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オンラインでの対話を成功させる力

井上 多恵子 [プロフィール] :5月号

 
 前々回の「オンラインでワークショップを実施するメリット」、前回の「オンラインで繋がりをつくる工夫」に続いて、今回は「オンラインでの対話を成功させる力」を取り上げる。何回か場を創出する中で得た実践知を生かして4月に実施した場は、関係者に評価してもらえる結果になった。その経験を振り返り、成功に寄与した要因「考えうる限りの準備をやり切る」ことについて、考察してみたい。

1.対話の内容と流れを決める
 世界各国で多様な業務に携わるグループ会社のマネジメントを集めた研修の終盤に実施する役員との対話ということで、周囲の期待は極めて高かった。数か月前から準備を始めたものの、関係者の思惑が交錯し、どういう内容と仕立てにするかで二転三転。最終的な構成が決まったのは、本番の二週間前だった。かなり冷や冷やしたが、すり合わせる中で、役員室の考えや期待値を、より理解することに繋がったことは間違いない。
 30名程度の参加者が提出した複数のテーマに関する記述を見ながら、所属や地域の多様性も考慮にいれながら発言者(候補)を提案する過程は、混沌とした。在宅勤務で、自宅のダイニングテーブル上に書類を広げて書類を見比べていると、さながら記憶力が必要な神経衰弱のトランプをしているようだった。最終的には、90分のセッションで、17名を目安に発言をしてもらう形にした。

2.発言の可能性がある人に依頼をして共に準備する
 当日QAが長引くことも想定されたため、「時間が不足したら、スキップする場合もある」という限定条件付きで、依頼せざるを得なかった。準備したにもかかわらず話せないかもしれない人達に依頼メールを書くのは、エネルギーを要した。英語が得意でない方には、事前に話す内容を書いてもらい、私の方で意図が伝わるよう、添削をして戻した。一人ひとりに対して、「前に話す人たちの内容とその方に話してもらいたい視点」を全体の流れを考えて提案する作業を行った。
 発表者5名には、発表内容を準備してもらい、リハも実施した。これは、やって大正解だった。4分間大量の情報をハイスピードで話した方には、「たくさん伝えたいことがあるのはわかりますが、そのスピードで話すと、英語ネイティブではない今回の役員は吸収しきれないリスクがあります。しかも、3分以内が鉄則なので、伝えたいことを絞ってください」とお願いした。時間をおいて再度リハをしたところ、感動もののプレゼンに仕上げてくれた。抽象的な話が多く、「あなた自身がやろうと思うことも伝えてください」と具体化に向けたフィードバックをした方もいた。最終的には、英語ネイティブの方々に対しても、より効果的な伝わり方という観点から改善案を提示した。周りの人たちからは「英語ネイティブに対してもフィードバックできるなんて、さすがですね」と感心された。しかし、私からすると、遠慮せず、聞き手として思うところは伝えるべきと思っている。採用するかしないかは、相手に任せているわけだから。

3.本番の直前に場をつくる
 本番の15分前には、発言の可能性がない人も含めて全員に集まってもらい、本番に臨む準備をした。終わった時に役員にどんな気持ちになってもらいたいのか、そして、そのために我々ができることと、心構えを伝えた。できる限り多くの人に発言してもらいたいから、一人が話しすぎないように時間を意識すること、役員が理解しやすいよう、発言は簡潔、短文、間を意識すること、全員参加の意識で「プレゼンス」(その場への参画)をしてもらうこと、全体の流れ、繋がりを意識してストーリーになるようにすることも伝えた。そして最後は、「これだけ準備したのだから楽しみましょう!」と言って、スタート。この言葉は、ファシリテーターである自分自身に言い聞かせるための言葉でもあった。「これだけ何度も、対話の流れを細部にわたるまでシミュレーションしたから、絶対上手くいく!」

4.ファシリテーターとして、実際の場をリードする
 私はファシリテーターとして、にこやかにいること、発言は必要最低限にすること、時間管理を徹底して1分たりとも終了時間を過ぎないこと、かつ、事前に声をかけていた人にはできるだけ発言してもらえるようにすることを心がけた。結果は、全員が発言。前半発言できなかった方に、後半のパートで話をしてもらうなど、その場で工夫した。長々と話して場を占領する人もおらず、前の話にうまく乗った発言により、全体として流れをつくることもできた。全員が、各自の役割を見事に果たしてくれた。終わった瞬間、同じ部屋の中にいた上司を含む全員から、拍手がおきた。

5.収穫
 充実感と共に帰宅、夜、頭に疲れを感じた。普段使っていない脳の部位をフル活用したからだろう。脳の活性化にもつながり、準備が成功をもたらすという確信を大きな自信と共に得ることができた。

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