタスクです。3年の活動期間でキックオフやワークショップなどを実施し、現在は技術報告書やマネジメント報告書を作成しているとのことでした。

◆ 講演を聞き終えて
本講演では、再生可能エネルギーへの取り組みについて、世界各国の動向から日本国内の事情まで幅広く共有いただきました。

とくに、世の中の変化を感知して素早く対応することが求められるプロジェクトマネジャーにとって、エネルギーに関するトピックに日頃からアンテナを張っておくことの重要性に気付かされました。またエネルギー開発のような大規模なプロジェクトの実態、およびIEAという国際的な組織の中での講師の経験を聞けたことも有意義に感じました。当日参加された皆さまはいかがでしたでしょうか。

例会では、今後もプロジェクトマネジャーにとって有益な情報を提供してまいります。引き続きご期待ください。

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