今月のひとこと
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 ウォーターフォール梅花図 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :3月号

 今年の開花は平年並なのだそうです。遅いように感じるのは、昨年の開花が早かったからでしょうか。この平年並というのは過去30年の平均だそうですが、開花に関していえば、平年よりも早めの年が多かったように思います。気のせいでしょうか。1年のうちのほんの数日ですが、街のそこここで薄紅色が溢れる景色はいいものです。今年も待ち遠しいですね。

 遅ればせながら、編集子宅では韓国ドラマ・中国ドラマがブームを迎え、配信サイトをとおして全70話とか80話といった長編ドラマが朝から晩まで流れています。特に中国の俳優の衣装はきらびやかで、偶に目にするだけでストーリーが分からなくても美しい画像を楽しむことができます。
 先日視たのは、韓国の宮廷ものでした。王様の命令でヒロインの女流絵師が梅の花を描いていました。梅花図といって、おめでたい図柄だそうです。ヒロインは最初に太さが異なる10数本の線を、バラバラな向きで描きました。長さもバラバラで、10センチから30センチぐらいと様々です。次に線が書かれていない白い箇所に、薄い紅色をさしていきました。ところどころに濃い紅色を重ねていくと、見事な紅梅の絵が完成しました。王様の目の前で描くのですから、長い時間をかけてはいないはずです。
 何世紀も昔の宮廷絵師の技を推測すると次のようなことでしょうか。
  1. ①描こうとする梅花図の全体を頭の中に描く。
  2. ②それを色別に紙に転写していく。
  3. ③このとき、濃淡をつけるために塗り重ねる以外に絵が重なることはない。
 編集子がもし梅花図を描くとしても、書き始める前に全体を構想することがまずできません。絵が重ならないように描かねばならないのですから、取り敢えず前景にある梅を描いて、次にその後ろにある梅を描くといった手順を踏もうとするでしょう。全体のバランスを調整しながら、梅の花やら枝を増やしていきます。ここまで想像してきて、できるところから手をつけて行くというところはアジャイルの進め方だなとふと思いました。
 さらに、宮廷絵師の進め方は最初に全体を設計するのですからウォーターフォールではないかと思いました。修行をとおして身に付けた高いスキルがあれば、ウォーターフォールを採用しても格段に速く、満足度の高い仕事をすることがあるというのは面白いですね。一瞬の間に計画・設計を済ませ、無駄なく製造するのです。
 もちろん、それぞれのやり方をアジャイルやウォーターフォールになぞらえたらというだけの話ですが、宮廷絵師の仕事の進め方に何かのヒントがあるように思えてなりません。滅多に見ない韓国ドラマの毒気にあてられて錯覚したのでしょうか。
以上

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