投稿コーナー
先号   次号

共創する力

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 
 今、新たな研修の企画と提供にチャレンジをしている。元々、会社から独立したらやりたいと思っていた、企業などの組織に直接研修を提供する形態だ。直接提供することができると、研修の組み立て方や、やり方などの自由度が高まる。また、中間マージンを支払わなくていいので、より理想的だ。理想的なのだが、一般的には、独立系の講師は、研修会社に所属したり、研修会社のパートナー講師になったりして、仕事を請け負うケースが多い。自ら研修を売り込むことは、スキルと労力がかかるからだ。

 私もこれまで、独立に備えて、マーケティングなどのセミナーを複数受講してきた。しかし、残念ながら、理屈はわかっても、実践で活用して、仕事を得るのは容易ではない。現在の所属先は人事なので、セミナーなどで知り合った人事の方々は、一定数いることはいる。とは言え、立場上、個人として、研修を売り込むことは、当然のことながらできない。従って、研修を直接提供することができるのが理想的なのだが、実現するのは難しいだろうと、半ばあきらめていた。

 ところが、だ。ある方と、昨年12月に知り合ったことで、一挙に話が盛り上がり、彼の尽力により、計5回の研修を組むことができた。しかも、先日既に、1回目の研修を実施することができた。適切な人と出会って組めば、ハードルを乗り越え、やりたいことを実現できる、ということを改めて実感した。

 マーケティングで有名な神田昌典氏が書いた記事を読んで、その思いを新たにした。日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」の22/4/25号に掲載されている「新たな価値生む二人組の法則 ― 」と題した記事の中で、こう書かれている。「私は、このようなコンビの力を『二人組の法則』と呼んでいる。異なる力を持ったコンビが互いを補完し合うことで、一人では生み出せない大きな価値を生み出すことだ。」

 今回組んでいる方と私は、似たバックグラウンドを持っている。大学の同窓であり、海外赴任を同様に経験している。また、コーチ仲間であり、研修の企画経験があり、人の成長に関わることが二人とも好きだ。あるイベントで一緒のブレークアウトルームになり、こういった共通項があることを知った。だからこそ、「何か一緒にできるのではないか」と思って、私の方からイベントの主催者にお願いをして、繋いでもらった。

 共通項があるからこそ、相手のことを理解しやすいし、話も進みやすい。一方で、違う強みをお互い持っている。私にとっては、彼の以下の3点が、特に魅力的だ。一つ目は、以前在籍していた会社を卒業しており、自由に営業活動ができること、二つ目は、私以上に各種マーケティングやブランディングのセミナーを受講済みで、営業のノウハウがあること、そして、三つ目が、複数のコミュニティに所属し、各種組織の人事と強い人脈を持っていることだ。一方、彼からすると、私が現在グローバルに名が知られている企業で勤務していること、ワークショップを企画提供してきた経験が豊富だということ、そして海外の人々との人脈が豊富なことの三点を魅力的に感じてくれているのだと思う。

 彼とは、研修を提供する企業との事前打ち合わせの際に、対面で初めて会った。打ち合わせの後、お茶を一緒に飲みながら、一回目のワークショップのアイデア出しをした以外は、すべて、オンラインで準備を重ねた。共通項が多いとは言え、お互いの仕事の進め方や価値観はわからないので、手探り状態だった。一人ですべてを準備しファシリテーションをするより、時間がよりかかったのは、間違いない。一瞬「え~、こんなことまでやらないといけないの?」と思うことも、何回かあった。例えば、事前の二人の打ち合わせと、先方との打ち合わせの回数の多さや、ワークショップの流れを各パートの目的も含めて詳細に作成することに対してだ。通常だったら、私は頭の中で流れをシミュレーションするだけで、紙には起こしていない。当日の場の雰囲気に合わせて、柔軟に変えることを重視しているからだ。実際、これまでそのやり方で、うまくできてきた。

 だから、ワークショップの流れを各パートの目的も含めて詳細に作成する作業は、正直、気が進まなかった。「面倒だな。やりたくないな。」という気持ちだった。しかし、彼の立場も理解できる。彼が話をつけてきた話なので、その成果は、彼の信用にも影響する。心配になるのは、当然だ。だから、作業をすることに同意した。手間をかけた結果、他社にも展開し得る成果物になった。また、ワークのアイデア出しも、一人が提案したことに対して、Yes, andの精神でどんどん膨らませていく形になっていたので、準備をしていて、楽しかった。

 ちょっと面倒なことも出てくるかもしれないけれど、ダイバーシティの時代において、新たな可能性の扉を開けてくれる二人組でのコラボレーション、あなたも試してみませんか。

ページトップに戻る