PMプロの知恵コーナー
先号   次号

ゼネラルなプロ (135)

向後 忠明 [プロフィール] :1月号

 経済・社会が複雑で変化の激しい環境下で顧客や経営層からのイノベーション変革要請に応えるには「どのようにしたらよいのか?」また、顧客からの不確定で曖昧な要求でプロジェクトの請負側も困惑してしまう状況下でのプロマネのあり方が「これでよいのか?」と思うようになりました。
 すなわち、顧客の問題意識、願望、思いに対して請負側はどのようにして具体的に対応していけばよいのか?このため、プロジェクトの使命や目的を「見える化」することが必要と思うようになりました。
 このようなことから、「ゼネラルなプロ」の定義を「プロジェクトを取り巻く環境変化を考え、いかなる状況においても、またどのような多義性、拡張性、複雑性及び不確実性にも対応できる能力」のあるプロフェショナル人材としました。
 もちろん、そのためにはどのような組織や分野においても柔軟に状況に対応できるリーダとしての資質というものも必要になります。
 このように考えると、PMAJの推奨しているP2Mを構成するスキームモデル、システムモデル、サービスモデルの3構成のうちこれからのPMに最も必要な知識体系はスキームモデルであると筆者は考えます。
 よくプロジェクト要件が不明瞭だと言ってそれをプロジェクト失敗の要因としていると聞きますが、プロジェクト創出といった上流側の作業を顧客と共にやっていくといった発想がなかったからだと思います。
 P2Mのスキームモデルの部分がプロジェクトマネジャのこれから持つべき能力の一つと考えました。
 また、この種のプロジェクトでの手法としてアジャイルといった言葉が良く聞かれるがこれも今のところは言葉倒れで終わっているのも残念です。
 なぜならアジャイルはトライアルアンドエラーで開発が行われる手法で主にIT業界に多く利用される手法であり、顧客とともに不確定な要件を共創にて具現化する手法と言われています。銀行システムの場合、検収方法は殆どの仕事が完了してからの支払いと言う習慣があるようですがこのような場合はアジャイル方式も良いですが、そのほかはどうでしょうか?
 そのほかのプロジェクトは必ずしもそうではないケースが多いです。いずれにしてもこの方法は顧客または請負側がそれなりの決定権を持ってリスクテーカーとなって物事を判断し、決めるということが必須であり、そうでないと仕事が先に進まなくなる可能性もあります。
 日経コンピュータの研修にてある顧客が次のようなことを言っていました。
 IoT導入を考え「日本のベンダーと接触してきたが結局は日本のベンダーに依頼することをやめた」ということでした。
 その理由はIoT導入のようなプロジェクトには要件定義を積み重ねてシステムを開発するスタイルは適していない。要するにスピード感がないということでした。
 トライアンドエラーを繰り返して開発する体制をサポートできる企業を探し、結局米国のITベンダーと契約することになったようです。
 IoTやAIといったプロジェクトのほとんどはシステム開発に入る前は要件が決まっていないことが多いことが理由のようでした。
 これからのプロジェクトマネジャはこの実例からも、顧客と共に一緒にプロジェクトを創出していくといった能力が必要になると思えます。

 特に昨今はDX、SDGsという言葉が多く語られているが、企業に求める使命として、これまでのような業務運営方式では対応が難しい、時代の要請である複合課題や複雑系課題に挑戦しなければ企業のゴーイングコンサーン(企業の持続性)は守れない環境となってきています。
 使命の意味にも大きく2つがあり、その一つは具体的要件のある使命ともう一つは具体的要件の無い使命があります。
 前者はPMBOKの範疇にてマネジメントできるが、後者はまさにイノベーションを求める使命、すなわちプロジェクト創出といった上流側の作業が必要なものと考えられます。
 しかし、プロジェクト創出と言っても下記に示すように求められるソリューション要件に含まれる不確実性よってその課題解決の方法も変わります。

  1. ①確実に見通せるソリューション(技術革新などの方向の見えるトレンド)
  2. ②ほかの可能性のあるソリューション(現状からの脱皮、多様性への対応)
  3. ③可能性の範囲が見える将来(新規技術による既存業務のイノベーション)
  4. ④全く見えない将来(シナリオを描くこともおぼつかないソリューション)

 「イノベーションの創出を目的とし、新しい技術や手法を取り入れながら事業を行う企業・組織が、持続発展のために、技術を含めて総合的に経営管理を行い、経済的価値を創出していくための戦略・決定・実行するものである。」
 これはMOT(Management of Technology)として定義されているものですが、P2Mの求める「不確実性」すなわち未知の情報、未確定な技術、予測不可能な環境下での価値創造事業と同義語になります。
 上記の①~③はP2Mでも対応可能なソリューションであり、大まかな技術の特性と取り巻く市場そして自社を取り巻く環境を考えた論理的思考により解決できるソリューションです。
 ④は変化の範囲もよくわからなくシナリオを描くことすらおぼつかない状況でいわゆる混とんとした状況のソリューションであり、例えば市場のメインプレーヤーが平気で入れ替わるような状態の場合です。
 この部分は正にデザイン思考に基づく新たな発想による事業創出に必要な考え方と思います。
 いずれにしても、このためには発想力、認知力、創意工夫、知恵、判断力そして段取り力といった知識や経験を土台とした人間的特性の発揮も必要となります。
 筆者としては「ゼネラルなプロ」に求める人材像は①~③のソリューション能力を持つことを期待して、多くのプロマネがこの域に達することを望み、実践を含めて具体的事例を含めこれからのプロマネのあるべき道について述べてきたつもりです。
 筆者自身もまだこの域には達していませんが、これからもできうる限りPMAJより与えられたPMマイスターに恥じない活動をしていきたいと思います。

 ところでPMマイスターとはプロジェクトマネジメントの定義からいうと筆者自身もその定義がわかりませんが、たぶんこれまで15年にわたって「ゼネラルなプロ」で述べてきた人材を意味すると思っています。
 ある会社では前者に相当する能力を持ち多くの海外でのビッグプロジェクトに成功し、会社の社長になったが一年も待たないで消えてしまった人もいます。この人はプロジェクトマネジメント能力には秀でていたが④の定義への対応に必要な経営者として新たな発想による事業創出すなわち経営戦略にかかわる能力に欠けていたことが原因と考えられる。

 また、優秀な成績で通常業務を行い、将来役員として標榜されていた人がこの会社が投資したあるビッグプロジェクトのプログラムダイレクターとして派遣されたが、失敗したケースもある。
 このケースはプロジェクトマネジメント知識体系に準ずる経験などを通しての「特定使命型事業を適切にマネジメントすることができる」といった実務能力に問題があった為と考えらます。

 読者諸氏の中にも「ゼネラルなプロ」になるには相当の業務遂行上での経験、知識そして組織をうまくマネージできる人間力(資質や行動特性)といった、総合的統率力を待った人材でなければ簡単に到達する域にはなれないと思っている人も多いでしょう。
 このように言っている筆者もPMマイスターといった称号を与えられているが、その域に達しているか?まだ「論語読みの論語知らず」の域と思っています。
 ここから少しPMAJの推奨するP2Mについて簡単に述べてみます。なぜなら「特定使命型事業を適切にマネジメントすることができる」能力が必要と思われる内容のことがここに定義されているような気がします。

 プロジェクトの実施中には様々な問題が発生します。例えば顧客の考えが明確でない、またはプロジェクト実施中でのトラブルが発生する等の問題等々があります。
 このような場合で使える手法(フレームワーク)にはどのようなものがあり、どのような場合に利用するのかについて来月号から話をしていきます。

ページトップに戻る