PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (141) (課題解決と問題解決)

向後 忠明 [プロフィール] :7月号

 前月号はプロマネを中心とした課題抽出とその経緯について述べてきました。これからは抽出された仮説課題をさらに深堀し「会社としてどうするか?」といった段階となってきました。
 これまでの主な活動の実態はプロマネを中心とした実行部隊側による状況分析による関心事の列挙とその結果の問題分析や原因分析であり、その集約が④の仮説課題ということになります。
 この分析の内容はプロマネを中心とした実行部隊の思いや考えを基にしたものであり、今後は会社としての意思決定を「どのように意識して考えるか?」という段階となります。すなわち、仮説課題にて抽出された結果が自社としてコントロールできる要因かどうか「会社を取り巻く内部環境と外部環境」に分けて考える分析が必要となります。その理由はこれまで実行部隊の「できるだろう」と思っていたことでも「会社としてどうか?」といったことも考慮しておかなければなりません。それが④以下の手順となります。

④以下の手順

 前月号での一連の課題解決に関する状況分析結果により今後の行動指針の方向性が見えたところで、「この方向で間違いない」そして「自社がコントロールできる要因か」どうか外部環境と内部環境に分けて考える必要があります。
 その方法としてSWOT分析というものがあります。
 SWOT 分析とは自社の現状把握のために役立つもので、これまでの現状把握はあくまでも現状の問題とその解決に必要な項目をランダムに列挙し、共通に思われる関心事を列挙し、それを整理し、その中から抽出された「なんとなくこれでいけるだろう」といった仮説を抽出してきたものです。
 しかし、SWOT分析は組織または決定者の視点から仮説的課題と現実のギャップ分析を会社としての視点から問題を探るものです。
 これを分析するフレームワークがSWOT分析であり、会社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat/リスク)の頭文字を取ったものです。
 この分析方法を行う際には以下の3つの注意が必要です。
  1. ①外部環境と内部環境の分け方です。自社がコントロールできる要素が内部環境であり、コントロールできないのが外部環境です。
  2. ②外部環境の考え方ですが本案件を推し進める風向きの要因は機会に示し、停滞させる要因は脅威とします。
  3. ③内部環境は自社が競合相手に比べて勝っているなら強みであり、劣っているなら弱みになります。
 これを図に表すと以下のようになります。

SWOT分析

 これまでの状況分析と仮説課題にて示された項目をSWOT分析にかけた結果は以下のようになります。
①強み
政府及び親会社トップ同士の案件であり競争相手はいない。
よって、不確定部分は随意な条件で話ができる可能性がある。
日銀との接触が可能、類似システムの情報取りやすい。
グループ会社に対象と類似したシステムの開発経験がある。
海外プロジェクトに習熟した経験あるプロマネと類似システムの開発経験者がいる。
業務系であるが英語コミュニケーションに習熟した帰国子女が多い。
②弱み
顧客要求システムと類似システムとの相性未確認。
プロジェクトコスト及びスケジュールが不明。
会社としての海外プロジェクト関連業務が未経験。
プロマネはシステム開発経験がない。英語のできる同種システム開発のできる技術者がいない。
会社としてシステム開発の経験がない上に開発マシンがない。
③脅威
カントリーリスク、顧客要件曖昧・契約条件不明。
海外業務に不慣れ、顧客情報も現時点では不明、人材もいない。
要件不確定の場合のプロジェクトの進め方未定。
要件不明のためマシンの種類、規模不明、コスト試算不可。
④機会
成功すれば海外へ同様システムの横展開期待できる。
実績により海外PJマネジメント及び技術的ノウハウができ、多くの海外システム開発PJに参入できる。
会社が望む国内に限らず事業の多様化を目的とした国際化への第一歩となる。

 以上がこれまでの状況分析結果から得られた情報を基にSWOT分析した結果です。

 この結果を見て「⑥決定分析」が示される判断基準は:
 本案件は多くの脅威(リスク)を含んでいるが、顧客との接触がまだ行われていないことを考えると、最終的決定は今後の顧客との話し合いで解決できる部分もあると考えられる。
 また、ここに挙げられた脅威よりも今後の会社の国際分野への進出といった本社戦略に則った戦略的な国際進出子会社の位置づけとしての自社と相手政府のトップ及び親会社トップ同士の案件であることを考えると、会社としては本案件をやめるより会社の将来を考えた場合、機会に示す考え方を優先することになります。
 さらに、顧客要求が不明確とは言え日銀の全銀システムといった類推できるシステムの開発経験のあるグループ企業の存在、そしてそこからの人材確保が可能との事実から、本案件は「前へ進めることができる」ということになります。
 ただし、ここですぐ手を打たなければならない優先かつ重要事項は類似システムに習熟した技術者と英語コミュニケーションに習熟した人材の早期導入であることがわかります。

 次は本案件を前に進めるにも多くの不確定な部分があり、主に脅威となる部分には多くの項目が存在し、曖昧なものとなり、「どこに曖昧さがあるか?」を明確にし、今後の顧客との話し会いを通して固めていかなければポイントを示す必要があります。
 そのためには部門長またはプロマネそして類似システムに習熟した技術者と一緒になって、弱みや脅威となる部分を最小化し、目標に沿ってのシナリオを設定し、今後の顧客との協議のための資料つくりをすることになります。
 そのツールが「⑦SMARTの原則」です。

 SMARTの原則とは:
S : Specific (具体的に示す) 目標設定に向かってのシナリオ作り
M : Measurable (測定できる) 数値で示す
A : Attractive (本案件の魅力) 本案件の達成による波及効果
R : Realistic (現実的である) 現実的に達成可能であるか?
T : Timely (期限が明確である) 達成期限があるか?

 以上がSMARTの原則です。
 これまでの分析結果をこの原則に従ってみてみると目標設定としてまだ埋めきれない項目も多数見受けられます。
 そのため、目標に向かって、今後取るべき手立てを部門長やプロマネを含めたメンバーにてS,M,A,R,Tの現状と今後どのように解決していくかといったシナリオを示し、次の行動計画への示唆が必要となります。
 今回のようにまだ顧客との接点がない場合、プロマネとしてSWOT 分析で示された項目の内容をクロスSWOT分析にて、自社の強みを最大限生かし、この埋めきれない部分を「どのように解決するか?」を今後の顧客との話し合いで決められるようにする必要があります。

続きは来月号で説明します。

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