四角六面 ―― キューブとわたし――
(エルノー・ルービック著、久保陽子訳、(株)光文社、2022年3月30日発行、初版1刷、
259ページ、1,900円+税)
デニマルさん : 7月号
今回紹介の本は、ルービックキューブ発明者の自叙伝である。ルービックキューブの名前をどこかでお聞きになったと思いますが、どうでしょうか。40年前に発売された玩具と云うか、立体(5,6センチ角)のパズルである。全世界で3億5千万個も売れたと云われ、本書では7人に一人が遊んだと紹介されている。40年以上の歳月と類似品や模造品等々を考えると、公表数字の数倍は出回った商品と思われる。著者は、そのルービックキューブの発明から現在に至る過程を振り返って綴っている。この本は某新聞社の図書案内で5月に紹介されたので、未だ世間の話題には上がっていない。しかし、ルービックキューブの過去の話題性等々を考えて、ここで取り上げることにした。余談であるが、筆者が話題の本の原稿をJPMF時代から20年近く連載させて頂いているが、その情報源について幾つか触れてみる。先の新聞社の毎週の図書案内以外に、アマゾンやヤフーでの書籍売上げランキング、出版各社の新書紹介、著名作家の図書紹介ホームページ(例えば、「大極宮」:大沢在昌、京極夏彦、宮部みゆき)からショッピングモール等にある書籍店での図書探索がある。また、過去から毎年発表される芥川・直木賞や本屋大賞等々を含めたニュースもある。その中からPMAJ向けの最良の本を探し出すのだが、それから先の選別は、多少の“配慮”が必要である。さて本題に入ろう。著者は、1944年にハンガリーの首都ブダペストで航空機エンジニアの父と詩人を目指した母の子として生まれた。子供の頃から勉強より種々のバズルに興じていた。大学では建築学を学び、建築学教授となった。1974年の春、何となく「八つの小さな立方体を、2×2×2の形に結合させながらも個々に動かせるよう組み合わせれば面白いだろう」と考えて立体キューブを作成したのがルービックキューブの始まりであると書いている。本書には、世界中のジャーナリストや多くのファンの質問に答えたQ&Aが紹介されてある。
Q:どうやってキューブを発明したのですか?
A:幾何学の問題を前に、どう図に表そうか考え、描いたものがキューブになっていった。
Q:どのくらい時間がかかりましたか?
A:始まりは1974年で、特許を申請したのが翌年1月です。
Q:ご自身のキューブの最高記録は?
A:わかりません。測ったことがないので。
Q:どうしてキューブを発明したのですか?(これは一番イライラする質問だ)
A:想像力を掻き立てる問題に出会い、頭から離れなくなっていた。考え続けた結果がキューブの発明でした。
以上であるが、著者は目立つことを好まない性格だと語っている。だから控え目な発言が多い。しかし、著者の創造的好奇心から生まれたルービックキューブが、世界中の子供から大人まで、多くの人の知的好奇心を刺戟し続けて止まることない。本書は、そのルービックキューブの誕生から爆発的人気の背景等々を著者自身が綴った記録である。
ルービックキューブとは ――世界的な立体パズル――
ルービックキューブをご存知の方は、立方体で多色のパズル形式の物として理解できる。しかし、ルービックキューブを見た事のない人に写真もなく口頭で説明するのは非常に難しい。なぜ難しいのであろうか。単純な物であるが、複雑な動きで六色が色々な組合せとなる。それを前後左右に好きなように動かして、最終的に各面を同色に揃えるパズルだからであろうか。この説明でも不十分で本筋を捉えていない。分かり易くは書名の「四角六面」(立法体の各面が六色、白・黄・青・赤・緑・橙)で各々が3×3=9個の正方形ブロックで構成されている。その9個の四角形ブロックが6面だから全体で54個のブロックとなるのだが、夫々がバラバラの色構成。夫々のブロックが自由に動かされるので、一面同色に揃えるのは非常に難しい。ルービックキューブの基本構造を頭に入れて、ブロックを動かさなければならない。キューブの構成は各面の中央にセンターキューブ(1個)、コーナキューブ(4個)、エッジキューブ(4個)が、6面となっている。その配列組合せ数を数学的に計算すると、4325京2003兆2744億8985万6000通りになると本書にある。この天文学的な数字の知的パズルを、誰でもチャレンジ出来きるのだが、同色に揃えるのは非常に難しい代物である。
ルービックキューブと遊ぶ ――スピードも競えるパズル――
本書のオビ文にルービックキューブの紹介を「遊び心×好奇心×探求心」で「尽きせぬ魅力」とある。筆者も購入してチャレンジしたが、数週間しても6面6色に揃えられていない。ポイントは先ず白色を揃えてから、裏面を黄色にして、他面を中心から揃えるのがコツとある。これが中々難しい。ご興味のある方は、ボケ防止にチャレンジされては如何か。本書を読む以上に好奇心が湧く様に思える。本書の後半にスピードキューバーと世界スピード競技会のことが書かれてある。その最速記録は1982年で22.95秒だが、2018年の世界チャンピョンが3.47秒の世界最高記録があると紹介されてある。数週間しても達成で出来ない老人と3.47秒で達成する人のギャップが面白い。本書はルービックキューブ解説書ではないので、読んでも正解は得られないが、ルービックキューブの不思議な魅力が探れるかもしれない。
ルービックキューブの将来 ――知的想像力を育み続ける――
著者は、ルービックキューブの将来について書いている。「教育に関わっていき、スポーツでの目標はオリンピック」とも語っている。ある脳科学者は、ルービックキューブは脳の若返り(認知機能低下の予防)に役立つと発表している。また専門家は、ルービックキューブと遊ぶ(操作する)ことで、空間的位置関係が意識的に使われるので、脳内の前頭前野が刺激され活性化する。それと指と手を動かしてルービックキューブを操作するので、手先・指先の筋肉が脳全体の活性化を促し、認知機能を向上させるとも指摘している。本書を読んでからルービックキューブをやるのか、その逆が好いのかを考えるのも知的挑戦かも知れない。
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