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「エンタテイメント論」(172)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :7月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●精神的充足基盤とは
 前号で「定年が先の人」の「精神的充足基盤」の形成について解説すると約束した。先ず、「精神的充足基盤」とは何か? 此の事から解説したい。

 「或る物事(モノとコト)」を叶えたいと云う熱望する「夢(目的、目標、理念、志など)」を持った人物は、「夢」の実現と成功の為に挑戦する。その挑戦過程で次々と「優れた発想(アイデア)」を生み出す。生み出されたアイデアを現実化する為に「汗と涙と血」を流す事を厭わず、喜んで流すと云う「優れた発汗(努力)」を行う。「夢」は自ずと実現し、成功するのである(夢工学の教え)。

 「夢」を成功させた瞬間、誰しも深い「精神的充足感)」を味わう。特に仕事の分野での「夢」を成功させた時の精神的充足感は大きく、強烈である。しかし此の挑戦がその時だけで終わるならば、精神的充足感もその時だけで終わる。此れでは「基盤(プラットフォーム)」を形成した事にはならない。

出典:
石油生産基盤
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出典:石油生産基盤
出典:乗降者確保基盤
出典:
乗降者確保基盤
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 精神的充足基盤とは、精神的充足感を一度だけで終わらせず、「或る条件」を満たせば、例えば、「夢」を実現させ、成功させられると云う「再現、生産、永続」のシステムやプラットフォームの事を云う。また「夢工学」では「夢・成功一貫達成」を成し遂げるための「成功根源3要因(別途説明)」が充足された状態を云う。

●「定年が先の人」が社長ならば?
 「趣味(道楽を含む。以下同文)」とは何か? 説明するまでもないだろう。「室内の趣味」は、歌唱、合唱、楽器演奏、絵画、映画・TV・YouTubeの鑑賞、小説執筆、個人的研究など色々ある。「室外の趣味」は、観劇、国内旅行、海外旅行、ゴルフ、テニス、野球、スキー、登山など色々ある。

 趣味の分野で「精神的充足」を味わう事、「精神的充足基盤」を形成する事は「人勢100年時代」では特に重要である。しかし「定年が先の人」の殆どの人は、「趣味は、定年後、働かなくなったら手に入れて、味わうもの」と考えている。従って忙しい今、趣味を手に入れる事にも、その基盤を形成する事にも一切関心がない。そもそも趣味を手に入れるために貴重な時間、労力、費用などを投下するなど論外の様だ。
出典:趣味(道楽)
出典:趣味(道楽)
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 確かに、忙しい仕事で「経済的充足基盤」を形成せねばならない時、趣味などに関わっておられない。そう考えるのは当然であろう。しかし一方では、忙しい仕事の合間や隙間で「大好きな趣味」を手に入れる為、コツコツと励む人も実在するのである。

 「定年が先の人」は、将来、例外なく、「定年を迎えた人」になり、「定年後の人」になる。将来、或る時、「趣味を手に入れたい」と思っても、楽しめる水準になるには、相当の時間、労力、費用などを其の時点で投下せねばならない。

 「定年を迎えた人」や「定年後の人」は、幾ら時間に余裕を持っていても、人に依っては病気や加齢から厳しい労力には耐えられない。個人資産に恵まれた人は別として、働かない人や働けない人は、年金や貯蓄に頼らざるを得なくなる。経済的な余裕がない人にとって趣味を手に入れる事は極めて難しくなる。

 本業の仕事を持ち、その合間や隙間で「趣味」を手に入れ、楽しめる様になるには、10年から15年掛るのである。まして趣味の「精神的充足基盤」を形成するに更なる年月を要する。

 人生100年時代、将来、豊かで楽しい人生を送る為に、そして大好きな趣味を楽しむ為に、「定年が先の人」は、未来に先送りせず、「今直ぐ、此処(Now & Here)」で趣味を手に入れる決断をして行動を開始する事である。

●趣味の種類と或る結論
 仕事の分野でも、趣味の分野でも、精神的充足を味わい、その基盤を形成する為には、厄介な事であるが、個人的に長い年月、相当な労力、高い費用などを投下せねばならない。しかし投下するだけの価値はあり、必ず報われる。其の趣味が本人にとって「大好きな事」であれば、筆者の小難しい「趣味論」など関係なく、趣味を手の入れる為に、あらゆる投下をするだろう。

 此の趣味には、能動的な思考&行動を求める趣味と受動的な思考&行動を求める趣味の2種類がある。歌唱、楽器演奏、テニスなどが前者の例で、映画鑑賞、スポーツ観覧などが後者の例である。

 「精神的充足」を得られる度合いが圧倒的に大きいのは能動的な趣味の場合である。しかし受動的な趣味の映画鑑賞や観劇などの場合でも、映画や演劇(オペラなど)の歴史、鑑賞した映画や観劇のシナリオ、制作コンセプト、登場人物などの各種情報を集め、その内容を研究する場合は、能動的な趣味に変化する。その結果、大きい精神的充足を得る事が出来る。

出典:仕事と趣味
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 趣味は、本人が楽しめる水準から周囲から評価される水準に高まる場合がある。更に趣味が高じて、その趣味の分野でプロフェショナルになる場合もある。しかしそうなる陰では、より多くの時間、労力、費用などが投下されている。しかも本業の仕事に悪影響を与えない様にしながら、仕事の合間や隙間で趣味の技術が磨かれている。

 以上の説明から多くの人は、次の事に気付くだろう。趣味を手に入れ、楽しめる水準の技術、周囲から評価される水準の技術、プロになる水準の技術を夫々獲得する事は、本業の仕事で不可欠な技術を獲得する事と同等又はそれ以上に大変な事である。

●筆者の趣味と忘れられない精神的充足感
 「人様の趣味について云々するなら、お前の趣味についても云々しろ」と云う指摘が聞こえてきそうだ。本稿で筆者自身の趣味を既に紹介している。しかしこの機会に再度、その概要だけを述べる。

 筆者は音楽が大好きで大学時代はギターを弾いた。会社に入社し、直ぐに本社に配属され、某先輩社員が発足させたジャズバンドに参加しギターを弾いた。其の後、ギターリストが多いため、フルートに転向した。

 しかし社内では「遊び呆けているクソ野郎」、「仕事に熱心でないダメ社員」などと陰口を叩かれ、白い目で見られ、見下された。昔の日本では楽器を奏でる人間は「不良の仲間」と見られていた。しかし筆者は其の陰口を逆の糧にして、大好きな楽器の演奏に力を入れる一方、バカにされない様に仕事に注力し、頑張った。

 その後、筆者はニューヨーク駐在員勤務を命ぜられた。家族と共にニューヨーク郊外に住み、NYマンハッタンの事務所に通勤する様になった。多忙な国際業務を日々こなしていたが、仕事と家族サービスの合間と隙間で本場ジャズマンのジャズ演奏を聞き歩いた。また「出演ライセンス」を手に入れて、NYのマンハッタンの某ピアノバーで黒人ピアニストが弾けない日本の曲を弾き、日本人駐在員の歌の伴奏をした。精神的充足感は無かった。しかしビールジョッキの空き瓶に入ったドル紙幣の多さに満足した。

出典:ピアノ演奏
出典:ピアノ演奏
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 日本に帰国後は、或る事がキッカケで東京都内のジャズ・ライブハウスに出演する様になった。ジャズピアノを弾き、ピアノトリオ+女性歌手の編成で今もプロ出演している。しかしコロナ危機でお客さんが集まらないので出演を中断している。

 ジャズ演奏では、周知の通り、即興演奏(アドリブ)をする。筆者がアドリブ演奏をすると、大きい、温かい拍手を頂ける。感謝している。しかし実際はお客様に申し訳ないが、内心では「今回もクソ・アドリブになった」と自己嫌悪する。しかしそれに耐えて演奏する内に100回に1回ぐらいは「ミソ・アドリブ」になる。その時だけは精神的充足感を味わう事が出来る。筆者は東京都内の某ジャズ・ライブハウスで「箱出演」して20数年になる。趣味の「精神的充足基盤」を確立させている。

 筆者の音楽以外の趣味は「ゴルフ」である。しかし或る事でゴルフの趣味を捨てざるを得なくなった。筆者は民間人から県庁三役の官僚に「天上がり」」した。自分の金で友人や知人とゴルフをしても、新聞記者や雑誌記者に追いかけられ、不本意な記事を色々書かれた。そのため大好きなゴルフを官僚時代に止めた。官僚退官後、好きなゴルフを始め様とした。しかし以前の様なゴルフ・プレーが出来なくなり、結局、ゴルフの趣味を捨てざるを得なくなった。

 しかし筆者にはゴルフをやっていて生涯忘れられない「精神的充足」を味わった。筆者がNY駐在員時代、某友人達とゴルフを楽しんだ時の事である。米国のゴルフ場は日本と違ってフェアウエーが広く、OBになるのは池に入れた時ぐらい。ショットが左右にブレても、隣のコースに入るだけでOBにならず、伸び伸びとプレーできた。

 或る日、夕闇迫る18番ホール、ピンまで1m弱。もし此のパットでパーを決めれば、筆者にとって「生涯初のパープレー」を成就させる事が出来る。「手が震えて」パットが出来なかった。プロ選手の試合でも同じ様なシーンを見た事が

出典:ゴルフ・パット
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 その時、友人の一人が助言してくれた。其れに従っでアドレスを一旦解き、深呼吸した。再度アドレスして、何も考えない様にしてパットした。ピンに向かってボールが転がった。最後に「コトン」と音を立ててホールに入った。今も鮮明に覚えている。忘れられない歓喜の瞬間を味わった。嬉しかった。
つづく

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