グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第161回)
学び・学びほぐし・学び直し (Learn-Unlearn-Relearn)

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :2月号

 昨年12月から1月にかけて、「人間は学びを止めたときに成長が止まる」という趣旨の講義や大会に講師として関わった。
 VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)やDisruption(技術、諸事の非連続性)の世界にあって、 各自がこれまで蓄積した知識やスキルだけでは、世のなかを渡っていけない、という警告がビジネス界で盛んに出ている。
 12月に、客員所属する公立大学の大学院で、哲学・美学専攻の教授の要請で、「知の理論」(TOK)の一コマ講義を、特論として担当した。知の理論は、日本国内の高校の一部がすでに採用を開始した、国際バカロレア(International Baccalaureate)教育の中核となる理論で、哲学を現代に応用し、真実は何か、なぜか、本当か、自分のやったことは間違いではなかったか(自省)を常に行いながら学習を進める方法である。知の理論での基本的な認識は、人間は学びを止めると成長が止まる、ということである。筆者が担当したのは、フロネシス(実践知、Phronesis) と知の融合、さらにはこれを踏まえた創造的なプロジェクト・デザインというテーマであった。
 それから1週間後にインド発のWPMF選抜世界大会でVIP筆頭として、4回、講演やパネリストを担当したが、大会の副タイトルは、Learn-Unlearn-Lean again であった。Unlearn とは、日本語で、「学びほぐし」、と分かりにくい訳が使われているが、自分が蓄積した知識のうち、環境依存の知識はいったん解放する、という意味である。環境依存であるので、環境が変わったら持っている知識は役に立たなくなるから、学びほぐしをして、学び直しを行う必要がある、という教えである。
 筆者について言えば、ヨーロッパの大学院で、修士課程生にグローバル・プロジェクトマネジメント論を教えていた2010年代の前半は、グローバル・エンジニアリング業界で蓄えた知識と国際大会で発表していた産業リサーチの成果で、問題なく教えられたが、2006年から博士課程生の指導教授を仰せつかってからは、これらの知識がほとんど役に立たなくなり、約2年間、学としてのプロジェクトマネジメント論の集中的な学習を強いられた。博士課程生を教えながらの必至の学習であり、薄氷を踏む思いであった。つまり、実務家のプロジェクトマネジメントは、プロセス知識や若干の応用工学系の知識があれば教えることができるのであるが、学問としてのPM学は社会科学の一部で、論じ方が大きく異なるのである。学理の基本は応用心理学(マネジメント・サイエンスの源流)、社会学、そして簡単な経済学である。このことは、PM博士課程に入学してくる多くの社会人学生が間違うところで、実務でプロ意識が強い米国の学生などは、パラダイムの切り替えができずに、なかなか研究が進まない。あるいは、指導教授の教えを守らず、アカデミックPM文献ではなく、PMIの大会論文や出版物だけで理論構成を行い、最終テストで不可をくらう、ことが起こった。
 近年、プロジェクトマネジメント界の変化が顕著となっているが・・・例えばハード系プロジェクトの相対的な割合の低下、在来のPM知識がほとんど役に立たないイノベーション・プロジェクトの増大など・・・プロジェクトマネジメントの関係者の学びほぐし、は進んでいない。

 今年は、1月17日の学部生向けの未来社会論の特論講義で始まった。主担当の教授はAIR論を中心にテクノロジーがもたらす未来について講じ、私の一コマは、日本の未来を世界から見た視点と、あるべき未来と現実の間にまたがるギャップの解説が主で、素直な学部1年生や2年生との議論が大変弾んだ。
 今は、一財 海外産業人材育成協会(AOTS)主催の、途上国9か国からの企業管理職者向けのオンライン・ライブ研修を実施中である。真夜中の午前1時から4時という時間に受講しているメキシコの研修生も4名いる。研修内容も、もちろん、現下の状況にあった内容に更新してあるが、受講生はまさに、Learning again を目的に研修に参加している。
 昨年から、時差が大きく異なる国の研修参加者間でチームを3から4チーム組んで、ブレークアウト・小ワークショップを盛んにやっているが、研修生のオンラインスキルは、概してかなり上がり、オンライン研修が定着した感を持った。 🤍🤍🤍

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