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「きぼう」日本実験棟開発を振り返って (43)
―ソユーズ宇宙船は鉄道で運ぶ?―

PMマイスター 長谷川 義幸 [プロフィール] :6月号

○ ロシアの宇宙船運搬
 今回もロシア話ですが、軽い話題をお話しします。

( 1 ) 地上で100Gもかかる (1)
図1 モスクワとカザフスタン地図  1994年、「シャトル―ミール計画」でNASAの宇宙実験統括、ペギー・ウイットソン女史がモスクワでロシア側と実験機材搭載の調整をしていた時、“アメリカのすべての機材について、100Gの重力に耐えられるかどうか試験するように要求されて、面食らったそうです。「そんなに重力がかかる場所がミールのどこにあるというのだ。宇宙輸送ロケット「プログレス」の発射時でさえ、そんなにかかることはない。」
 すると、ロシア側は、「要求は宇宙とは関係ない。アメリカの実験装置がモスクワからバイコヌール宇宙基地まで運ばれる間に、暖房のきかない車両に積まれる。ロシアのでこぼこの線路を通っても実験装置がお釈迦にならないためなのだ。」と説明。そこでNASAは実験装置を鉄道ではなく、航空機でバイコヌール宇宙基地まで運び、そこで宇宙船に搭載するように手配しました。ちなみにJAXAも実験機材を航空機で運んでいます。

( 2 ) ソユーズ輸送中に損傷うける
 「きぼう」が完成した後、“日本宇宙飛行士が乗るソユーズ宇宙船の輸送中に列車が脱線し、積んであった宇宙船に損傷がでた模様“、との情報がNASAからきました。宇宙船はモスクワに戻して調査して修理するとロシアから連絡があったという。
図2 ソユーズ宇宙船の工場での組み立て風景 (図2は、ソユーズ宇宙船の工場での組み立て風景、出典:エネルギア社HP)

 ソユーズ宇宙船もロケットも、モスクワの工場で組み立てられた後、鉄道でカザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地まで鉄道で運搬されています。およそ4000㎞。もともとは、冷戦の時にミサイルをロシア全土のどこにでも運搬できるように鉄道を建設したものです。しかし、線路を支える枕木が受ける車両荷重を分散させるための砂利、砕石などで構成された道床のメンテナンスが悪く、貨物への走行中の振動はすさまじいものだといわれています。
 その当時は、スペースシャトルが退役することになったので、宇宙飛行士をISSに運ぶ宇宙船は、ロシアのソユーズ宇宙船を使用することとなっていましたが、この作業は、NASAがロシアと契約して行っているので、JAXAはNASA経由で情報を得るしかなく歯がゆい思いをしていました。 ”修理した宇宙船に日本人を乗せたくない“と、NASAには伝えましたが、内心ひやひやして結果を待っていました。
 その後、ロシアが調査し検討した結果がNASA経由で入ってきました。“ロシアは新しく製造している宇宙船を打ち上げに使う決定をした。”
 ほっと胸をなでおろしました。その宇宙船は古川宇宙飛行士が搭乗するものだったのです。

○ 宇宙船輸送はディーゼル機関車 (2)
図3 ロケットを射場に運ぶ気動車  父は、戦時中満州でロシア軍の捕虜となり貨物車両に詰め込まれて今のカザフスタン共和国アルマータにつれていかれました。そして、捕虜収容小屋で数年間、森林伐採や鉄道建設などをやらされたが、なんとか日本に帰国できました。極たまに父はお酒を飲んで機嫌がいい夕食時に、「昨夜までとなりで話をしていた方が、翌日には冷たくなっていた。極寒とわずかな食糧配給の中で生き延びた。」と話をしていました。息子が、若田宇宙飛行士のソユーズでの打ち上げのためカザフスタン共和国のバイコヌールという砂漠草原の地にいくことになった時には父はこの世にはいませんでした。父が苦労したその国で、線路の脇からソユーズ宇宙船を運搬する列車をみました。(図3(出典JAXA))
 旧ソ連時代のディーゼル機関車が宇宙船を搭載したソユーズロケットを整備場から打ち上げ射点まで運搬しているところでした。この機関車は超重量級の貨物輸送用として、旧ソ連諸国の構内貨物入れ換えに現在でも活躍しているディーゼル機関車です。社会主義経済化での無骨な設計テイストがにじみ出ていました。

○ ロシアの宇宙飛行士たちのジンクス (3)
 日本がISSに参加することになってロシアの情報が入手できるようになりましたが、以下は縁起担ぎの話題です。

  1. ①ロシアで史上初の有人宇宙船を開発し、組織作りも成功させたセルゲイ・コリョリョフ氏は、常にジンクスに注意を払っていました。「月曜日には打ち上げない!」ソ連政府は、このジンクスを馬鹿げた考えだとして打ち上げ日を月曜日にも行うことにしました。しかし、ソ連では1年間に11件もの事故が発生したため、1965年から月曜日には打ち上げないことにしました。

  2. ②ロシアの設計者も宇宙飛行士も打ち上げ前にサインをすることは絶対にありませんが、打ち上げ前夜に宿泊したホテルのドアの部屋番号の横にはサインします。日本人宇宙飛行士もサインしていました。このサインを消すと不吉なことが起きるというジンクスがあります。

参考文献
(1) ブライアン・バロー、「ドラゴンフライ!ミール宇宙ステーション・悪夢の真実」、筑摩書房、2000年5月
(2) 塩塚陽介、「大迫力の重量級機関車、東欧鉄道紀行vol.28」、鉄道ジャーナル、2022年2月号
(3) ロシアの声、「ロシアの宇宙飛行士たちのジンクス」、2012/04/10配信

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