PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (140) (課題解決と問題解決)

向後 忠明 [プロフィール] :6月号

 これからはプロジェクトあるいは事業の具体的行動に必要と思われる対処や解決に必要な項目(ニーズ)を具体化するステージになります。それが②からの状況分析です。

②ニーズの分析と発見 SO WHAT?

 社内外からの情報及び資料の収集によってランダムに挙げられた関心事や気になることを整理し、共通となる事項をまとめ、整理することによって、使命(テーマ)にかかわる問題を絞り込むことになります。その結果から「案件の概要が漠然とであるが、どのような対処をしたらよいか?」等の対応策も見えてくることにより、業務遂行に必要な事柄の整理を行うことができるようになります。
 すなわち、絞り込まれた対象に対して本案件を具体的に進めるためには「何が問題か?またそのためには何が必要か?」を設定し、具体的に検討する必要が出てきます。
 この段階での主な作業は使命(テーマ)に内在する「現状の問題のありのままの姿」と「あるべき姿」のギャップについて論じることであり、そのギャップを生んでいる事柄を整理し、そこにある問題は何か?そして、そのためには何が必要か?等を列挙し、案件に内包する問題の解決方法を探る必要があります。

 ここからは具体的事例に従って以下に説明します。
 本案件は30年以上前の海外のシステム開発案件であり、この当時発足して数年目というIT企業を取り巻く環境下でのシステム開発プロジェクトです。

前月号②の「ほかの可能性のあるソリューション(現状からの脱皮、多様性への対応)」の事例として「海外の中央銀行のシステム開発案件」の事例を取り上げてみました。
この時の会社を取り巻く環境条件
会社はこれまでの国内事業の多様化を目的に事業の国際化を社是とし、現状からの脱皮を図ることを事業方針と考え、本案件に取り組みました。
 以上の前提から、本案件を進めるにあたって「何をどうしたらよいか、問題の把握とそのためには何が必要か?」重要で緊急度の高いものをあげてみることにします。その一例を以下に示します。

<何が問題か?> <何が必要か?ニーズ>
1)国内事業中心であり、海外経験が無い、人材もいない。しかし、会社の国際化を社是とする最初の案件である。 会社の全面的バックアップによる海外PJ経験のある企業、人材の紹介、そしてグループ企業の協力
2)海外案件でのリスクと仕事の進め方に疎く、会社としてもそのノウハウがない。 海外PJの経験ある企業での聞き取り調査やインタビューによる知識の習得
3)顧客(政府)トップと親会社トップの約束事であり顧客情報があまりない。本案件の進め方や条件がわからない。不明確である。 顧客が「何を、そしてどのような条件が求められていたか?」依頼された親会社トップへのヒアリング。
4)中央銀行の業務内容及びシステムに習熟していない 日本の中央銀行である日銀への接触及び業務内容及びITシステムの現状の調査。
5)要求が中央銀行システムの構築であり、要件が不確定で、当方も確定的なアイデアもない。 日銀からの類似システムやほかの国での計画の有無に関する情報取得を試みる。
6)海外案件でのシステム開発である海外でのビジネス特有な問題がある。 海外商習慣を心得た経験あるプロマネと英語に習熟したIT システム構築経験のある技術者の確保。
7)会社はproject遂行のための組織が未成熟。 本案件用のタスクフォースの設定とプロマネを中心とした責任ある体制が必要。
8)会社に開発用マシンがない。
日銀のシステムはNon-Stopシステムが基本で汎用機が並列で運用との情報。
OSや処理量によりマシンのタイプがかわるのでシステム要件が明確になるまで待つ。顧客の既存システムの調査と本案件とマシンの相性の確認をおこなう。

 本案件を進めるにあたっての重要となる阻害要因となる項目とそのためのアクション(ニーズ)事例の一部を上記のように示しました。
 実際はもっと多くの項目がありますが、参考に主なものを示してみました。
 なお、状況分析を始める前には会社の国際化および顧客が海外の中央銀行という重要な案件であることから本案件の特徴をよく理解したIT 技術者の採用が緊急で重要な問題であり、その中でも海外プロジェクトの経験者である本プロジェクトのリーダとなるプロマネの確保も緊急で最重要となります。そして、指名された海外プロジェクトに習熟したプロマネは上記の問題とニーズの列挙に関連してきた会社側の関係者(幹部及び営業担当者)と共にレビューを行い、さらにその結果の深堀を行い、次のステップである③の状況分析作業に入ることとなります。

③原因の追究(なぜそれが原因/理由?) SO WHY?

 ②にて問題に対する対応策をニーズとしてあげましたが、「なぜそのような必要性があるのか」、また「その理由は何か」を知るために②にて列挙した項目の原因とその理由を示す必要が出てきます。
 ここでは②での問題とその必要性をこのような理由でなぜ必要か?を明快にすることでこれまで漠然としていたことが見えてくるようになります。
 例えば、
国内事業中心の企業が経験もなく、人材もないのになぜこのような仕事をやらなければならないのか?その理由は会社としてこの仕事をやることにより海外事業のノウハウを得て、国内事業中心からの脱皮を図ることができるようになることを期待している。
次に海外案件の実行に大きなリスクが内在するので当社のグループ会社をはじめ自社内の海外案件に適したリソースを発掘する必要がある、さらには自社以外の多様なリソースとして海外案件を手掛けている会社の調査をする。このことで社内・外の多様な人材リソースの発掘をすることができ、本案件に適した有能な人材から構成された組織体制で効率的プロジェクト運営が可能となる。
親会社トップヒアリングにより本案件の申し込まれた経緯、仕事の進め方の条件および当該システムの当社グループへの期待度を聞くことにより、依頼の概要も分かると思われる。
日本銀行も顧客と同じ業態であれば日銀に存在するシステムも顧客が期待するシステムとも類似点があると思われる。その理由は、トップ間の話の中でも日本のシステムについて言及されていると思う。
プロマネを中心としたタスクフォースグループの創設理由はプロマネの方針に従って一糸乱れないチームの結集力、相乗効果、生産性を高めることができることを理由としている。
開発マシンが会社になければ購入するかまたはプログラム製造業者のものを利用するかどちらかである。本件はシステム詳細が判明してからの問題であり、今後の顧客との交渉ごとにもなるものであり、この時点では問題として記録にとっておく。

 ②に挙げられた項目に何故そう言えるのか、そしてその理由は~であるといったようにまとめていくことにより、本案件のコンセプトとその方向性が漠然とであるがわかってきます。
 なお、原因を述べるときはそれが真の原因かどうかを見定める必要があります。すなわち表面的な原因の中には、その問題が引き起こす更なる原因が隠されている場合もあるので十分に検証した上で原因を述べる必要があります。
 さらに②及び③の結果をもとにさらに親会社トップへのヒアリングを含め社内及び社外の情報の精査を行い、判明した事項を考慮し、問題と思われ部分の想定解決案を作成し、④の課題の抽出のステップに入ります。

④課題の抽出(仮説的課題)

 なお、ここでの課題の抽出とはあくまでも最終案ではなく、あくまでも「~だろう」といった仮説です。本題に入る前に仮説課題とは何かを説明します。

 この段階は本案件を具体的に進めるための方向や施策の仮設定であり、仮説ではあるがこれまでの各種分析、検討をまとめることを意味します。
 仮説とは見えないものを見えるようにするための道具であり「実は問題はこういう構造になっているのではないか」「この現象の背景には理由があるのではないか、」「実際の具体的手順はこうなるのではないか」等これまでの②③の検討を通して現状をどうとらえるか目指す目標はどこに置くのか、解決のプロセスをどうデザインするのか等々を視野に入れながら更なる情報収集とコンセプトワークを繰り返して設定することを言います。
 この仮説設定はこれまで得た情報やデータを正しく読み取っていけば自然に出てくると思います。しかし、場合によっては経験や飛躍的な発想や理屈では何とも言えない直観力が仮説を導き出す源泉になることもあります。

 その一例を以下に示します。
本案件は会社の社是である海外事業への進出の足掛かりと考えているが、未開分野への挑戦であり、その上、海外プロジェクト経験もなく顧客要件も明確でないため多くのリスクを内在する案件であり、更なるリスク分析が必要である。
要件は海外の中央銀行業務のIT化と省力化と利便性向上といった漠然としたものであるが、状況分析の結果から政府トップと親会社トップの話の内容のヒアリング結果から日本の全国銀行間システムを土台と考えていけるだろうと推察できる。
上記の事実から本システムの開発経験は当社には無いが、当社と関係のあるグループ会社に類似システムの開発実績があることが判明。そして、この開発にかかわった会社からの人的リソースも期待でき、日銀のシステムを利用した資料作成ができると推察される。
政府及び親会社トップ同士の話し合いの概要をトップへのヒアリングの結果、本案件は随意(貴社にお任せする)との確約のようであり、競合相手の有無の明確化及びそれに伴う案件の進め方も明確となった。
随意的要請と考えられるので、顧客と自由な発想での業務運営が可能と考えられるので固定した条件でなく柔軟な条件設定が可能と考えられる。
海外案件であり、海外経験のあるプロマネを優先事項に示すように早期に採用することができているが、招請ができた類似システムの経験あるIT エンジニアが英語によるコミュニケーションができないことが判明。本件は業務系の英語に堪能な人材とペアーでシステム開発関係の業務を専念させることで解決できそうである。なぜならITシステム構築は顧客とのコミュニケーションによる仕様設定が肝となる。
いずれにしても、まだ内在するリスクはあるものの、更なる調査、状況分析で分かった範囲内で想定されるシステム要件、仕事の進め方とその条件、プロジェクト期間、そして自社の本案件を取り巻く環境条件等をまとめ、顧客との話し合いの下敷きをまとめることができそうである。

 上記の例などを基に、プロマネを中心としたタスクフォースの創設と人員の配置を早急に行い、本案件を会社側の視点での分析を行い、本案件の最終的な方向性を示すための手順に入ります。
 すなわち、④の仮説的課題をSWOT分析によってリスク分析を含めた最終的な会社としての行動方針を決定することになります。

 その手順を来月号で示すことにします。

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