理事長コーナー
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名も無き家事・名も無き変化

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :4月号

 最近、リモート勤務で在宅の時間が多くなったのをきっかけに、家事を手伝う機会が増えてきました。(積極的にそうなったわけではありませんが・・・・。)
 そこで気が付いたのが、「家事」という一言でくくられている作業のバリエーションの多さです。炊事・洗濯・掃除という大きなカテゴリーでくくられていますが、炊事には買い物があり、大きな買い物の場合には運んでもらう手配をしたり、使った調理器具を洗ったり・・・。
 そんなことを思いながらインターネットを検索していたら、最近、「名も無き家事」というテーマが、SNSで大きな話題になっていることを知りました。
 きっかけは、2019年9月に、コピーライター梅田悟司氏による「やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。」という本だそうです。著者が育休中に体験した名もなき家事をリストアップしたら120種もあがり、そのうち70種に命名をしたと言います。
 そもそも、この「名もなき家事」という概念は、2016年に大和ハウス工業の住宅事業推進部課長、多田綾子氏が提唱したもので、共働きの家族が暮らしやすい家を提案、販売するため、家事の定義を検討したことがきっかけだったそうです。
 たとえば、SNSで話題になっている「名もなき家事」のいくつかを紹介すると、
 ・食器を水につける/・電球の交換/・トイレットペーパーの芯を捨てる/・ペットボトルを分別して捨てる/・扇風機を片付ける/・古紙回収に出す などが並んでいます。
 COVID-19の影響でリモートワーク、オンライン会議が増えた最近では、
 ・ネットワークがつながらない原因を調べる/・ZOOMのバージョンアップを実施する/・アマゾンの置配の設定を変更する/・Wi-Fiルーターの充電をする/・電池がなくなったので買いに走る・・・・ など、「名も無き家事」にも環境変化に伴う「名も無き変化」が起きているように感じます。

 プロジェクトマネジメントは「変化」への対応手段だと言われます。そのため、企業活動の大きな変化である「新商品開発」や「工場の新設」などには、プロジェクトマネジメントが有効だと言われています。一方、販売活動、生産活動など継続的、繰り返し行われる業務は「定常業務」と位置付けられ、プロジェクトマネジメントの対象ではないと言われてきました。
 ところが、この「定常業務」の中にも、大きな「名もなき変化」が起きているのが今の状況ではないでしょうか。COVID-19による突然の業務形態の変化への対応、戦争や自然災害によるサプライチェーンの切断対応など、もはや「定常業務は継続的・繰り返し行われる業務」、と言う認識では済まされないようになってきています。それこそが、VUCA※の時代と呼ばれる所以なのかもしれません。
 (※ : V(Volatility : 変動性)、U(Uncertainty : 不確実性)、C(Complexity : 複雑性)、A(Ambiguity : 曖昧性))
 P2Mはもともと組織全体でプロジェクトマネジメント的に運営する前提で体系化されています。システムプロジェクトという「構築」を実施した後の、「運用」の部分もサービスプロジェクトと位置付け、「構想」段階のスキームプロジェクトと合わせて3Sモデルで、変化への対応をマネジメントしつつ組織のミッションを実現して行こうという体系になっています。
 現代のような、大きな「名もなき変化」、というより、「名もなき劇変」が多発する時代には、やはり組織体全体でプロジェクトマネジメント的経営を実践する必要があるのではないでしょうか。改めて、P2Mという体系のノウハウを、「名もなき劇変」に振り回されている多くの組織の方々に届けたい、と感じる今日この頃です。

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