PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (142) (課題解決と問題解決)

向後 忠明 [プロフィール] :8月号

 今月号は今後の顧客との交渉で目標を明確にするためには「何を明確にしておかなければならないのか?」をクロスSWOTにていかにして「強み」を活かし「弱み」や「脅威」を排除するか、目標を達成する術を考えねばなりません。
 まずは「目標とは何か?」です。
 その目標は会社の海外事業進出の手掛かりの一歩とした「海外の中央銀行のシステム開発」であり、これを成功裏に達成することです。
 そのためには前月号で説明のSMARTの原則に従った、シナリオ設定による不確定部分の解消が必要であり、その対象となる項目をリストアップし、どのように解消するかを明確にする必要があります。

 以下にSMARTの原則に従って各項目を拾ってみます。

S:Specific 達成すべき目標とそのシナリオ
目標は海外の中央銀行のシステム開発の確実な達成であり、不確定部分についてはSWOT分析に示す「強み」を活かし、顧客との協議形式にて作業を進める方式をとり、脅威に示される事象を顧客との共創によりシステム開発がスムーズにできるようにする。
そのためには今後の顧客との交渉により確定的な仕様、コスト、スケジュールの設定が行えるような体制と仕事の進め方ができる契約にもっていく。
M:Measurable 測定できるか?
シナリオに沿ったプロジェクト推進によりシステム仕様も明らかになり、本システムの投資コスト及び人員コストも明らかになる。
A:Attractive 案件の魅力
本案件の成功により、「機会」に示すような同種システムの他国への横展開も可能となるばかりでなく、会社の国際事業進出の第一歩となる。
R:Realistic 現実的である   現実的に達成可能であるか?
顧客要件が不確定であるが全銀システム開発経験者の確保及び海外プロジェクト経験者の確保等の理由から本案件は今後の顧客との契約を含めた交渉により達成可能と判断。
T :Time  期限が明確である
顧客との共創的プロジェクト推進によりS「シナリオ」にて述べたように確定的数字や仕様を設定することにより明確にすることができる。

 このようにSMARTの原則に示した内容から目標達成とシステム開発の可能性が予見できたので、今度は下記に示されたSWOT分析での弱み及び脅威についてどのように時系列をもった解決策があるかを見ていく必要がある。
 会社として解決可能と思われる項目は〇、今後顧客との交渉で解決可能と思われる項目▽、そして基本設計段階で解決できる項目×とすると以下のようになります。

②弱み
顧客要求システムと類似システムとの相性未確認  
プロジェクトコスト及びスケジュールが不明 × (仕事の進め方の交渉による)
会社は海外業務関連業務が未経験 (ただし、組織編成〇)
プロマネはシステム開発経験がない。英語のできる同種システム開発のできる技術者がいない。 (人材確保は問題ない)
会社としてシステム開発の経験がない上に、開発マシンがない。 ×  
③脅威
カントリーリスク、顧客要件曖昧・契約条件不明 (海外経験あるPMがいる)
海外業務に不慣れ、顧客情報も現時点では不明、
人材もいない
〇、▽ (海外経験あるPMがいる)
要件不確定の場合のプロジェクトの進め方未定  
要件不明のためマシンの種類、規模不明、
コスト試算不可
×  
 以上の分析の結果、本案件は今後の顧客との交渉とその後の話し合いによる詰めを行いながらプロジェクトを進めるといった共創によるプロジェクト遂行が絶対条件であることがわかります。
 そのため、まずは顧客交渉を行うための自社の考えを示したプレゼンとその後の交渉を通して実際のプロジェクト実行に移るといった段階を踏むことが必要ということが容易に判明します。
 ここで最も重要な項目は「要件不確定の場合のプロジェクトの進め方未定」であり、本件を交渉により、いわゆるアジャイル方式(顧客との話しあいでプロジェクトを進める方式)を認めてもらうことが前提となります。

「注*アジャイル方式は現在では常識ですが本プロジェクト遂行は1987年当初にものであり、この当時はほとんどのプロジェクトはランプサムといった受注方式であり、多くのシステム開発プロジェクトは失敗が多かったようで、日本ではこのような状況の時代でした。」

 以上の分析結果や原則に基づく現状のありのままの姿とあるべき姿のギャップも明確になったところで、全銀システムについての概要と上記に示す▽、×に示す当方の考え方を顧客へのプレゼンテーションを行い、顧客の同意を得る必要が出てきます。

 ここで大事なことは「プロジェクトの進め方」に対しての顧客の同意が得られない場合はこれまで行ってきた状況分析から始まる最初の手順に戻り、これまでの手順をくり返さなければならなくなることです。よってこの交渉が最も重要で優先すべきことであることがわかります。
 このためには顧客とコストおよびスケジュールに関係なく、自由な発想で共創のできる環境にて作業のできる基本検討及び基本設計までをコストプラスの単金契約となるように交渉を行う必要があります。そして、基本検討による新システム概案書に沿って詳細設計に必要な基本設計を行い、その後は詳細設計及びプログラミングまで一括契約とすることをプレゼンテーションで説明する。
 その理由は基本設計が終わらない限り不確定部分が解消されず、顧客の考えも定まらず、本案件は前へ進まないことになります。このフェーズでは自由な発想での顧客との共創によるシステムの仕様の確定をしていく必要があり、要件仕様確定までは時間も費用も変化する可能性が多いにあります。基本仕様が固まれば不確定部分もほとんど解消され、目標達成までのプロジェクトスケジュールも予測可能となり同時にプロジェクトコスト確定も可能となり、以降の工程を一括契約に切り替え、作業効率の促進も図ることができることも丁寧に説明する。

 ちなみに、顧客に対して以下のような内容の資料をまとめ受注側の本案件に対する仕事の進め方や想定したシステム概案等を具体的に資料としてまとめ顧客にプレゼンテーションを行い,理解を得ることが最初でのアプローチとなります。
  1. ①プロジェクトの編成とプロジェクトの進め方と管理
  2. ②要件調査・分析
  3. ③システム・付帯設備構想
  4. ④新システム概案書提出

 契約後に顧客と共創にて実行する基本設計とは :
 構造物、装置、システムを顧客との討議で合意されたシステム概案書に従って、さらに詳細なシステム全体構成、基本機能の展開、構成要素間の整合性の確認などであり、後続の詳細設計が可能な段階までを言います。
 この段階ではプロジェクトに求める要件の不確定な部分が明らかになり、その結果中央銀行システムの全体像が明確になり、同時に上記にて示す▽及び×に示す項目も解決され、後続の詳細設計も可能となります。

 プレゼンテーションにより顧客の同意が得られたら早速契約書を作成し、これまで分析、検討した結果を網羅したプロジェクト計画書を作成し、本格的なプロジェクトの実行に入ることになります。

 以上までが本案件に関する受注側の内部だけでのKT法による状況分析、SWOT分析そしてSMARTの原則に従った不確定要件の課題解決に関する手順です。

 プレゼンまでの段階での作業は受け側としての独自の検討であり、プレゼンは当方のこれまでの各種分析の結果を顧客に示し、顧客の考えを聞くことにありました。
 この時、大事なことは本案件の内容が不確実性を持ち、これまでの分析結果でも多くの問題がありましたが、それでも本案件への対応は可能と考える旨を説明しました。
 しかし、この案件の成功には「仕事の進め方」が最も重要であることを顧客の理解を得られるように丁寧に説明し、納得してもらう必要があります。
 このような場合、請負側の論理ばかりを説明しても顧客側との合意は容易には得られません。ここで大事なことは交渉能力ということになりますが、顧客にとっては「何時までどのくらいの予算でできるか?」ということが最も大事なことであり、その答えを出さなければなりません。
 これは請負側の弱みでもある項目でしたが、要件不確定の案件は誰もが不安を抱くものであり、「もし顧客がどうしても納期及び予算」に固守するのであれば、我々の条件はすでに説明した通りであり、それ以外の方策はありません」と顧客を説得する必要があります。プロマネはこのように国内及び海外においても強い意志と説得力を持って対応していける能力を持つ必要があります。
 本件はこれまでの論理的課題解決の手順に従った「分析の結果での帰結がこのようになります」といった説明が功を奏し、顧客を納得させることができました。
 その後は、支障なく契約となり正式に調印され、本案件は実行に移ることになりました。

 以降は次月号にて・・・

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