グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第163回)
プロジェクト・ポートフォリオマネジメント

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :6月号

 ロシア対ウクライナ紛争は、ロシア軍の侵攻から3か月を過ぎて、いまだ停戦の見通しがたたず、毎日尊い人命が失われ、両国合わせて3兆円(報道から推定)の戦費が毎日費やされている。ウクライナ国ゼレンスキー大統領の直近の発言「2月24日前の状況にまでロシア軍を後退させたら勝利とする」は極めて現実的であるが、なんとも虚しい。
 両国の戦い方はプロジェクトマネジメント的に見ても違いがあるが、今はそれを論じる時ではない。
いつ終結するか分からない戦争状態にはあるが、ウクライナでは、戦後復興に関する構想化もすでに始まっており、人道支援領域と教育支援では、EU諸国からの具体的な支援がかなり進んでいる。そして、国土・産業インフラの復興をどうすべきかという重い課題に関して、世銀グループによる復興資金のRoutingの議論が始まっており、また、国立工科大学のコンソーシアムによる円卓会議による議論が今月から始った。このイニシアティブはIPMA(世界PM協会連盟)が支援し、幹事校2校として筆者所属のキエフ国立建設建築大学と中部のドニエプロペトルフスク総合工大、また、他の主要国立大学のPPM専攻、インフラ工学専攻、経済学専攻の教授達が参加して、これにIPMAのヨーロッパ地区の教授の有志も加わり、今月2回の3時間セッションを終えた。円卓会議であるので、出席者全員が発言する。まずは、ウクライナの戦禍の認識、人道的支援の状況、復興に関わるウクライナの資源と科学的な知見などの点検をやっている。
 円卓会議のナレッジ・リーダーのウクライナPM協会(IPMA所属)長 Sergey Bushuyev 教授からは、復興のプロジェクトマネジメント・ツールとして、IPMA、EUのフレームワークと共に、ウクライナで大きな実績があるP2Mガイドブックが上がっている。


5月22日開催のウクライナ復興支援円卓会議

 さて、今月は、ODA研修でお世話になっている協会の方の紹介で、Gulf Downstream Association という中東湾岸諸国の石油企業を中心に結成されたインスティチュート主催の「戦略の実施とプロジェクト・ポートフォリオマネジメントの関係」という大変興味深いWebinarに参加した。パネリストの話題提供的なレクチャーと実践経験の共有、ならびに参加者との質疑応答の100分であったが、演題に精通している4名のパネリストと演題への臨場感が乏しい参加者の認識ギャップも目立った。
 ちなみにSaudi ARAMCO社を核とするPMI Gulf Chapter は、南アフリカ、西オーストラリアと並んでPMIの1980年代からの拠点であり、今回のWebinarの対象もほぼPMI会員である。
 企業戦略に、投資の期待収益のグレードと、技術的難易度あるいは投入資源の必要度を判断軸の2つをマトリックスとして、4つのドメインでプロジェクトの優先順位を決めるポートフォリオマネジメントを関連付けるのは、投資案件が多い商社、ファンド、資源企業、ハイテク企業に極めて有益であるが、請負でプロジェクトを行うコントラクター企業やIT Vendorにはいまひとつピンとこないであろう。
 日本では、プログラムマネジメントまでは多少の認識ができたが、プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPPM, 3PMと略称される)は殆ど議論されることがない。しかし、製薬産業ではパイプラインマネジメントとして定着しているし、自動車産業や家電産業でも新製品候補のポートフォリオはあるが、収益性と投入資源の分析をどの程度理論とおり実施するかの問題であろう。 🤍🤍🤍

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