PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (136) (課題解決と問題解決)

向後 忠明 [プロフィール] :2月号

 プロジェクトの実施中には様々な問題が発生します。例えば顧客の考えが明確でないため話を進めることができない、またはプロジェクト実施中においてトラブルが発生し混乱が起こり仕事を前へ進めることができない等があります。
 このような場合どうしたらよいのか迷うものです。これらを解決する方法や手法に関する書籍が多く出版されています。しかし、その方法や手法にも課題となる対象によって使えるものとそうでないものもあります。
 ところで物事を解決する方法については多くの書籍があるが、そこには問題解決という用語が多用されています。
 しかし、「問題解決」はマイナスの影響があるものをなくすことに重点があり、「課題解決」はプラス成長をするために処理しなければならない問題を片付けることに重点を置いている違いがあります。
 今回はイノベーションについての話となるので前向きな事柄に関する課題について話をしていきます。
 なお、課題にも事業を取り巻く環境条件によりそれぞれ異なった種類があり、大きなものから小さなものまでありますが、例えば顧客の不確定な要件への対応や先月号でも述べた下記に示すような大きな課題を俯瞰してながめ解決策を練るもの、そしてプロジェクト実行中での問題の解決、すなわちトラブルシューティング的なものがあります。
 このトラブルシューティングについても目的は違うがその方法には課題解決とそれほど大きな違いはありませんので本件は別の機会に話します。

  1. ①確実に見通せるソリューション(技術革新などの方向の見えるトレンド)
  2. ②ほかの可能性のあるソリューション(現状からの脱皮、多様性への対応)
  3. ③可能性の範囲が見える将来(新規技術による既存業務のイノベーション)

 今回の話は主に上記のテーマについての課題解決について、その方法論について述べていきたいと思います。
 本題に入る前に日本の置かれている現状を簡単に述べてから上記の3項目の課題の解決がどうして必要か、そして日本の現状はどうなっているかについて考察してみたいと思います。
 まず、日本のGDPは世界でアメリカ、中国1,2,3位を争ってはいますが、この人口の少ない状況でよく頑張っています。GDPは当然国の規模が大きければ大きいほど、そして経済成長が大きいほど大きくなるのは誰でもわかっています。
 しかし、日本の場合は奇跡の成長と言われた時代の遺産に油断をした結果、経済界での挑戦心が失われリスクを恐れ「失敗した場合に備えた内部留保だけ増加させ、研究開発や新しい技術への挑戦にあまり投資をしなくなり、イノベーションが進まなくなり、生産性も他の国に比べ低くなってしまっています。
 一方、日本の人口減少は経済に影響することが確実となっていますが、これも中国も同じであるが、日本も同じ運命をたどることになると思います。
 このままだと人口一人当たりのGDPも2030年後半では韓国にも抜かれるという情報もあります。
 ちなみに、現在の世界での生産性比較では韓国12位、中国15位に対して日本は28位といったとんでもない順位となっています。GDP が世界3位と言って何となく「微笑みの国、安心安全な国、そして金持ちの国」と言われ、国民が「ゆでガエル」状態になっている中、中国にはGDP2位の座を奪われ3位となりこの先2030年ころはインドにも追い抜かれるという予測もあり、この先どうなるかわからないといった危惧もあります。
 
 そこで考えていかなければならないのは、人口減少による経済の落ち込みを防ぐためには生産性の向上を図る必要があり、上記に示すイノベーション(社会課題について技術を通して解決するといった技術革新)が必要であるということです。すなわち、新たなプロジェクトの発生です。我々プロジェクトマネジメントを志す者は技術革新、新規技術による既存業務のイノベーションによる現状からの脱皮といったものがこれからの日本にとって重要な課題解決の手段と考えなければなりません。
 
 生産性向上を図る方法はシンプルであり、分母となる労働投入量の効率化を図るか、分子の付加価値を増やし競争力や新たな稼ぎとなる糧を作るかの二択です。つまり、たくさん稼いで成果をあげるか、人口減少に対応する人や労働時間を減らす方法によるしかありません。
 
 すなわち、労働投入量を少なくしたうえで付加価値を高められれば、生産性が高くなることは周知のことです。例えば、付加価値化は一例として技術革新や技術開発そして社会的事業では地域活性化などがあります、また、SDGsに代表されるようなバイオ産業、フリーエナジー、低炭酸ガス排出規制等にかかわる新規事業の開発等で新しいマーケットへの進出で企業活動に付加価値をつけるといったものがその一例と思われます。
 
 一方の生産性の基盤を支える分母となる労働力が日本においては将来大きく減少していくことが予測されていることを考えると人の手を煩わせずに生産性を向上させる仕組みを構築する必要があります。例えばデジタル化が進む社会においては、IT技術の活用も必要不可欠です。設備産業などでは、RPA(Robotic Process Automation)やAI、IOTなどで作業を自動化することが可能です。マニュアルや各種データをクラウド上にアップして検索性を上げ、IT技術による作業効率の近代化によって、これまで人によって行われた作業が一瞬で終わるようにすれば、その分従業員は人にしかできないコア業務に集中でき、生産性を高められます。昨今のDX、SDGsなど政府を含め、全産業に求められるイノベーションは待ったなしであるが、「何をどうしたらよいか」で行き詰ってしまうケースが多いようです。
 
 さて、このようにプロジェクトを取り巻く環境の中で、我々プロジェクトマネジメントを職務とする人にとってはどのような位置づけでイノベーション、すなわち生産性向上に貢献できるのでしょうか?
 
 イノベーションは企業の変革を伴うものであり、企業戦略にかかわる部分が多く、市場、人、組織に関する状況変化を展望し中長期的視点で企業のあるべき姿をデザインすることです。すなわち経営企画室や経営戦略室の仕事であり、我々プロジェクトマネジメントを行う者の使命は顧客または自社の企画室等がデザインした基本計画をある手順にてプロジェクト化し、そこに示された目標を達成することにあります。
 
 経営企画室や経営戦略室の仕事は経営目標や経営戦略の立案を行い、推進する仕事で、経営者の方針に沿った課題を形にし、従業員に動いてもらうための目標を設定する仕事と思われます。しかし、実際はコンサルティング会社に委託し、立案~設定の作業は彼らがやることが多いようです。
 
 コンサルタントの職務はどちらかというと、未来に向けて顧客または自社組織の課題や夢実現を助けるといった、全く見えない将来(シナリオを描くこともおぼつかないソリューション)を対象にした仕事を対象にしていると思われます。
 役務も多岐にわたりその内容も経営課題に対するコンサル業務と思われるが役務類型においてはP2Mのスキームモデルと重なる部分もあるように感じます。
 しかし、我々のプロジェクトマネジメントの役務の基本は顧客の問題や夢実現ではなく、その結果としての顧客の思いをさらに具体化し、プロジェクト化し、そしてプロジェクト計画を立てそれに従って組織の目的や目標を達成することにあります。

 このように若干コンサルタントの役務と重複する部分もあるが、我々の仕事は「何をどうするか?」の「何を」は組織に責任を持つ人たちが想起し、そこから派生する課題を具体的に「どうするのか?」を事実や情報に基づき論理的に自分の頭で推論し、論理的に課題をシナリオ化し、その結果を提案書(マスタープラン)に纏め、実現化することにあります。

 このように、これからのプロジェクトマネジメントを志す者は課題解決型マネジメントやそこから実行面で派生する問題解決をする能力を持つことが必要となってきています。

 次月号はこの続きになります。

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