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「エンタテイメント論」(171)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :6月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●「定年が先の人」とは?
 「定年が先の人」とは、定年が数10年先で、「経済的充足基盤」と「精神的充足基盤」と云う2つの「人生設計基本プラットフォーム」を形成し、確立させる為に十分余裕を持った最も恵まれた立場にいる人物を云う。

 しかし皮肉な事に、此の人物の多くは、自分が最も恵まれた立場にいる事に気が付いていな人物でもある。更に「将来、定年が迫って大慌てしない様にするには今から何をするべきか?」、「定年後、死ぬまでの35年間を如何に生きればよいか?」などの「未来予測」をしない人物又は出来ない人物でもある。

●「定年が先の人」が社長ならば?
 もし此の人物が社長ならば、十分な時間的余裕を活かし、自社の既存事業だけなく、新規事業も成功させる事が出来る立場にいる人物である。しかも一度だけでなく、何度でも成功させるチャンスを持つ人物でもある。
出典:社長
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 経営学者ドラッカーは「既存事業の成功だけでなく、新規事業も成功させる事は社長が果たすべき最も重要な義務であり、責任である」と主張している。筆者は30数年前から「或る事」を主張し続けて今日に至っている。或る事とは、本稿で何度も取り上げた日本が「構造的危機」に直面した事である。この間に日本の多くの大企業や中堅企業の社長で新規事業を大成功させた人物は極めて少ない。ドラッカーに言わせれば日本の大企業や中堅企業の殆どの社長は「半人前の社長」と云う事になる。本稿の読者は自社の現在の社長を含めて歴代の社長が一人前か? 半人前か? 此の判断基準で簡単に識別できるだろう。

 新規事業の何一つも成功させた経験がない社長、新規事業に挑戦すると掛け声だけの社長、新規事業の計画が成功するか否かの立証責任を部下だけに負わせ、計画の問題点ばかり指摘する社長、自ら先頭に立ち、責任を持って新規事業に挑戦する気概のカケラも持たない社長などは、現在の日本の大会社や中堅企業に数多く存在する。

 筆者に言わせれば、彼らは「半人前の社長」どころか、其れ以下の「クソ社長」である。此の種の「クソ社長」が存在する会社には、彼に忖度し、従属する「クソ役員」や「クソ管理者」が数多く社内を闊歩し、「クソ会社」を形成している。

 残念な事に現在の日本の大会社や中堅会社の中に此の種の「クソ会社」が数多く存在し、内に様々な構造的問題を抱え、外に様々な社会問題を引き起している。と同時に近い将来、経営が成り立たなくなる経営危機に直面している。誰がクソ社長か?どの会社がクソ会社か? 此の機会に自社を含めて識別してはどうだろうか?

 日本は激変、激速する世界の潮流の「蚊帳の外」に取り残されている。「今のまま」で「自己改革(一種の革命)」を多くの分野で断行(決断&行動)しないと、日本は確実に凋落する。此の危機の日本を救う立場にある最も重要な人物は社長である。社長は自らの地位を活かし、責任を果たす為に「クソ社長」から「ミソ社長」に「変身」せねばならない。此こそが「クソ会社」を「ミソ会社」に変身させる第1歩である。社長は、会社の為、社員の為、そして国の為だけでなく、二度と来ない貴重な自分自身の「人生100年時代」を豊かに生きる為に「本心、本気、本音」で変身するべきである。

●「定年が先の人」が社員ならば?
 此の人物が社員であれば、既存事業だけでなく、新規事業を積極的に企画し、提案し、参画し、成功させる挑戦をするべきである。

社員
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 しかし挑戦しても、自社の現在の社長を含め歴代の社長が「クソ社長」で「クソ会社」でしかない場合、新規事業に挑戦しても「クソ社長」、「クソ役員」、「クソ管理者」に潰されるだろう。そもそも潰される覚悟で挑戦する社員は、今の日本の大会社や中堅会社で何人いるだろうか?

 米国の人事コンサル会社「コーンフェリー」の2021年調査に依ると、日本の会社の社員で「自分自身の仕事への熱意」、「会社に貢献したい情熱」を持つ人物は全体の56%、世界23ケ国中で最低値である。しかも世界平均値68%より12%低い状態が過去10年間全く変わらず続いている。

出典:社員のエンゲージメント
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 同調査では、世界との格差の原因は日本の組織風土(上意下達、年功序列、個人の創意工夫未実現、現場へ権限移譲未達など)に在ると解析している。しかも同じ様に主張する日本の学者が多い。しかし筆者は、その様な原因だけでなく、日本の多くの社員が「人生100年タイムテーブル」が示す「未来」を見定めていないからではないかと考えている。

 さて「日本人材紹介事業協会」の2020年の調査では、41歳以上の転職者数は約1万人。5年前から2倍に増加。20代~30代の転職も増加しているが、41歳以上が最も高い伸び率となり、41歳以上の40歳代と50歳代が全体の大半を占める。転職による年収は40歳代で増加。しかし50歳代で減少に転じ、60歳代で更に減少している。日本の終身雇用や年功序列の慣習は、確実に崩れつつある。一方転職の選択肢は広がり、一般化している。日本は欧米社会の労働慣習と労働環境に近くなってきた。しかし此の事は日本にとって本当に良い事であろうか?

 コーンフェリーの調査に戻るが、日本が世界平均以下であっても、社員の56%は熱意と情熱を持っている事を示している。従って彼らの中から一人でも多くの人が新規事業の企画、提案、参画、挑戦をすれば、「クソ社長」を後退させ、「ミソ社長」を生み出し、「クソ会社」を「ミソ会社」に変身させる事は可能になる。

 此の機会に依り多くの社員に1度だけでも新規事業に挑戦する事を強く薦めたい。もし失敗させられた時は、其の会社を辞めればよい。辞める時は、筆者が本稿で何度か解説した「Live Fish(生きた魚)」の状態で転職すれば、転職をほぼ100%成功させる事ができる。従って辞める事や転職する事を心配せず、クソ社長に潰される事を「覚悟」して、新規事業プロジェクトに挑戦するべきである。それだけの価値があるからだ。

出典:挑戦と成功
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 何故なら、①新規事業プロジェクトは成功する可能性を持つ事、②もし成功すれば、自社だけでなく、自分自身に昇給、昇格、昇進のチャンスが得られ、「経済的充足基盤」の形成と確立に繋がる事、③もし成功すれば、自社のクソ社長を「ミソ社長」に変え、クソ会社を「ミソ会社」に変身(Transformation)させる機会を作り出せる事、④もし失敗しても、その間に獲得した「経験知」は極めて貴重で高い価値を持ち、自分の今後の「人生100年時代」に活かせる事、⑤失敗から得た価値は既存事業の運営(生産、製作、販売など)で獲得した「経験知の価値」の数百倍、数千倍に相当する事、⑥特に大企業や中堅会社に働く社員は、新規事業プロジェクトを企画し、提案し、参画し、その成功に挑戦する事は、個人で新しい会社を興し、その成功に挑戦する時に似た「疑似経験」をする事が出来る事などである。

●「定年が先の人」が社長や社員でないならば?
 此の人物とは、個人事業者の芸術家、タレント、科学者、学生、専業主婦などで「定年制度」が当てはまらない人物の事である。個人事業者は音楽家、画家、彫刻家、小説家、漫画家、俳優、噺家、タレントなどでアート分野やエンタテイメント分野に数多く存在する。また科学者、工学者、各種研究家などは、組織に帰属していても「定年制」の外に存在する場合が多い。学生は高校や大学などを卒業し社会人として働く。専業主婦は家庭を維持する。この種の人物は多種多様で此処で説明し切れない。しかし彼らも何らかの方法で「経済的充足基盤」を形成し、確立させねばならない。

 次号で「定年が先の人」の「精神的充足基盤」の形成について解説する。その後、「定年を迎えた人」と「定年を過ぎた人」についての「経済的充足基盤」と「精神的充足基盤」を解説する。
つづく

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