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オンライン環境を活かす力 2

井上 多恵子 [プロフィール] :4月号

 
 前回は、「オンラインでワークショップを実施するメリット」について、私が実践を通じて感じた点を紹介した。今回は、「オンライン環境を活かす力 2」として、「オンラインで繋がりをつくる工夫」をいくつか紹介したい。

1.全員参加にするための工夫
 オンラインでは、ある人にスポットライトをあてる機能を使わない限り、力のある人にもない人にも、同じサイズの箱があてがわれる。画面上の位置も、ランダムに決められる。その結果、参加者の間の平等性がより増したと言われている。だからと言って、全員が自然と発言できるようになったわけではない。
 オンライン環境導入初期の頃、参加した大学の同窓会準備の打ち合わせ。移動が不要になり、通常よりも多い10数名もの人数が集まった。そのことは良かったが、打ち合わせ終了時に、オンライン上の平等性のメリットが活かされなかったやり残し感を覚えた。発言が声の大きい一部の人達に限られて、全く発言をしない人たちが複数いたからだ。
 皆が発言できるようにするための工夫として、気軽な場であっても、ファシリテーター役の人を設けることをお薦めしたい。「〇〇について、まずは全員の意見を聞かせてください。お一人ずつ1分程度で話をしてください」とファシリテーターが口火を切る。ご意見番的な人には、最後に発言してもらうと良い。ご意見番的な人に周りの人が同調する傾向があるからだ。内向的な人は外交的な人に比べて、考えをまとめるのに時間がかかる。そこで、内向的な人がいると思う場合には、考えるための時間を1分ほどとってから、発言してもらうと良い。また、発言すること自体にためらう人がいる場合は、チャットに書いてもらうと良い。もし、最初に全員に聞くことが進行上望ましくない場合は、全体を通じて発言をしていない人に、「〇〇さんは、この点についてどう思いますか?」と質問するのもお薦めだ。
 先日ある組織でオンラインでのチームビルディングのセッションを実施した。その組織では、定例会が月二回開催されている。通常は施策の一方通行の進捗報告が中心で、情報過多で消化しきれなくなっている印象は否めない。そこで、このチームビルディングのセッションでは、対話を通じてお互いのことをよく知ることを狙った。関係者で打ち合わせを重ねてやり方を検討して実施した結果、「とても充実していた」といった声が寄せられるなど、好評だった。皆で集まれる時間を大事にするために、フォーマットを統一した自己紹介シートを事前に各自が記入し、少なくとも当日同じチームになる人たちの分は、事前に読んでおいてもらうことにした。自己紹介シートには、これまでの経験、趣味、強みを書いてもらい、自分らしさが表れている写真を貼ってもらった。強みを書けない人がいることも懸念されたが、アピール度合いの差はあれ、皆、何らかの強みを書いており、お互いのことをより知ることに役立った。
 当日は、会の目的を改めて共有した上で、心理的に安全で楽しい場になるよう、セッション中大事にしてもらいたい態度を共有した。最初のチームワークでは、自己紹介シートの内容をもとに、質問したり感想を語り合ったりした。私のチームには、学生時代に野球場でビール販売をしていた人がおり、売り上げをあげるための工夫を教えてもらうことができた。お客様の様子を観察しタイミングを見計らって声をかけるというのは、今の研修の仕事にも役立つ行動で、学びになった。お互いの褒め合いは、自己効力感を増すことにも繋がった。次のワークでは、マインドマップというツールを使った。組織の目標をどう協力して実現できるかについて、アイデアを出し合った。若手にファシリテーター役になってもらい、進行。皆のアイデアが視覚化されていく。はじめてマインドマップを体験した者もおり、楽しそうに参加していた。可視化された絵をそのまま全体で共有することで、他チームのアウトプットとも容易に比較ができた。最後にファシリテーター役の若手にやってみた感想をそれぞれ共有してもらうことで、普段は遠慮しがちな人々に、発言の機会を与えることができた。


 このセッションやそれ以外の機会を通じて実感していることは、内容やお題次第で、オンラインでも、初対面の人でも繋がりをつくることは可能だということだ。例えば、職場の悩み事を話して、お互いに共感したり質問したりアドバイスしたり応援メッセージを贈り合ったりする対話の会。むしろ、初対面の人同士の方が、盛り上がり深く話し合うことができる場合がある。同じ職場や近い職場の人同士に存在しうるしがらみや、力関係を考慮した遠慮が無く、人と問題を分けて、考えやすくなるからだ。
 確実に残ると思われるオンラインでの対話をできるだけ活かすための工夫を今後も続けていきたい。

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